孤独の恩送り

西岡咲貴

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4章 友情の崩壊

43話 今度のテストで良い点が取れます様に!

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「どうしたんだ?」

 急に話すのを止めてしまった俺を不思議に感じるのは普通の反応だろう。

「あんなところに洞窟なんてあった?」

 言いかけた言葉も忘れて、ただただ指をさしながら聞いてしまった。

 それぐらい不思議な形の穴だったのだ。

「さぁ……。
 今まで気にした事はなかったな」

 指先が向く方を見て確認するが、颯太も知らない様だった。

「いや、昔三人で遊んでいた時はあんな場所なんてなかったぞ?」

 俺がそう言うと、彼は立ち上がって眺めた。

 少し近付いてみてもやはり記憶にはない。

「言われてみれば、確かに僕の記憶にもないな」

 洞窟なんて、数年ですぐにできるものではない筈だが、お互いの共通の記憶にはない。

「ちょっと入ってみるか?」

 気になって仕方がなかった。

「は?危なくないか?」

 こいつは、こんなにも怖がりだっただろうか?

「何を言ってるんだ、来いよ」

 躊躇している様だったので、俺が先に入る。

「おい、待てよ……」

「止めよう」と言う空気をかもしだしながらも、ちゃんとついてくるあたり彼も気になっている事は間違いない。

 俺は颯太に対して感情的になってしまった事で、麻衣と話した様な「関係の修復」からは一歩遠のいていた。

 だが、こう言った誰も来ない様な場所は秘密基地みたいで面白く、遊んでいるうちに何か涼香に謝る為のきっかけを作れるかもしれないと考え、洞窟の中に誘導した。

 記憶にはない洞窟だったが、何かが起こる様な不思議スポットではなく、ただ単に自然が作り出した地形なのだと思う。

 だから奥に進んだ所で、特別なものは何もないし、良くも悪くもただの洞穴である。

 問題はどうやって彼を騙し、何の変哲もないその穴を仲直りの道具に変えるかという事であった。

 そんな事を考えていたら、

「おい、奥の方に何かあるぞ!」

 などと言い出してくれたので都合が良いなと感じ、その話に乗っかる事にした。

「何かって何だよ?」

 言われた方を見てみると不気味な祠があってその前には、かなり古い千円札がコケまみれで一枚置かれている。

 何の神が祀られているのかは分からないが、このお金は誰かが参拝した時に置いた賽銭に違いない。

 その汚いお札を見て、「神の力」を信じさせる事と涼香に謝らせるきっかけを作れるかもしれないと言う事を閃いた。

「こんな所に祠なんて珍しいな……。
 しかも、見たところ結構古そうだけど、どんな神を祀っているんだろう?」

 意外にも少し興味を持ってくれている様で、しっかりと眺めている。

 これは丁度良いではないか。

「もしも俺がこの祠に祈って願いが叶ったら、お前も悩んでいる事とか思っている事をこの祠に聞いてもらうって言うのはどうだ?」

 何を言っているのか分からないと言う顔でこちらを見ているが、もう一押しだ。

「嫌だよ、僕の悩みは神なんて言う曖昧なものに頼りたくない……」

 この反応なら、どうとでもなるだろう。

「だったら良いじゃないか、神が曖昧だと言うのなら俺の願いも叶う訳なんてないって事だろ?
 仮に叶ったなら神は居るんだという証明にもなる筈だしな……」

 この会話の流れなら上手く誘導できる気がした。

「そんな事言って、何を願うつもりだよ?」

 思い通りのこたえが返ってきて、笑いそうになる。

 簡単に実現できてしまう様な望みを述べてしまうと涼香に謝らせようとしている策がバレてしまう。

 本人は酷い事を言ってしまったと言う自覚がある様だが、言ってしまった手前、後には引けなくなっているのだ。

 神の力などどうでも良く、彼が彼女に謝る事ができるきっかけを作る事が重要なのだ。

「今度のテストで良い点が取れます様に!と言うのはどうだ?」

 これなら、俺の努力次第でどうにでもなる。

 結果さえ出す事ができれば、神の力に見せかける事だってできてしまう。

 要は、如何に勉強せずに点数を取ったかを演出できれば、成功だろう。

「そんなのは個人の努力次第だろ?」

 勉強をさぼり、遊びを優先にしてきた俺の性格上そんな事ができる筈がないと直ぐにそう思うだろう。

 そこをアピールする事ができれば、話に乗ってくる筈だ。

「そんな事はないぞ、俺は勉強をしてもなかなか良い点数なんて取れないからなぁ」

 この顔を見る限り、話を信じたに違いない。

「はぁ……分かった……」

 駆け引きは俺の勝ちだ。

 現に、しっかり勉強してテストに臨めば、満点に近い点数を取れるだけの能力がある事は分かっている。

 それでもそうしないのは、勉強する事に意味を見いだせていなかったからだ。

 今回は自分のテスト結果に颯太や麻衣、涼香との関係性がかかっているのだと思えば頑張れるだろう。

「良いじゃないか?
 誰だって、人に話を聞いてもらえるだけで気持ちが楽になるものだろ?」

 彼がこの話を承諾した時点て俺の勝利は確定したのだと言っても過言ではない。

「いやその話だと、人に話を聞いてもらうというよりは神に聞いてもらっている訳だが……」

 神が居るのかどうかは、もはや関係ない。

 颯太が涼香に謝れる環境を作る事ができれば十分で、俺はきっかけの為に神と言う存在をでっち上げるだけだ。

「細かい事を気にするなよ」

 ポケットに手を突っ込み、全所持金である百円玉三枚を握りしめた。

「神に頼み事をするのにタダっていう訳に行かないよな?
 賽銭ってこれでいいかな?」

 これも演出の一環である。

「次のテストで良い点が取れますように」

 そう言ってお金を置き、手を合わせて、目を閉じた。

 最悪は満点でなくても高得点が取れれば、後は何とでも言える。

 待っていろ、俺はお前に彼女と仲直りする勇気を与えてやる。
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