32 / 87
2章 アパートの二人
31話 母親の帰宅
しおりを挟む
「私も練習すれば、こんな美味しい料理が作れる様になるかな……?」
盛り付けられた分をパクパクと一気に食べてしまうと、空になったパスタのお皿の上に重ねる。
「ご馳走様。お腹いっぱいだよ」
食べ終わった食器を流し台にいれる。
「結菜ちゃんなら、すぐに上手になると思う。
それは私が保証するよ」
そう言われると、勉強してみようかなと思えてくる。
「私にも教えてくれる?」
お姉ちゃんは黙り込んで少しの間考え込んでいる様だった。
教えたくないのだろうか?
「せっかく褒めてもらったけど、これは私の知識じゃないんだ。
友達のお母さんにもらったレシピに書いてあった方法をそのまま使って、作ってるだけ……。
まぁ料理が上手くなる様に練習中ではあるけどね」
そう言って笑った。
「それは違う!」
大きな声で反論してしまった。
「お姉ちゃんは私からしたら、プロの料理人さんだよ。
こんなにも美味しい料理をいつもいっぱい作ってくれるのに、凄くない訳がないじゃない!」
その上、孤独だった私にこんな素敵な居場所までくれたのがとても嬉しかった。
ずっと一緒に居てくれて、感謝してもしきれない。
「ありがとう……」
微笑みながら軽く私の頭に手を乗せ、触れてくれた。
何だか心がざわつく。
この気持ちが何なのかは分からなかったけど、少なくともママと二人で居た時には感じた事のない感情だったと思う。
「本当のお姉ちゃんだったら良かったのに……」
それが本音だ。
児童相談所の職員がここに何度か来たと言う事はママと一緒に居られる時間も、もうそんなに長くは残されていないのかもしれない。
そう言う意味では、ここを出て行かなければならないかもしれないし、大好きなお姉ちゃんともお別れしなければダメなのかもしれない。
そんな風に考えると余計に息苦しく感じた。
せっかく出会えたのに……。
「どうしたの?ごめん……嫌だったかな?」
撫でてくれていた手を私の頭から離した。
「ごめんね、そうじゃないの……。
色々考えていたら、何だか寂しくなって……」
ママの事も大切だけど、もっとこの人と一緒に居たいと感じる様になっていた。
「大丈夫だよ……私もずっとここに居るから、寂しくないでしょ?」
こんな優しいお姉ちゃんなのに、何で話す事を迷っていたのだろうか?
理由は分からないけど、私の事は殆ど知っているような気がする。
でも仮に話を聞いてもらった上で、避けられたり、嫌われると言うのなら、それはそれで仕方がない事なのだとさえ思えてきた。
お姉ちゃんには私の考えや、思っている事を知っていて欲しいので、頑張って話してみようと決めた。
深呼吸をして心の準備を整えた。
「お姉ちゃんに聞いて欲しい事があるの……。
前々からずっと言おうかどうしようか、迷ってた話なんだけど、どう思われるか分からないから言うのが怖くて……。嫌われたらどうしよって考えたら……言えなかった」
そんな風に話を切り出そうとした時、お姉ちゃんは私を強く抱きしめてくれた。
「私の事を信用してそう言ってくれているんだと思うけど、本当に無理して言いたくない事は言わなくて大丈夫だからね?
それでも言いたくなったと言ってくれるのなら、話はちゃんと聞くよ。
どんな内容でも嫌いになったりしないし、笑ったりもしないから安心して。
だから、そんなに緊張しなくても大丈夫……。
焦らなくて良いし、ゆっくり結菜ちゃんのスピードで話して……ね?」
そう言ってもらえて凄く安心できたし、この人なら信頼できると思った。
「私……」
丁度話し始めた時、階段を上ってくる誰かの足音が聞こえた。
「結菜―ただいま……」
隣の部屋から声がした。
え?
まだ十六時半だったし、ママが帰ってくる様な時間ではない筈だ。
「あれ?結菜―」
隣の部屋から凄い音と大きな声が聞こえている。
「結菜―、結菜―何処―?」
それで気付いた、お姉ちゃんには話が筒抜けだったのだと……。
だからこの人は私の名前も状況も全部知っていたのか……。
「お姉ちゃんは状況を全部知っていて、可哀そうな子だと馬鹿にしてたの?」
涙が止まらない。
「ちがっ……」
信じていたのに……。
「何が違うの?私を見て笑っていたんでしょ?
殴られて、蹴られて、痛がっているのを聞いて楽しんでいたの?
