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2章 アパートの二人
27話 新しい洗濯の仕事
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目が覚めると、そこは知っているいつもの部屋ではなかった。
不思議に思ってまわりを見回すと、横にはお姉ちゃんが居た。
「やっと起きたね、気持ち良さそうに眠ってたよ……」
お風呂から上がった後、少しお昼寝をしてしまったらしい。
焦って時計を確認する。
「まだ十七時半だよ?」
ママはだいたい、毎日二十二時から二十三時の間くらいに帰ってくるので、まだ時間に余裕はある。
やはり私の状況を分かっている様な言い方で、何故知っているのだろうかと不思議に思う?
「あのね……」
いや、ダメだ……。
自分の事を話そうとしたが、途中で止める。
「どうしたの?」
せっかく、ママの話題には触れないでいてくれているのに、こちらから話す様な内容ではない筈だ。
「ううん、何でもない……」
お姉ちゃんは私の頭に手を置くと、髪をクシャッとして笑った。
「無理に話さなくて良いよ……。
でも言いたくなったら、いくらでも聞くから……」
完全に考えている事を読まれている。
「ありがとう……」
そもそも朝「大丈夫?」と質問された時点で私の事を知っているのは明白、心を読まれるなんて当然じゃないかと思ってしまう。
「そう言えば結菜ちゃんの服、乾いたよ。
今日は温かかったからね」
渡された服と下着は綺麗に畳まれていた。
寝てしまう前に干してくれた様だ。
自分の服に着替えると、ママが帰ってくる前に部屋に戻らなくてはならない。
「本当にありがとう……」
今日はお礼を言ってばかりだ。
「どういたしまして」
笑いながらハグしてくれた。
「あのさぁ……またここに来ても良いかな……」
ママ以外の人と一緒に居る事がこんなにも幸せだったなんて知らなかった。
「勿論だよ。いつでも来てよ」
そんな風に言ってもらえた事が素直に嬉しかったし、いつでも来て良い新しい居場所ができた気がした。
これでまた、ママに怒られても頑張ろうと思える。
「結菜―ただいま……」
部屋に戻って一人で居ると、今日もかなりお酒臭いママが帰ってきた。
いつもと同じように私にハグをする。
「あれ、結菜?
今日は何だか綺麗ね……。
それに、石鹸の良い匂いがするわ……」
外に出た事がバレてしまったのではないかと思ったが、また怒られるのも嫌だったし、何よりもお姉ちゃんに迷惑をかけたくなかったので何とかごまかす事にした。
「そうでしょ……?
今日は、久しぶりに服のお洗濯をして、お風呂にも入ったんだよ」
嘘はついていないのだから何とかなる筈とは思いながらも、怒られるのではないかという恐怖もあった。
「そうなの?
いつもそうしていれば、良いのよ。
そうすれば、もっと綺麗でいられるのに……」
ため息が出る。
何とかごまかせたみたいだ。
「その方が、前よりずっと良いわ」
私の髪をかき上げ、そんな事を言われる。
「あ、ありがとう……」
こんな反応をされると思っていなかったし、怒られるのではないかとビクビクしていたが、その心配はなかった様だ。
「女の子は綺麗でいなくちゃダメなのよ。
結菜は私の娘なんだから可愛くない訳がないでしょ?」
いつも、「あんな男」と罵っていたパパの血も半分は入っている事についてはどう説明するんだろうかと疑問に思ったけど、容姿に関しては分からないので一旦置いておこう。
流石に、家の外に行かないと手に入らないシャンプーや化粧品、可愛い服なんかはバレてしまう危険性があるけど、この程度であれば気が付かないのだと改めて確認できた。
今日はお姉ちゃんの部屋でハンバーグと言うものをご馳走になったのでお腹が満たされていたけれど「三日間飯抜き」と言われた通り、何も買ってきてはくれていないみたいだった。
でも、これだけ食事を与えられていない状態で元気なのも不自然だから、空腹の演技も覚えないと直ぐにバレるだろうなとは思った。
「あぁそれと……」
完全に安心しきっていたのに、改めて話しかけられると何だかビクッとする。
外に出て、隣の家に行った事に気が付いたのだろうか?
怒られる?
「結菜がこんなに綺麗に洗濯できる様になったのなら、私の分もやってくれないかなぁ?」
違ったのだと、安心のため息が出た。
「うん、いいよ」
私の仕事が一つ増えたけど、頼られることは嬉しい事である。
「じゃあコレね……」
ママは流し台下の棚から何かを取り出した。
渡されたそれは箱状のもので、開けてみると中には粉状の洗剤が入っていて、プラスチックのスプーンですくうみたいだ。
今までは水でしか洗っていなかったし、私がそうしている事を知っていてお姉ちゃんもそうしてくれたので、洗剤の臭いで気付かれる事はなかった。
しかし洗剤で洗う事が許された今、もう怖がる事はない。
不思議に思ってまわりを見回すと、横にはお姉ちゃんが居た。
「やっと起きたね、気持ち良さそうに眠ってたよ……」
お風呂から上がった後、少しお昼寝をしてしまったらしい。
焦って時計を確認する。
「まだ十七時半だよ?」
ママはだいたい、毎日二十二時から二十三時の間くらいに帰ってくるので、まだ時間に余裕はある。
やはり私の状況を分かっている様な言い方で、何故知っているのだろうかと不思議に思う?
