65 / 87
7章 放火事件
64話 同じ状況の子を作らない為の少年法
しおりを挟む
「あの耐えがたい痛み……。
ママに愛されない苦しみ……。
今もそんな助けを必要としている子供達が沢山居るのに、自分の幸せなんか関係ないよ……」
拳を握ったり開いたりしながらこちらを睨みつけている。
「自分の幸せなんか」という言葉で片付ける事ができてしまえるのなら、心は既に壊れてしまっているのかもしれない。
「涼香ちゃんが人を殺してしまったと言う罪でどれ程苦しんでいると思っているんだ?」
結菜ちゃんを助けられて良かったと言いながらも、二人を殺してしまったと言う事実に悩まされている。
「それなら大丈夫だよ……。
私達の事は少年法が守ってくれる。
仮に放火がバレたとしても、そのせいで母親が死んだとしても刑法第四一条がある限り、罰せられる事はない。
だとするなら、颯太の言う様な「罪」なんて私達には存在しないんだ……」
そんな事を言いながら笑っていたので、頬をかなり強く叩いてしまった。
確かに僕達が事件を起こしても罪には問われないかもしれない。
でもだからと言って、やって良い理由にはならない。
法が許すなら問題ないと言う彼女の考えは倫理観が欠如しているのではないかと思うけれど、生殺与奪権を親に握られている子供を開放したいと言う意見もある意味では正義なのではないかと思えてくる部分もある。
ただ、彼女のやり方が間違っているだけなのだ。
「僕が言っているのは法律の事じゃない。
放火してしまった事や人を殺してしまった事に悩みながら生きていく事になるんだよ……」
ハッキリ言って一人で抱え込めるレベルの問題ではない。
今は最適な答えの様に見えていたとしても、後悔して生きていくのは彼女自身だ。
「じゃあどうすれば良いんだよ……?」
僕達に正攻法で彼等を助けられる力がない事は明白だった。
「まだ人が死んでいない今なら、きっと引き返せる。
姉さんはこんなにも苦しんできたんだから、もっと自由に生きれば良いんだよ……」
彼女にだって幸せになる権利があったって良い筈だ。
涼香ちゃんに助けられた命をもっと大切に使って欲しいと願う。
今はゆっくりと休んで大人になってから彼等を助ける道に進んだって誰も責めないし、罰が当たる事だってない筈だ。
「虐待されている子達が親のせいで死んでいくのを、何もせずに見ていれば良かったって言うの?」
自分が罪を犯してでも彼等を助けたいと言っている訳だが、それでは何の解決にもならない……。
「きっとやり方はあるよ……。
僕も力を貸すから、一緒に考えようよ?」
子供の未来を守りたいとか、助けたいと言う熱意や使命感が彼女を犯罪者にしようとしている。
「でも、お姉ちゃんが児童相談所に連絡してくれた時だって何もできなかったじゃない?」
確かに何も変わらなかったかもしれないけど、それでも放火はダメだ……。
「大人が動いてくれるまで、何度だって通報しよう。
相談所にも警察にも、何度だって一緒に行くし、できる事は何だって手伝う。
だからこんな事は止めて、一緒に家にかえろ……」
そう彼女を説得しようとしても、納得していない様だった。
「それでも変わらなかったら?」
泣きながら聞いてくる彼女の涙を拭き取る。
「その時は姉さんが児童福祉司か児童心理司
になって、社会の認識を変えていけば良いんだ……」
時間はかかるだろうけど、こんな方法よりよほど良いに決まっている。
ママに愛されない苦しみ……。
今もそんな助けを必要としている子供達が沢山居るのに、自分の幸せなんか関係ないよ……」
拳を握ったり開いたりしながらこちらを睨みつけている。
「自分の幸せなんか」という言葉で片付ける事ができてしまえるのなら、心は既に壊れてしまっているのかもしれない。
「涼香ちゃんが人を殺してしまったと言う罪でどれ程苦しんでいると思っているんだ?」
結菜ちゃんを助けられて良かったと言いながらも、二人を殺してしまったと言う事実に悩まされている。
「それなら大丈夫だよ……。
私達の事は少年法が守ってくれる。
仮に放火がバレたとしても、そのせいで母親が死んだとしても刑法第四一条がある限り、罰せられる事はない。
だとするなら、颯太の言う様な「罪」なんて私達には存在しないんだ……」
そんな事を言いながら笑っていたので、頬をかなり強く叩いてしまった。
確かに僕達が事件を起こしても罪には問われないかもしれない。
でもだからと言って、やって良い理由にはならない。
法が許すなら問題ないと言う彼女の考えは倫理観が欠如しているのではないかと思うけれど、生殺与奪権を親に握られている子供を開放したいと言う意見もある意味では正義なのではないかと思えてくる部分もある。
ただ、彼女のやり方が間違っているだけなのだ。
「僕が言っているのは法律の事じゃない。
放火してしまった事や人を殺してしまった事に悩みながら生きていく事になるんだよ……」
ハッキリ言って一人で抱え込めるレベルの問題ではない。
今は最適な答えの様に見えていたとしても、後悔して生きていくのは彼女自身だ。
「じゃあどうすれば良いんだよ……?」
僕達に正攻法で彼等を助けられる力がない事は明白だった。
「まだ人が死んでいない今なら、きっと引き返せる。
姉さんはこんなにも苦しんできたんだから、もっと自由に生きれば良いんだよ……」
彼女にだって幸せになる権利があったって良い筈だ。
涼香ちゃんに助けられた命をもっと大切に使って欲しいと願う。
今はゆっくりと休んで大人になってから彼等を助ける道に進んだって誰も責めないし、罰が当たる事だってない筈だ。
「虐待されている子達が親のせいで死んでいくのを、何もせずに見ていれば良かったって言うの?」
自分が罪を犯してでも彼等を助けたいと言っている訳だが、それでは何の解決にもならない……。
「きっとやり方はあるよ……。
僕も力を貸すから、一緒に考えようよ?」
子供の未来を守りたいとか、助けたいと言う熱意や使命感が彼女を犯罪者にしようとしている。
「でも、お姉ちゃんが児童相談所に連絡してくれた時だって何もできなかったじゃない?」
確かに何も変わらなかったかもしれないけど、それでも放火はダメだ……。
「大人が動いてくれるまで、何度だって通報しよう。
相談所にも警察にも、何度だって一緒に行くし、できる事は何だって手伝う。
だからこんな事は止めて、一緒に家にかえろ……」
そう彼女を説得しようとしても、納得していない様だった。
「それでも変わらなかったら?」
泣きながら聞いてくる彼女の涙を拭き取る。
「その時は姉さんが児童福祉司か児童心理司
になって、社会の認識を変えていけば良いんだ……」
時間はかかるだろうけど、こんな方法よりよほど良いに決まっている。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