ご飯を食べさせてくれたのも、惨めな子を見て、自分の方がマシだと感じたかったから?」
どちらにしても、ママにバレてしまった以上私は地獄の生活に戻るしかない。
「違う……そうじゃない。
ねえ、聞いてよ。ちゃんと話そう……」
お姉ちゃんの事を信じたいと言う気持ちも少しはあったけど、それよりも「裏切られた」とか「騙された」と言う考えに支配されていて、頭の中はぐちゃぐちゃだった。
「もういい……」
お姉ちゃんの部屋を出た。
「結菜?」
私は何を信じれば良いのか分からなくなっていた。
盛り付けられた分をパクパクと一気に食べてしまうと、空になったパスタのお皿の上に重ねる。
「ご馳走様。お腹いっぱいだよ」
食べ終わった食器を流し台にいれる。
「結菜ちゃんなら、すぐに上手になると思う。
それは私が保証するよ」
そう言われると、勉強してみようかなと思えてくる。
「私にも教えてくれる?」
お姉ちゃんは黙り込んで少しの間考え込んでいる様だった。
教えたくないのだろうか?
「せっかく褒めてもらったけど、これは私の知識じゃないんだ。
友達のお母さんにもらったレシピに書いてあった方法をそのまま使って、作ってるだけ……。
まぁ料理が上手くなる様に練習中ではあるけどね」
そう言って笑った。
「それは違う!」
大きな声で反論してしまった。
「お姉ちゃんは私からしたら、プロの料理人さんだよ。
こんなにも美味しい料理をいつもいっぱい作ってくれるのに、凄くない訳がないじゃない!」
その上、孤独だった私にこんな素敵な居場所までくれたのがとても嬉しかった。
ずっと一緒に居てくれて、感謝してもしきれない。
「ありがとう……」
微笑みながら軽く私の頭に手を乗せ、触れてくれた。
何だか心がざわつく。
この気持ちが何なのかは分からなかったけど、少なくともママと二人で居た時には感じた事のない感情だったと思う。
「本当のお姉ちゃんだったら良かったのに……」
それが本音だ。
児童相談所の職員がここに何度か来たと言う事はママと一緒に居られる時間も、もうそんなに長くは残されていないのかもしれない。
そう言う意味では、ここを出て行かなければならないかもしれないし、大好きなお姉ちゃんともお別れしなければダメなのかもしれない。
そんな風に考えると余計に息苦しく感じた。
せっかく出会えたのに……。
「どうしたの?ごめん……嫌だったかな?」
撫でてくれていた手を私の頭から離した。
「ごめんね、そうじゃないの……。
色々考えていたら、何だか寂しくなって……」
ママの事も大切だけど、もっとこの人と一緒に居たいと感じる様になっていた。
「大丈夫だよ……私もずっとここに居るから、寂しくないでしょ?」
こんな優しいお姉ちゃんなのに、何で話す事を迷っていたのだろうか?
理由は分からないけど、私の事は殆ど知っているような気がする。
でも仮に話を聞いてもらった上で、避けられたり、嫌われると言うのなら、それはそれで仕方がない事なのだとさえ思えてきた。
お姉ちゃんには私の考えや、思っている事を知っていて欲しいので、頑張って話してみようと決めた。
深呼吸をして心の準備を整えた。
「お姉ちゃんに聞いて欲しい事があるの……。
前々からずっと言おうかどうしようか、迷ってた話なんだけど、どう思われるか分からないから言うのが怖くて……。嫌われたらどうしよって考えたら……言えなかった」
そんな風に話を切り出そうとした時、お姉ちゃんは私を強く抱きしめてくれた。
「私の事を信用してそう言ってくれているんだと思うけど、本当に無理して言いたくない事は言わなくて大丈夫だからね?
それでも言いたくなったと言ってくれるのなら、話はちゃんと聞くよ。
どんな内容でも嫌いになったりしないし、笑ったりもしないから安心して。
だから、そんなに緊張しなくても大丈夫……。
焦らなくて良いし、ゆっくり結菜ちゃんのスピードで話して……ね?」
そう言ってもらえて凄く安心できたし、この人なら信頼できると思った。
「私……」
丁度話し始めた時、階段を上ってくる誰かの足音が聞こえた。
「結菜―ただいま……」
隣の部屋から声がした。
え?
まだ十六時半だったし、ママが帰ってくる様な時間ではない筈だ。
「あれ?結菜―」
隣の部屋から凄い音と大きな声が聞こえている。
「結菜―、結菜―何処―?」
それで気付いた、お姉ちゃんには話が筒抜けだったのだと……。
だからこの人は私の名前も状況も全部知っていたのか……。
「お姉ちゃんは状況を全部知っていて、可哀そうな子だと馬鹿にしてたの?」
涙が止まらない。
「ちがっ……」
信じていたのに……。
「何が違うの?私を見て笑っていたんでしょ?
