孤独の恩送り

西岡咲貴

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7章 放火事件

62話 姉を探して……

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「姉さん、やっと見つけたよ……。
 悪くない隠れ家だね……」

 町から少し離れた小高い丘、元小学校。

 しばらく前に少子化が原因で閉校してからは忘れ去られ、誰も来ない場所となっている。

 彼女はそんな廃校のとある教室で長らく生活していた様だった。

 電気、水道、ガスは既に止まっているが、雨風をしのぐ事はできる。

 乱雑に置かれたペットボトルや食べかけの食料を見れば、どんな生活をしているのかが分かる。

 僕の存在に気が付くと、驚いた様な顔をしていた。

「私を姉さんと呼ばないで……。
 お前のお腹を刺した女だよ?」

 立ち上がると、僕の方へ歩いてくる。

 あの事件からは、かなり経っていたが、そんな事よりも姉さんに会いたかった。

「それでも、僕はこうして元気に生きている」

 シャツをたくし上げて腹部を彼女に見せる。

「ほら、もう塞がっているから大丈夫だよ?」

 傷は少し残ってしまうかもしれないけどちゃんと処置をしてあるから、生きていればいずれ回復する。

「お前は良くても私にとってはそうでもないんだ……無関係な人間を刺してしまったんだから……」

 そもそもそれを言ったら、長らくこんな所に隠れて放火事件を起こし続けている方が問題である。

「そうだよ、傷害罪だ。でも僕は弟なんだから無関係なんかじゃない……」

 何をどう考えれば無関係と言えるんだろうか?

 アパートでの火事も洞窟での事も関係者なのに、彼女の眼には母親しか映っていなかったらしい。

「それは後で知った事じゃないか。
 あの時はお前だって私が姉だなんて知らなかった筈でしょ?」

 そうかも知れない……でも血の繋がりがある……。

「必死で姉さんを助けようとした涼香ちゃんは友達だったし、火事で亡くなったのは僕の母さんだ。
 無関係である筈がないだろ!」

 肯定も否定もしないまま少し黙って床に座り込む。

「ところで、どうしてここが分かったの?」

 しばらくして、再び質問がとんでくる。

 彼女を探すのは簡単ではなかったけど、見つける事ができたのはたまたまだった。

「変装して病院に来ていたでしょ?
 だから跡を付けさせてもらった……。
 連続放火事件の犯人は姉さんなんでしょ?
 被害にあった家の子が皆、虐待にあっていたと言うニュースを聞いて、何だか不思議に思えたんだよ。
 母さんが亡くなったあの火事と類似していたからね……。
 話を聞くため、助けられた子供達に会いに病院へ行ったんだ。
 その時に姉さんを見つけたと言うわけさ」

 逃げられて振り出しに戻らない様に、気が付かなかったふりをした。

「そう……。
 火を付けた後、助けられた子の安否を毎回病院へ確認に行っていたのは失敗だった様ね……」

 彼女はため息をついて、自分が見つかった原因を悔いた。

 やはりそうだったのか。

 放火する事が目的ならそんな事はしないだろうけど、子供を虐待やネグレクトから助け出す事が目的だったとしたら、病院に現れるかもしれないと少し思っていた所はあった。
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