聖女の如く、永遠に囚われて
white love it
ミステリー
旧貴族、秦野家の令嬢だった幸子は、すでに百歳という年齢だったが、その外見は若き日に絶世の美女と謳われた頃と、少しも変わっていなかった。
彼女はその不老の美しさから、地元の人間達から今も魔女として恐れられながら、同時に敬われてもいた。
ある日、彼女の世話をする少年、遠山和人のもとに、同級生の島津良子が来る。
良子の実家で、不可解な事件が起こり、その真相を幸子に探ってほしいとのことだった。
実は幸子はその不老の美しさのみならず、もう一つの点で地元の人々から恐れられ、敬われていた。
━━彼女はまぎれもなく、名探偵だった。
登場人物
遠山和人…中学三年生。ミステリー小説が好き。
遠山ゆき…中学一年生。和人の妹。
島津良子…中学三年生。和人の同級生。痩せぎみの美少女。
工藤健… 中学三年生。和人の友人にして、作家志望。
伊藤一正…フリーのプログラマー。ある事件の犯人と疑われている。
島津守… 良子の父親。
島津佐奈…良子の母親。
島津孝之…良子の祖父。守の父親。
島津香菜…良子の祖母。守の母親。
進藤凛… 家を改装した喫茶店の女店主。
桂恵… 整形外科医。伊藤一正の同級生だった。
秦野幸子…絶世の美女にして名探偵。百歳だが、ほとんど老化しておらず、今も若い頃の美しさを保っている。

ダブルネーム
しまおか
ミステリー
有名人となった藤子の弟が謎の死を遂げ、真相を探る内に事態が急変する!
四十五歳でうつ病により会社を退職した藤子は、五十歳で純文学の新人賞を獲得し白井真琴の筆名で芥山賞まで受賞し、人生が一気に変わる。容姿や珍しい経歴もあり、世間から注目を浴びテレビ出演した際、渡部亮と名乗る男の死についてコメント。それが後に別名義を使っていた弟の雄太と知らされ、騒動に巻き込まれる。さらに本人名義の土地建物を含めた多額の遺産は全て藤子にとの遺書も発見され、いくつもの謎を残して死んだ彼の過去を探り始めた。相続を巡り兄夫婦との確執が産まれる中、かつて雄太の同僚だったと名乗る同性愛者の女性が現れ、警察は事故と処理したが殺されたのではと言い出す。さらに刑事を紹介され裏で捜査すると告げられる。そうして真相を解明しようと動き出した藤子を待っていたのは、予想をはるかに超える事態だった。登場人物のそれぞれにおける人生や、藤子自身の過去を振り返りながら謎を解き明かす、どんでん返しありのミステリー&サスペンス&ヒューマンドラマ。

失せ物探し・一ノ瀬至遠のカノウ性~謎解きアイテムはインスタント付喪神~
わいとえぬ
ミステリー
「君の声を聴かせて」――異能の失せ物探しが、今日も依頼人たちの謎を解く。依頼された失せ物も、本人すら意識していない隠された謎も全部、全部。
カノウコウコは焦っていた。推しの動画配信者のファングッズ購入に必要なパスワードが分からないからだ。落ち着ける場所としてお気に入りのカフェへ向かうも、そこは一ノ瀬相談事務所という場所に様変わりしていた。
カノウは、そこで失せ物探しを営む白髪の美青年・一ノ瀬至遠(いちのせ・しおん)と出会う。至遠は無機物の意識を励起し、インスタント付喪神とすることで無機物たちの声を聴く異能を持つという。カノウは半信半疑ながらも、その場でスマートフォンに至遠の異能をかけてもらいパスワードを解いてもらう。が、至遠たちは一年ほど前から付喪神たちが謎を仕掛けてくる現象に悩まされており、依頼が謎解き形式となっていた。カノウはサポートの百目鬼悠玄(どうめき・ゆうげん)すすめのもと、至遠の助手となる流れになり……?
どんでん返し、あります。
独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる