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4章 友情の崩壊
40話 二人に会いに……
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「はい……」
颯太の家に到着し、玄関のインターフォンを押すと、麻衣の声で返事が返ってくる。
この二人を立ち直らせる事ができれば、きっとまた友達に戻る事ができる筈だ。
「誠だけど、颯太は?」
客が俺だと分かっても、彼女の声に元気はない。
だいたい想像はしていたが、傷はかなり深い。
「ああ、誠君……。
お兄ちゃんなら学校から帰ってきて、すぐに何処かへ出かけて行ったよ?」
留守の様だった。
「とりあえず、今玄関開けるから上がって……」
そう言われて、麻衣の部屋に通される。
「お兄ちゃんは居ないけど、ちょうど誠君と話したい事はいっぱいあったんだ」
彼女の立場で考えても、そうだろうとは思う。
「ちょっと待ってて」
部屋に俺だけを残して出て行ったかと思うと、お盆にお茶とお菓子を乗せて帰ってきた。
「お待たせ。
何もなくてごめんね……」
この部屋にもかなり久しぶりに入ったが、昔と何も変わらない印象を受ける。
今回は遊びに来た訳ではないが、こうやってまた二人の家に頻繁に来る事の出来る人間関係を取り戻したいと思う。
「今更気を遣う事もないだろ?」
母親同士が親友だった事もあって、二人とは昔から仲が良く、付き合いも長い。
そのせいか、彼女の考えている事は何となくだが分かる。
「それもそうだよね……」
空気が重たかったが、兄貴があんな態度を取ってしまった事を考えれば、仕方のない状況なのかもしれない。
「ごめんね……」
彼女は下を向いたまま話し始めたが、こんな事になっているのは彼女の責任ではないし、酷い態度は涼香に対するものだったので麻衣が俺に気を遣う事はないと思う。
でも彼女はそれを許さず、身内の責任とでも考えているのだろう。
「お兄ちゃんが、涼香ちゃんにあんな事を言ったせいで今までの関係を全部壊しちゃった……」
長い付き合いの中で、こんな申し訳なさそうにする彼女を見るのは初めてだった。
「麻衣が悪い訳じゃないんだから謝る必要はないだろ?」
感心する程に人の心を理解し、誰よりも空気を読むと言うスキルに長けている。
故に問題解決の要である筈の彼女には常にポジティブであって欲しいと願っているのだ。
「でも……」
母親が亡くなって辛い筈なのに、兄貴の言葉で潰しかけている関係性を何とか修復させようと必死なのは見ていても分かる。
そんな頑張る彼女の力になりたいと思っている部分もあり、颯太を何とかしなくてはならない。
「俺も未祐さんが好きだったよ……。
よくここにも遊びにきて、夕食をご馳走になったよな?
料理はどれも凄く美味しかった……。
うちの母は料理なんて全然できないから家の食事は美味しくなくて、未祐さんに「ご飯食べていく?」って言われるのをいつも少し期待してたんだ……」
麻衣は俺の話を聞いて必死で泣くのを我慢している様だった。
「ありがとう……。
母さんも、そう言ってもらえて嬉しいと思う……」
言ってしまってから、しまったと思った。
未祐さんの料理が美味しかったと言いたかっただけなのに、料理下手な自分の母親と比較してしまったのだ。
料理が上手いだとか下手だとか言う以前に俺の母親は元気に生きている。
彼女のとらえ方にもよると思うが、料理なんて下手でも良いじゃない……いつでも会えるのだから。
と思われてしまうなら余計に傷付けるだけかもしれないと気が付いた時、言葉は選ばないといけないと強く思った。
麻衣と颯太は未祐さんとの親子関係が良好だった事もあって、特にデリケートな問題だ。
彼女だから、話を良いように解釈してくれるとは思うが、相手が颯太なら涼香の時の様に喧嘩になってしまう事だって容易に考えられる。
俺だって未祐さんが亡くなって辛くない訳がない。
そんな想いがあったとしても、言葉選びは間違わない様にしなければならない。
「でもその美味しいと言ってくれた料理も、もう食べられないんだよ……。
こんなに早く居なくなってしまうなら、もっとお手伝いをして、レシピいっぱい聞いておけばよかったなって思うよ……」
人の死は突然にやってくるもので、俺や麻衣だっていつ死ぬのかなんて分からない。
そう考えると、もっと一日一日を大切に生きなくてはならないし、後に残される者の辛さや気持ちも考えておかなくてはならないのだと感じずにはいられなかった。
余命宣告をされていたのなら、本人もまわりの人間も、ある程度の覚悟はできていたのかもしれないが、未祐さんの場合は病気でもなく、本当に突然だった。
誰もが居なくなるなんて思ってもいなかった人が急にいなくなったら悲しさがより大きいのは当然かもしれない。
「こんな言い方しかできなくて本当に申し訳ないんだけど、未祐さんが亡くなった事で麻衣、颯太と俺や涼香が友達じゃなくなってしまう事は彼女も望んでいないんじゃないかな?」