「あのね……」
いや、ダメだ……。
自分の事を話そうとしたが、途中で止める。
「どうしたの?」
せっかく、ママの話題には触れないでいてくれているのに、こちらから話す様な内容ではない筈だ。
「ううん、何でもない……」
お姉ちゃんは私の頭に手を置くと、髪をクシャッとして笑った。
「無理に話さなくて良いよ……。
でも言いたくなったら、いくらでも聞くから……」
完全に考えている事を読まれている。
「ありがとう……」
そもそも朝「大丈夫?」と質問された時点で私の事を知っているのは明白、心を読まれるなんて当然じゃないかと思ってしまう。
「そう言えば結菜ちゃんの服、乾いたよ。
今日は温かかったからね」
渡された服と下着は綺麗に畳まれていた。
寝てしまう前に干してくれた様だ。
自分の服に着替えると、ママが帰ってくる前に部屋に戻らなくてはならない。
「本当にありがとう……」
今日はお礼を言ってばかりだ。
「どういたしまして」
笑いながらハグしてくれた。
「あのさぁ……またここに来ても良いかな……」
ママ以外の人と一緒に居る事がこんなにも幸せだったなんて知らなかった。
「勿論だよ。いつでも来てよ」
そんな風に言ってもらえた事が素直に嬉しかったし、いつでも来て良い新しい居場所ができた気がした。
これでまた、ママに怒られても頑張ろうと思える。
「結菜―ただいま……」
部屋に戻って一人で居ると、今日もかなりお酒臭いママが帰ってきた。
いつもと同じように私にハグをする。
「あれ、結菜?
今日は何だか綺麗ね……。
それに、石鹸の良い匂いがするわ……」
外に出た事がバレてしまったのではないかと思ったが、また怒られるのも嫌だったし、何よりもお姉ちゃんに迷惑をかけたくなかったので何とかごまかす事にした。
「そうでしょ……?
今日は、久しぶりに服のお洗濯をして、お風呂にも入ったんだよ」
嘘はついていないのだから何とかなる筈とは思いながらも、怒られるのではないかという恐怖もあった。
「そうなの?
いつもそうしていれば、良いのよ。
そうすれば、もっと綺麗でいられるのに……」
ため息が出る。
何とかごまかせたみたいだ。
「その方が、前よりずっと良いわ」
私の髪をかき上げ、そんな事を言われる。
「あ、ありがとう……」
こんな反応をされると思っていなかったし、怒られるのではないかとビクビクしていたが、その心配はなかった様だ。
「女の子は綺麗でいなくちゃダメなのよ。
結菜は私の娘なんだから可愛くない訳がないでしょ?」
いつも、「あんな男」と罵っていたパパの血も半分は入っている事についてはどう説明するんだろうかと疑問に思ったけど、容姿に関しては分からないので一旦置いておこう。
流石に、家の外に行かないと手に入らないシャンプーや化粧品、可愛い服なんかはバレてしまう危険性があるけど、この程度であれば気が付かないのだと改めて確認できた。
今日はお姉ちゃんの部屋でハンバーグと言うものをご馳走になったのでお腹が満たされていたけれど「三日間飯抜き」と言われた通り、何も買ってきてはくれていないみたいだった。
でも、これだけ食事を与えられていない状態で元気なのも不自然だから、空腹の演技も覚えないと直ぐにバレるだろうなとは思った。
「あぁそれと……」
完全に安心しきっていたのに、改めて話しかけられると何だかビクッとする。
外に出て、隣の家に行った事に気が付いたのだろうか?
怒られる?
「結菜がこんなに綺麗に洗濯できる様になったのなら、私の分もやってくれないかなぁ?」
違ったのだと、安心のため息が出た。
「うん、いいよ」
私の仕事が一つ増えたけど、頼られることは嬉しい事である。
「じゃあコレね……」
ママは流し台下の棚から何かを取り出した。
渡されたそれは箱状のもので、開けてみると中には粉状の洗剤が入っていて、プラスチックのスプーンですくうみたいだ。
今までは水でしか洗っていなかったし、私がそうしている事を知っていてお姉ちゃんもそうしてくれたので、洗剤の臭いで気付かれる事はなかった。
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