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2章 アパートの二人
30話 シーザーサラダも添えて
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二人分の料理がそれぞれのお皿に盛りつけられて出てきた。
これが、カルボナーラと言うものなのだろうか?
「いただきます」
凄く美味しそうだ。
しかし、やった事が無いのでフォークにパスタを上手く絡める事ができなかった。
「こうやってパスタの隙間に軽く刺してから、フォークをグルッと回すんだよ……」
食べるのに苦戦している私を見て、食べ方を実演してくれた。
「ほら、やってみて」
笑いながらではあったけど、私が真似をするのを待っている様だった。
実際にやってみると、そんなに難しい事ではない。
フォークで巻き取った部分を口に入れ、はみ出たパスタをチュルチュルっと吸い込む。
「これ、美味しいよ!」
食べた事のない味ではあったけど、私の好みだった。
「それは良かった」
やはり人が「美味しい」と言って食べてくれた時は嬉しいものなのか、凄く喜んでくれている気がした。
あまりの美味しさに二口目、三口目と、どんどん口に入れていく。
「そんなに慌てなくてもパスタは逃げないんだから、もっとゆっくり味わって食べてよ……」
いや、パスタに限らず、食べ物は逃げると思う。
今という瞬間を逃がしてしまえば、次いつ食べられるのか分からないし、それが美味しいものなのかも分からないのだ。
水道水にティッシュや新聞紙を浸け、ずっとそれを噛んで餓えから耐えてきた私にとって、今の状況は天国だけど、それは今だけかもしれない。
「ほら、ついてるよ。
女の子なんだから、顔は綺麗にしておかないと……」
そう言われて嫌な記憶が蘇り、苦しくなる。
「女は顔よ、絶対に傷付けるのはダメ……」そんなママの言葉が私の頭の中で何度もリピートされた。
「止めて!」
ティッシュで口のまわりを拭いてくれ様としたお姉ちゃんの手がママと重なってしまって、はね除ける。
衝撃でテーブルから落ちるフォーク。
「ごめんね……」
我に返ると、優しくしてくれた筈なのに酷い反応をしてしまった事に申し訳なく思う。
「それは私の台詞だよ……。ごめんなさい……」
深呼吸して、心を落ち着ける。
殴られた事、蹴られた事、そんな辛くて痛かった事が、ここでお姉ちゃんと過ごせる幸せな時間を得られる様になってからはいくらでも耐えられた。
こんなアザだらけで汚ない私を見ても気持ち悪いとも思わず、普通に接してくれて、温かいご飯まで食べさせてくれるこの人にはとても感謝している。
そう分かっていても、今の態度は流石にダメなんじゃないだろうかと思ってしまう。
家から出た事もなく、誰にも助けを求められなかった私を唯一受け入れてくれた理解者だけど、ママとの生活の事を全て話したら避けられるかもしれないし、嫌われるかもしれない。
面倒臭い奴だと思われたらどうしようかと考えると、相談できない事が余計に苦しく感じる。
お姉ちゃんには、好きでいてもらいたいし、ママと同じくらい愛して欲しい。
私は、この人の事が大好きなのだ……。
憧れ、尊敬、崇拝……あえて言葉にするならそんな感情なのだと思う。
それは「この人の様になりたい」と強く望んでいる自分がいるからなのだ。
「結菜ちゃんが謝る事はないよ、私が悪いんだから」
落としたフォークを洗ってきてくれた。
「ありがとう……私ね……」
そう言いかけると、唇の前に人差し指を立てた。
「とりあえず、食べてよ。
せっかく美味しいと言ってくれたのに、冷めたらもったいないでしょ?話はその後で……ね?」
私は無言で頷いて、再びフォークで巻き取ったパスタを口に入れる。
ああ、やっぱり美味しい。
「それに、言いたくない事は焦って無理に話さなくて大丈夫だよ?
結菜ちゃんが、聞いて欲しいと思った時に話してくれれば良いんだからね……」
食べながらゆっくりと自分の言いたい事や話したい事を整理する。
初めて会いに来てくれた時の事を思い出すと、たぶん大体の事情は知られているのだと思う。
それでも私自身の口からちゃんと話したい。
「そう言えば忘れていたんだけど、昨日作っておいたサラダがあったんだ。
良かったら食べない?」
お姉ちゃんが作ってくれた料理なら、何だって歓迎だ。
「ありがとう、もらうよ」
せっかく美味しい食事を用意してもらっているのだから今は一旦食事に集中しよう。
「口に合うかは分からないけど……」
冷蔵庫から出てきたものは、凄く濃い緑色をしていた。
「それは?」
葉っぱの様なものがステンレスのボウルにどっさり入っている。
「シーザーサラダだよ……。
メインはロメインレタスだけど、ブロックベーコンとオリーブオイルはカルボナーラと共通した材料だから簡単にできるの。
ただ、すりおろしたニンニクとマスタードが入っているから、結菜ちゃんにはちょっと辛いかもしれない」
ニンニクとマスタードが何なのか分からないので味のイメージは出来ないけど、「辛いかも」という言葉に少しビビりながら恐る恐る口に入れてみる。
でもそんなには辛くなくて、寧ろ私の好みの味だった。
「これも本当に美味しい!凄いよ、お姉ちゃん……」
感動して、涙が出てきた。
これが、カルボナーラと言うものなのだろうか?
