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7章 放火事件
65話 児童福祉司にできること
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「誰か来た!」
姉さんは口の前に人差し指を立てて、静かにする様に合図した。
言われるまで気が付かなかったけど、かなり早いペースでこちらに近付いてくる足音が聞こえる。
こんな廃校に用がある人間は僕達が目的である以外には考えられない。
「こんにちは」
果物ナイフを鞘から抜き、かなり警戒している様だった。
「お前、私をハメたのか……」
僕が連れてきたのだと誤解されている。
「違う……そんな事はしない」
一気に信用が崩れたかのように睨みつけられているのが分かった。
「颯太、この子が結菜ちゃん?」
そう聞かれて顔を確認すると、よく知っている人物で、かなり驚く。
「彼は何も知らないし、あなたを騙していた訳ではないわ……。
今起こっている連続放火事件は、私の親友だった未祐とあなたの母親である沙綾香さんが亡くなった時の様子に類似していたの。
燃やされたのは、家庭に問題を抱えている家ばかりだとニュースで聞いたわ……。
結菜ちゃんに話を聞きたかったのに、あなたは施設を抜け出して行方不明……」
僕達の前に現れた彼女は状況を順に説明し始めた。
「どうして、真央さんがここに?」
誠の母親である。
「詳しい事は分からなかったけど、あの洞窟で颯太が刺された時に何かあったんじゃないかと……。
目覚めたら、行方不明だった結菜ちゃんを探し出すんじゃないかと思って監視していた。
どうやら当たりだった様だね……」
姉さんは彼女を睨みつけたまま黙っていた。
「結菜ちゃん、自己紹介が遅れたわね。
私は児童福祉司の川島真央です」
児童福祉司?
母さんの親友でもあった彼女には昔からお世話になっていたけど、どんな仕事をしていたのかは聞いた事がなかった。
「まずは、結菜ちゃんに謝らせて欲しい。
あなたの家にも行ったし、お母さんの沙綾香さんとも何度も面談をした……。
でも、何もできないままこんな事になってしまって本当にごめんなさい」
いったいどう言う事なのだろう?
「真央さんはいつからこんな事を知っていたの?」
おそらくは放火事件の事も全部知っているのだろう。
「あの火事が起こった時、私の責任だと思った。
直接的な原因は沙綾香さんのタバコだと報じられていたけど、問題を解決できなかったからこんな事になってしまったんだと……。
どんな手段を使ってでもあなたを保護し、彼女の病気としっかり向き合うべきだった……。
そういう意味では、未祐と沙綾香さんを殺したのは私……」
姉さんと沙綾香さんの親子問題を担当していたのが真央さんだったのか……。
だから火事の事を詳しく知っていたし、その後の連続放火事件も独自に調べていたのだろう。
虐待がエスカレートして、危険を感じた涼香ちゃんが放火した事は僕が刺された事件が起こるまで知らなかった様だ。
火事が起こってしまったのは親子問題を解決できなかった真央さんが全て悪いのだと自分を責めていたんだと思う。
火事の後、担当を外されたのかあるいは責任を感じて自身で外れる事を選んだのか……どちらにせよ彼女が姉さんと初対面だと言う事は先ほどの会話からも分かる。
「そうか……あの時部屋に来て保護責任者遺棄とか就学義務違反と正論だけ述べて、何もしてくれないまま帰ってしまったのはあなただったのね?
その後、私がどんなに辛い目にあったか知っている?」
真央さんはしばらく黙って考えている様だった。
「ああ、すまなかったと思っている……。
自分に力がなくて何もできなかった事は私の責任だし、ずっと謝りたいと思っていた……」
そんな謝罪を求めている訳ではないと言った様子で彼女を睨みつけ、涙を流している。
「あなたのせいで、私と言う人間はもう死んでしまった!
親との関係で苦しんでいる子供は沢山いるし、彼等は助けを必要としている。
何もできないと言うのなら、もう放っておいて!