殴られて、蹴られて、痛がっているのを聞いて楽しんでいたの?
ご飯を食べさせてくれたのも、惨めな子を見て、自分の方がマシだと感じたかったから?」
どちらにしても、ママにバレてしまった以上私は地獄の生活に戻るしかない。
「違う……そうじゃない。
ねえ、聞いてよ。ちゃんと話そう……」
お姉ちゃんの事を信じたいと言う気持ちも少しはあったけど、それよりも「裏切られた」とか「騙された」と言う考えに支配されていて、頭の中はぐちゃぐちゃだった。
「もういい……」
お姉ちゃんの部屋を出た。
「結菜?」
私は何を信じれば良いのか分からなくなっていた。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

聖女の如く、永遠に囚われて
white love it
ミステリー
旧貴族、秦野家の令嬢だった幸子は、すでに百歳という年齢だったが、その外見は若き日に絶世の美女と謳われた頃と、少しも変わっていなかった。
彼女はその不老の美しさから、地元の人間達から今も魔女として恐れられながら、同時に敬われてもいた。
ある日、彼女の世話をする少年、遠山和人のもとに、同級生の島津良子が来る。
良子の実家で、不可解な事件が起こり、その真相を幸子に探ってほしいとのことだった。
実は幸子はその不老の美しさのみならず、もう一つの点で地元の人々から恐れられ、敬われていた。
━━彼女はまぎれもなく、名探偵だった。
登場人物
遠山和人…中学三年生。ミステリー小説が好き。
遠山ゆき…中学一年生。和人の妹。
島津良子…中学三年生。和人の同級生。痩せぎみの美少女。
工藤健… 中学三年生。和人の友人にして、作家志望。
伊藤一正…フリーのプログラマー。ある事件の犯人と疑われている。
島津守… 良子の父親。
島津佐奈…良子の母親。
島津孝之…良子の祖父。守の父親。
島津香菜…良子の祖母。守の母親。
進藤凛… 家を改装した喫茶店の女店主。
桂恵… 整形外科医。伊藤一正の同級生だった。
秦野幸子…絶世の美女にして名探偵。百歳だが、ほとんど老化しておらず、今も若い頃の美しさを保っている。

失せ物探し・一ノ瀬至遠のカノウ性~謎解きアイテムはインスタント付喪神~
わいとえぬ
ミステリー
「君の声を聴かせて」――異能の失せ物探しが、今日も依頼人たちの謎を解く。依頼された失せ物も、本人すら意識していない隠された謎も全部、全部。
カノウコウコは焦っていた。推しの動画配信者のファングッズ購入に必要なパスワードが分からないからだ。落ち着ける場所としてお気に入りのカフェへ向かうも、そこは一ノ瀬相談事務所という場所に様変わりしていた。
カノウは、そこで失せ物探しを営む白髪の美青年・一ノ瀬至遠(いちのせ・しおん)と出会う。至遠は無機物の意識を励起し、インスタント付喪神とすることで無機物たちの声を聴く異能を持つという。カノウは半信半疑ながらも、その場でスマートフォンに至遠の異能をかけてもらいパスワードを解いてもらう。が、至遠たちは一年ほど前から付喪神たちが謎を仕掛けてくる現象に悩まされており、依頼が謎解き形式となっていた。カノウはサポートの百目鬼悠玄(どうめき・ゆうげん)すすめのもと、至遠の助手となる流れになり……?
どんでん返し、あります。
独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。
総務の黒川さんは袖をまくらない
八木山
ミステリー
僕は、総務の黒川さんが好きだ。
話も合うし、お酒の趣味も合う。
彼女のことを、もっと知りたい。
・・・どうして、いつも長袖なんだ?
・僕(北野)
昏寧堂出版の中途社員。
経営企画室のサブリーダー。
30代、うかうかしていられないなと思っている
・黒川さん
昏寧堂出版の中途社員。
総務部のアイドル。
ギリギリ20代だが、思うところはある。
・水樹
昏寧堂出版のプロパー社員。
社内をちょこまか動き回っており、何をするのが仕事なのかわからない。
僕と同い年だが、女性社員の熱い視線を集めている。
・プロの人
その道のプロの人。
どこからともなく現れる有識者。
弊社のセキュリティはどうなってるんだ?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる