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7章 放火事件
61話 火事の間接的要因
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沙綾香さんがどんな人物なのかは分からないので、父さんの言っている事が当たっている可能性もあるとは思う。
「止めてよ……それは憶測だろ?」
彼女が父さんに拒絶されたと言う風に捕らえていたとしたら、それが「虐待のトリガー」になったのかもしれない。
だとするなら、火事の直接的な原因は放火した涼香ちゃんにあったとしても、それは虐待から助け出す為だったのだから、あの時の態度が間接的な一原因になっているのかもしれないと思ってしまう。
父さんは彼女達に負い目を感じていたのだろうか?
母さんは涼香ちゃんを助けに行ったから亡くなってしまった訳だし、それも沙綾香さんにあんな態度を取った自分の責任なのだと考えているのではないだろうかと少し心配になる……。
あの夜僕に話そうとしたのは、こんな話を誰かに聞いてもらって、気持ち的に楽になりたかったからなのかもしれない。
最近まで自分にもう一人娘が居る事を知らなかった様だし、その彼女は今も行方不明なのだ。
大切な家族を守ると言う意味では「もう良い」と言って終わった話にしてしまうのが楽だったのかもしれないとさえ思う。
「麻衣にもこの話はしたの?」
妹はこんな話を知っているのだろうか?
「いや、言っていないよ……」
仮に父さんが麻衣に話した場合、人一倍優しい彼女はあの子に刺された僕に気を遣うだろう。
「そっか、なら麻衣には僕から話すよ……」
秘密にすることで、良好な家族関係にヒビを入れたくはないのだ。
「それと……父さんにお願いがあるんだ……」
こんな状況になってしまったからかもしれないけど、今なら多少のわがままを言っても叶えてくれそうな雰囲気だ。
「何だ?私にできる事なら……」
母さんは涼香ちゃんを命と引き換えに助けた。
更にその彼女は結菜ちゃんを本気で助けようとしていた。
なら、その子を助けなければ皆の想いが無駄になってしまうのではないだろうか?
それに加えて僕自身も彼女を助けたいと思っているのだ。
父さんも彼女達に負い目を感じているのなら、そうする事で贖罪になるだろう。
「退院したら結菜ちゃんを探して、必ず連れて帰ってくる。
だから……彼女を僕の本当の姉さんにして、うちの家族に温かく迎え入れて欲しいんだ……」
自分でもとんでもない事を言っている事くらいは理解していた。
「ちょ、ちょっと待て……。
彼女はお前を刺したんだぞ?」
それは十分過ぎる程に理解しているけど、それでも彼女に温かい家庭を与えてあげたかった。
「ああ、分かっているよ。
それでも、僕はそうしたいんだ。
こんな状況になったのは彼女のせいじゃない。
沙綾香さんが悪いんだ……。
今まで辛い思いをしてきた筈なのにこんな仕打ちなんて、あんまりじゃないか……。
あの子は僕や麻衣にとっても姉さんなんだよね?
なら刺された僕がそうして欲しいと望んでいるんだから問題はないでしょ?」
何故だろう……自分の事を刃物で刺した女の話なのに他人事とは思えず、涙が溢れて止まらなかった。
「止めてよ……それは憶測だろ?」
彼女が父さんに拒絶されたと言う風に捕らえていたとしたら、それが「虐待のトリガー」になったのかもしれない。
だとするなら、火事の直接的な原因は放火した涼香ちゃんにあったとしても、それは虐待から助け出す為だったのだから、あの時の態度が間接的な一原因になっているのかもしれないと思ってしまう。
父さんは彼女達に負い目を感じていたのだろうか?
母さんは涼香ちゃんを助けに行ったから亡くなってしまった訳だし、それも沙綾香さんにあんな態度を取った自分の責任なのだと考えているのではないだろうかと少し心配になる……。
あの夜僕に話そうとしたのは、こんな話を誰かに聞いてもらって、気持ち的に楽になりたかったからなのかもしれない。
最近まで自分にもう一人娘が居る事を知らなかった様だし、その彼女は今も行方不明なのだ。
大切な家族を守ると言う意味では「もう良い」と言って終わった話にしてしまうのが楽だったのかもしれないとさえ思う。
「麻衣にもこの話はしたの?」
妹はこんな話を知っているのだろうか?
「いや、言っていないよ……」
仮に父さんが麻衣に話した場合、人一倍優しい彼女はあの子に刺された僕に気を遣うだろう。
「そっか、なら麻衣には僕から話すよ……」
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「それと……父さんにお願いがあるんだ……」
こんな状況になってしまったからかもしれないけど、今なら多少のわがままを言っても叶えてくれそうな雰囲気だ。
「何だ?私にできる事なら……」
母さんは涼香ちゃんを命と引き換えに助けた。
更にその彼女は結菜ちゃんを本気で助けようとしていた。
なら、その子を助けなければ皆の想いが無駄になってしまうのではないだろうか?
それに加えて僕自身も彼女を助けたいと思っているのだ。
父さんも彼女達に負い目を感じているのなら、そうする事で贖罪になるだろう。
「退院したら結菜ちゃんを探して、必ず連れて帰ってくる。
だから……彼女を僕の本当の姉さんにして、うちの家族に温かく迎え入れて欲しいんだ……」
自分でもとんでもない事を言っている事くらいは理解していた。
「ちょ、ちょっと待て……。
彼女はお前を刺したんだぞ?」
それは十分過ぎる程に理解しているけど、それでも彼女に温かい家庭を与えてあげたかった。
「ああ、分かっているよ。
それでも、僕はそうしたいんだ。
こんな状況になったのは彼女のせいじゃない。
沙綾香さんが悪いんだ……。
今まで辛い思いをしてきた筈なのにこんな仕打ちなんて、あんまりじゃないか……。
あの子は僕や麻衣にとっても姉さんなんだよね?
なら刺された僕がそうして欲しいと望んでいるんだから問題はないでしょ?」
何故だろう……自分の事を刃物で刺した女の話なのに他人事とは思えず、涙が溢れて止まらなかった。
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