中途半端な行動は期待させるだけで、邪魔以外の何ものでもない……」
これでも頑張っているんだと言う言葉だけでは何も変わらないし、納得もできないのだと思う。
姉さんは口の前に人差し指を立てて、静かにする様に合図した。
言われるまで気が付かなかったけど、かなり早いペースでこちらに近付いてくる足音が聞こえる。
こんな廃校に用がある人間は僕達が目的である以外には考えられない。
「こんにちは」
果物ナイフを鞘から抜き、かなり警戒している様だった。
「お前、私をハメたのか……」
僕が連れてきたのだと誤解されている。
「違う……そんな事はしない」
一気に信用が崩れたかのように睨みつけられているのが分かった。
「颯太、この子が結菜ちゃん?」
そう聞かれて顔を確認すると、よく知っている人物で、かなり驚く。
「彼は何も知らないし、あなたを騙していた訳ではないわ……。
今起こっている連続放火事件は、私の親友だった未祐とあなたの母親である沙綾香さんが亡くなった時の様子に類似していたの。
燃やされたのは、家庭に問題を抱えている家ばかりだとニュースで聞いたわ……。
結菜ちゃんに話を聞きたかったのに、あなたは施設を抜け出して行方不明……」
僕達の前に現れた彼女は状況を順に説明し始めた。
「どうして、真央さんがここに?」
誠の母親である。
「詳しい事は分からなかったけど、あの洞窟で颯太が刺された時に何かあったんじゃないかと……。
目覚めたら、行方不明だった結菜ちゃんを探し出すんじゃないかと思って監視していた。
どうやら当たりだった様だね……」
姉さんは彼女を睨みつけたまま黙っていた。
「結菜ちゃん、自己紹介が遅れたわね。
私は児童福祉司の川島真央です」
児童福祉司?
母さんの親友でもあった彼女には昔からお世話になっていたけど、どんな仕事をしていたのかは聞いた事がなかった。
「まずは、結菜ちゃんに謝らせて欲しい。
あなたの家にも行ったし、お母さんの沙綾香さんとも何度も面談をした……。
でも、何もできないままこんな事になってしまって本当にごめんなさい」
いったいどう言う事なのだろう?
「真央さんはいつからこんな事を知っていたの?」
おそらくは放火事件の事も全部知っているのだろう。
「あの火事が起こった時、私の責任だと思った。
直接的な原因は沙綾香さんのタバコだと報じられていたけど、問題を解決できなかったからこんな事になってしまったんだと……。
どんな手段を使ってでもあなたを保護し、彼女の病気としっかり向き合うべきだった……。
そういう意味では、未祐と沙綾香さんを殺したのは私……」
姉さんと沙綾香さんの親子問題を担当していたのが真央さんだったのか……。
だから火事の事を詳しく知っていたし、その後の連続放火事件も独自に調べていたのだろう。
虐待がエスカレートして、危険を感じた涼香ちゃんが放火した事は僕が刺された事件が起こるまで知らなかった様だ。
火事が起こってしまったのは親子問題を解決できなかった真央さんが全て悪いのだと自分を責めていたんだと思う。
火事の後、担当を外されたのかあるいは責任を感じて自身で外れる事を選んだのか……どちらにせよ彼女が姉さんと初対面だと言う事は先ほどの会話からも分かる。
「そうか……あの時部屋に来て保護責任者遺棄とか就学義務違反と正論だけ述べて、何もしてくれないまま帰ってしまったのはあなただったのね?
その後、私がどんなに辛い目にあったか知っている?」
真央さんはしばらく黙って考えている様だった。
「ああ、すまなかったと思っている……。
自分に力がなくて何もできなかった事は私の責任だし、ずっと謝りたいと思っていた……」
そんな謝罪を求めている訳ではないと言った様子で彼女を睨みつけ、涙を流している。
「あなたのせいで、私と言う人間はもう死んでしまった!
親との関係で苦しんでいる子供は沢山いるし、彼等は助けを必要としている。
何もできないと言うのなら、もう放っておいて!
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