孤独の恩送り

西岡咲貴

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7章 放火事件

64話 同じ状況の子を作らない為の少年法

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「あの耐えがたい痛み……。
 ママに愛されない苦しみ……。
 今もそんな助けを必要としている子供達が沢山居るのに、自分の幸せなんか関係ないよ……」

 拳を握ったり開いたりしながらこちらを睨みつけている。

「自分の幸せなんか」という言葉で片付ける事ができてしまえるのなら、心は既に壊れてしまっているのかもしれない。

「涼香ちゃんが人を殺してしまったと言う罪でどれ程苦しんでいると思っているんだ?」

 結菜ちゃんを助けられて良かったと言いながらも、二人を殺してしまったと言う事実に悩まされている。

「それなら大丈夫だよ……。
 私達の事は少年法が守ってくれる。
 仮に放火がバレたとしても、そのせいで母親が死んだとしても刑法第四一条がある限り、罰せられる事はない。
 だとするなら、颯太の言う様な「罪」なんて私達には存在しないんだ……」

 そんな事を言いながら笑っていたので、頬をかなり強く叩いてしまった。

 確かに僕達が事件を起こしても罪には問われないかもしれない。

 でもだからと言って、やって良い理由にはならない。

 法が許すなら問題ないと言う彼女の考えは倫理観が欠如しているのではないかと思うけれど、生殺与奪権を親に握られている子供を開放したいと言う意見もある意味では正義なのではないかと思えてくる部分もある。

 ただ、彼女のやり方が間違っているだけなのだ。

「僕が言っているのは法律の事じゃない。
 放火してしまった事や人を殺してしまった事に悩みながら生きていく事になるんだよ……」

 ハッキリ言って一人で抱え込めるレベルの問題ではない。

 今は最適な答えの様に見えていたとしても、後悔して生きていくのは彼女自身だ。

「じゃあどうすれば良いんだよ……?」

 僕達に正攻法で彼等を助けられる力がない事は明白だった。

「まだ人が死んでいない今なら、きっと引き返せる。
 姉さんはこんなにも苦しんできたんだから、もっと自由に生きれば良いんだよ……」

 彼女にだって幸せになる権利があったって良い筈だ。

 涼香ちゃんに助けられた命をもっと大切に使って欲しいと願う。

 今はゆっくりと休んで大人になってから彼等を助ける道に進んだって誰も責めないし、罰が当たる事だってない筈だ。

「虐待されている子達が親のせいで死んでいくのを、何もせずに見ていれば良かったって言うの?」

 自分が罪を犯してでも彼等を助けたいと言っている訳だが、それでは何の解決にもならない……。

「きっとやり方はあるよ……。
 僕も力を貸すから、一緒に考えようよ?」

 子供の未来を守りたいとか、助けたいと言う熱意や使命感が彼女を犯罪者にしようとしている。

「でも、お姉ちゃんが児童相談所に連絡してくれた時だって何もできなかったじゃない?」

 確かに何も変わらなかったかもしれないけど、それでも放火はダメだ……。

「大人が動いてくれるまで、何度だって通報しよう。
 相談所にも警察にも、何度だって一緒に行くし、できる事は何だって手伝う。
 だからこんな事は止めて、一緒に家にかえろ……」

 そう彼女を説得しようとしても、納得していない様だった。

「それでも変わらなかったら?」

 泣きながら聞いてくる彼女の涙を拭き取る。

「その時は姉さんが児童福祉司か児童心理司
 になって、社会の認識を変えていけば良いんだ……」

 時間はかかるだろうけど、こんな方法よりよほど良いに決まっている。
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