「いただきます」
凄く美味しそうだ。
しかし、やった事が無いのでフォークにパスタを上手く絡める事ができなかった。
「こうやってパスタの隙間に軽く刺してから、フォークをグルッと回すんだよ……」
食べるのに苦戦している私を見て、食べ方を実演してくれた。
「ほら、やってみて」
笑いながらではあったけど、私が真似をするのを待っている様だった。
実際にやってみると、そんなに難しい事ではない。
フォークで巻き取った部分を口に入れ、はみ出たパスタをチュルチュルっと吸い込む。
「これ、美味しいよ!」
食べた事のない味ではあったけど、私の好みだった。
「それは良かった」
やはり人が「美味しい」と言って食べてくれた時は嬉しいものなのか、凄く喜んでくれている気がした。
あまりの美味しさに二口目、三口目と、どんどん口に入れていく。
「そんなに慌てなくてもパスタは逃げないんだから、もっとゆっくり味わって食べてよ……」
いや、パスタに限らず、食べ物は逃げると思う。
今という瞬間を逃がしてしまえば、次いつ食べられるのか分からないし、それが美味しいものなのかも分からないのだ。
水道水にティッシュや新聞紙を浸け、ずっとそれを噛んで餓えから耐えてきた私にとって、今の状況は天国だけど、それは今だけかもしれない。
「ほら、ついてるよ。
女の子なんだから、顔は綺麗にしておかないと……」
そう言われて嫌な記憶が蘇り、苦しくなる。
「女は顔よ、絶対に傷付けるのはダメ……」そんなママの言葉が私の頭の中で何度もリピートされた。
「止めて!」
ティッシュで口のまわりを拭いてくれ様としたお姉ちゃんの手がママと重なってしまって、はね除ける。
衝撃でテーブルから落ちるフォーク。
「ごめんね……」
我に返ると、優しくしてくれた筈なのに酷い反応をしてしまった事に申し訳なく思う。
「それは私の台詞だよ……。ごめんなさい……」
深呼吸して、心を落ち着ける。
殴られた事、蹴られた事、そんな辛くて痛かった事が、ここでお姉ちゃんと過ごせる幸せな時間を得られる様になってからはいくらでも耐えられた。
こんなアザだらけで汚ない私を見ても気持ち悪いとも思わず、普通に接してくれて、温かいご飯まで食べさせてくれるこの人にはとても感謝している。
そう分かっていても、今の態度は流石にダメなんじゃないだろうかと思ってしまう。
家から出た事もなく、誰にも助けを求められなかった私を唯一受け入れてくれた理解者だけど、ママとの生活の事を全て話したら避けられるかもしれないし、嫌われるかもしれない。
面倒臭い奴だと思われたらどうしようかと考えると、相談できない事が余計に苦しく感じる。
お姉ちゃんには、好きでいてもらいたいし、ママと同じくらい愛して欲しい。
私は、この人の事が大好きなのだ……。
憧れ、尊敬、崇拝……あえて言葉にするならそんな感情なのだと思う。
それは「この人の様になりたい」と強く望んでいる自分がいるからなのだ。
「結菜ちゃんが謝る事はないよ、私が悪いんだから」
落としたフォークを洗ってきてくれた。
「ありがとう……私ね……」
そう言いかけると、唇の前に人差し指を立てた。
「とりあえず、食べてよ。
せっかく美味しいと言ってくれたのに、冷めたらもったいないでしょ?話はその後で……ね?」
私は無言で頷いて、再びフォークで巻き取ったパスタを口に入れる。
ああ、やっぱり美味しい。
「それに、言いたくない事は焦って無理に話さなくて大丈夫だよ?
結菜ちゃんが、聞いて欲しいと思った時に話してくれれば良いんだからね……」
食べながらゆっくりと自分の言いたい事や話したい事を整理する。
初めて会いに来てくれた時の事を思い出すと、たぶん大体の事情は知られているのだと思う。
それでも私自身の口からちゃんと話したい。
「そう言えば忘れていたんだけど、昨日作っておいたサラダがあったんだ。
良かったら食べない?」
お姉ちゃんが作ってくれた料理なら、何だって歓迎だ。
「ありがとう、もらうよ」
せっかく美味しい食事を用意してもらっているのだから今は一旦食事に集中しよう。
「口に合うかは分からないけど……」
冷蔵庫から出てきたものは、凄く濃い緑色をしていた。
「それは?」
葉っぱの様なものがステンレスのボウルにどっさり入っている。
「シーザーサラダだよ……。
メインはロメインレタスだけど、ブロックベーコンとオリーブオイルはカルボナーラと共通した材料だから簡単にできるの。
ただ、すりおろしたニンニクとマスタードが入っているから、結菜ちゃんにはちょっと辛いかもしれない」
ニンニクとマスタードが何なのか分からないので味のイメージは出来ないけど、「辛いかも」という言葉に少しビビりながら恐る恐る口に入れてみる。
でもそんなには辛くなくて、寧ろ私の好みの味だった。
「これも本当に美味しい!凄いよ、お姉ちゃん……」
感動して、涙が出てきた。
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