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5章 火事の裏側
49話 母親の葛藤
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颯太のお茶碗を割ったあの時から、私の手は何だか少し変だった。
物を掴んでいると言うのに急に力が入らなくなる瞬間があり、そのたびに物を落とす。
何枚も食器を割って、流石におかしいと気が付いた。
最初は単に疲れているだけなのだろうと思っていたが、どうやらそうではなかったらしい。
睡眠をしっかりとっても食事をしっかりしても、力が入らなくなる瞬間は何度も訪れた。
家族に心配させる訳にも行かないので秘密にしてきたが、そろそろ隠すのも限界になってきたので、相談なく病院で検査してもらう事にしたのだ。
結果はと言うと「筋萎縮性側索硬化症」
聞いた事もない病名で、十万人に一~三人の確率で発症すると言われる稀な疾患だった。
まさか自分に、そんな低確率の病気が発症するなどとは夢にも思っていない。
しかしどうやらその病気のせいで私は、もう長く生きる事が出来ないらしい。
病気の進行を遅らせる事は出来ても、今の医療技術では治す事が出来ないと言われた。
更に言えば、そう遠くない未来に呼吸すら難しい要介護者になるだろうとも……。
しかし、颯太と麻衣には、青春時代を母親の介護で終える様な人生を送って欲しくはなかった。
だからと言って、どうする事もできないが、完治しない病気を抱えたまま衰弱していく自分が家族に迷惑をかけるのは避けられない。
優しい夫と二人の子供は私の介護を喜んでしてくれるに違いないし、それを迷惑と感じる事もないとは思う。
でもどうしても、私のせいで未来ある子供たちの人生で一度しかない青春の時間を潰したくはないのだ。
呼吸が困難な状況になる前に自ら命を絶つ選択を何度も何度も考えたが、それだけはどうしてもできなかった。
勿論、元気なままで死ぬというのが怖かったと言うのもあるが、それ以上に躊躇した理由は息子と娘を親の居ない子供にしてしまうと言う事だった。
我が子を愛しているから死にたくないと言う気持ちと、愛しているから先が長くないと分かっている母の為に無駄な時間を使い、ストレスと戦ってほしくないと言う気持ちが混在していた。
物を掴んでいると言うのに急に力が入らなくなる瞬間があり、そのたびに物を落とす。
何枚も食器を割って、流石におかしいと気が付いた。
最初は単に疲れているだけなのだろうと思っていたが、どうやらそうではなかったらしい。
睡眠をしっかりとっても食事をしっかりしても、力が入らなくなる瞬間は何度も訪れた。
家族に心配させる訳にも行かないので秘密にしてきたが、そろそろ隠すのも限界になってきたので、相談なく病院で検査してもらう事にしたのだ。
結果はと言うと「筋萎縮性側索硬化症」
聞いた事もない病名で、十万人に一~三人の確率で発症すると言われる稀な疾患だった。
まさか自分に、そんな低確率の病気が発症するなどとは夢にも思っていない。
しかしどうやらその病気のせいで私は、もう長く生きる事が出来ないらしい。
病気の進行を遅らせる事は出来ても、今の医療技術では治す事が出来ないと言われた。
更に言えば、そう遠くない未来に呼吸すら難しい要介護者になるだろうとも……。
しかし、颯太と麻衣には、青春時代を母親の介護で終える様な人生を送って欲しくはなかった。
だからと言って、どうする事もできないが、完治しない病気を抱えたまま衰弱していく自分が家族に迷惑をかけるのは避けられない。
優しい夫と二人の子供は私の介護を喜んでしてくれるに違いないし、それを迷惑と感じる事もないとは思う。
でもどうしても、私のせいで未来ある子供たちの人生で一度しかない青春の時間を潰したくはないのだ。
呼吸が困難な状況になる前に自ら命を絶つ選択を何度も何度も考えたが、それだけはどうしてもできなかった。
勿論、元気なままで死ぬというのが怖かったと言うのもあるが、それ以上に躊躇した理由は息子と娘を親の居ない子供にしてしまうと言う事だった。
我が子を愛しているから死にたくないと言う気持ちと、愛しているから先が長くないと分かっている母の為に無駄な時間を使い、ストレスと戦ってほしくないと言う気持ちが混在していた。
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