相手が颯太なら、こんな事を言っても余計に状況が悪化するだけだと思うが、彼女なら何とかこの状況を変えられるかもしれない。
颯太の家に到着し、玄関のインターフォンを押すと、麻衣の声で返事が返ってくる。
この二人を立ち直らせる事ができれば、きっとまた友達に戻る事ができる筈だ。
「誠だけど、颯太は?」
客が俺だと分かっても、彼女の声に元気はない。
だいたい想像はしていたが、傷はかなり深い。
「ああ、誠君……。
お兄ちゃんなら学校から帰ってきて、すぐに何処かへ出かけて行ったよ?」
留守の様だった。
「とりあえず、今玄関開けるから上がって……」
そう言われて、麻衣の部屋に通される。
「お兄ちゃんは居ないけど、ちょうど誠君と話したい事はいっぱいあったんだ」
彼女の立場で考えても、そうだろうとは思う。
「ちょっと待ってて」
部屋に俺だけを残して出て行ったかと思うと、お盆にお茶とお菓子を乗せて帰ってきた。
「お待たせ。
何もなくてごめんね……」
この部屋にもかなり久しぶりに入ったが、昔と何も変わらない印象を受ける。
今回は遊びに来た訳ではないが、こうやってまた二人の家に頻繁に来る事の出来る人間関係を取り戻したいと思う。
「今更気を遣う事もないだろ?」
母親同士が親友だった事もあって、二人とは昔から仲が良く、付き合いも長い。
そのせいか、彼女の考えている事は何となくだが分かる。
「それもそうだよね……」
空気が重たかったが、兄貴があんな態度を取ってしまった事を考えれば、仕方のない状況なのかもしれない。
「ごめんね……」
彼女は下を向いたまま話し始めたが、こんな事になっているのは彼女の責任ではないし、酷い態度は涼香に対するものだったので麻衣が俺に気を遣う事はないと思う。
でも彼女はそれを許さず、身内の責任とでも考えているのだろう。
「お兄ちゃんが、涼香ちゃんにあんな事を言ったせいで今までの関係を全部壊しちゃった……」
長い付き合いの中で、こんな申し訳なさそうにする彼女を見るのは初めてだった。
「麻衣が悪い訳じゃないんだから謝る必要はないだろ?」
感心する程に人の心を理解し、誰よりも空気を読むと言うスキルに長けている。
故に問題解決の要である筈の彼女には常にポジティブであって欲しいと願っているのだ。
「でも……」
母親が亡くなって辛い筈なのに、兄貴の言葉で潰しかけている関係性を何とか修復させようと必死なのは見ていても分かる。
そんな頑張る彼女の力になりたいと思っている部分もあり、颯太を何とかしなくてはならない。
「俺も未祐さんが好きだったよ……。
よくここにも遊びにきて、夕食をご馳走になったよな?
料理はどれも凄く美味しかった……。
うちの母は料理なんて全然できないから家の食事は美味しくなくて、未祐さんに「ご飯食べていく?」って言われるのをいつも少し期待してたんだ……」
麻衣は俺の話を聞いて必死で泣くのを我慢している様だった。
「ありがとう……。
母さんも、そう言ってもらえて嬉しいと思う……」
言ってしまってから、しまったと思った。
未祐さんの料理が美味しかったと言いたかっただけなのに、料理下手な自分の母親と比較してしまったのだ。
料理が上手いだとか下手だとか言う以前に俺の母親は元気に生きている。
彼女のとらえ方にもよると思うが、料理なんて下手でも良いじゃない……いつでも会えるのだから。
と思われてしまうなら余計に傷付けるだけかもしれないと気が付いた時、言葉は選ばないといけないと強く思った。
麻衣と颯太は未祐さんとの親子関係が良好だった事もあって、特にデリケートな問題だ。
彼女だから、話を良いように解釈してくれるとは思うが、相手が颯太なら涼香の時の様に喧嘩になってしまう事だって容易に考えられる。
俺だって未祐さんが亡くなって辛くない訳がない。
そんな想いがあったとしても、言葉選びは間違わない様にしなければならない。
「でもその美味しいと言ってくれた料理も、もう食べられないんだよ……。
こんなに早く居なくなってしまうなら、もっとお手伝いをして、レシピいっぱい聞いておけばよかったなって思うよ……」
人の死は突然にやってくるもので、俺や麻衣だっていつ死ぬのかなんて分からない。
そう考えると、もっと一日一日を大切に生きなくてはならないし、後に残される者の辛さや気持ちも考えておかなくてはならないのだと感じずにはいられなかった。
余命宣告をされていたのなら、本人もまわりの人間も、ある程度の覚悟はできていたのかもしれないが、未祐さんの場合は病気でもなく、本当に突然だった。
誰もが居なくなるなんて思ってもいなかった人が急にいなくなったら悲しさがより大きいのは当然かもしれない。
「こんな言い方しかできなくて本当に申し訳ないんだけど、未祐さんが亡くなった事で麻衣、颯太と俺や涼香が友達じゃなくなってしまう事は彼女も望んでいないんじゃないかな?」
相手が颯太なら、こんな事を言っても余計に状況が悪化するだけだと思うが、彼女なら何とかこの状況を変えられるかもしれない。
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