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2章 アパートの二人
25話 お腹いっぱいのハンバーグ
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「何もできなくてごめん……もう、大丈夫だから……」
部屋に戻ろうとした私は知らないお姉ちゃんに抱きしめられた。
不思議な人も居たものだ……そんな風に抱きしめてくれるのはママだけだと思っていた。
何日も着替えず、お風呂にもろくに入っていない汗臭い身体に、ベタベタで油っぽい傷んだ髪……そんな私を汚いとは思わないのだろうか?
「ちょっと来て……」
手を掴まれると、力強く引っ張られる。
何をされるのか分からない外の世界が怖くてたまらなかった。
隣の部屋に連れ込まれると、大きなテーブルの前に座らせられる。
どうやら隣の住人と言うのは嘘ではなかったらしいけれど、私をどうするつもりなのだろうか?
何なら殺してくれれば、この苦痛から解放されて楽になれる。
一瞬そんな事を考えてしまっていた。
そもそも西宮涼香と名乗ったお姉ちゃんは、何故私の名前を知っていたのだろうか?
「待ってて……」
私の目の前に美味しそうなご飯が出される。
どうやら「ご飯食べない?」という誘いは嘘ではなかったらしい。
それは確か、だいぶ前にテレビの料理番組で見た事がある料理だった。
「ハンバーグ」とか言う名前だった気がするが、実際に食べた事はないし美味しいのかも分からない。
しかし、あまりの空腹に気を失いそうになっていたのだから何だって美味しいに決まっている。
「食べて……」
この人は何を考えているのだろう?
私に親切にしたところで何も良い事などある筈がないと言うのに……。
そんな事を思っていると、無理やりお箸を握らされる。
ママ以外からこんなにも親切にしてもらった事はなかったので、何だか怖かった。
でも空腹に耐えきれず、ご飯は頂く事にした。
「あの……もらってもいいの……?」
この後、何かを要求されたとしても私はお姉ちゃんにあげられる物など何もない。
「うん、お腹すいてるでしょ?」
どうやら、本当に善意らしい……。
そう思えた瞬間に涙が溢れてきて、自分ではコントロールできない感情のせいか、泣き止む事ができなかった。
「ゆっくりで大丈夫だから……」
お姉ちゃんは女神か天使だとでも言うのだろうか?
「何で……お姉ちゃんは私に……そんなに優しくしてくれるの……?」
止められない涙と鼻水をヨレヨレの襟で拭く。
確かに私はこんな優しさを求めていたけど、ママ以外の人を信用していなかったのも事実である。
自分に優しくしてくれる人、親切にしてくれる人なんている筈がないと心のどこかで思っていた。
「親切にするのに理由なんかいらないでしょ?
私がそうしたいからしているだけだよ?」
そんな言葉が私の心に突き刺さると、今までの辛くて苦しい生活だった日々も生きていて良かったと思えた。
「ありがとう……。
ありがとう……。
ありがとう……。
ありがとう……。
ありがとう……。
ありがとう……」
そんな言葉しか出てこなかった。
泣きながらも、お茶碗から一口ご飯を食べる。
美味しい……。
今まで生きてきて、こんなにも美味しいご飯を食べた事があっただろうか?
それどころか私はこのご飯を食べる為に、頑張って生きてこられたのかもしれないとさえ思えた。
食べた事がなかったこのハンバーグと言うお肉の塊も美味しくて感動している。
ママが買ってくるのは、いつも決まって同じもので、だいぶ前から飽きてしまっていたけど、生きるために仕方なく食べていた。
「たまには違うものがいい」と言った事もあったけど、「文句があるなら食べなくていい」と言ってママが一人で食べてしまったり、数日間ご飯をもらえなくなることも頻繁にあった。
機嫌が悪くて酷い時には「口答えするな」と言って殴られたり蹴られたりする回数が増える。
ママにとって私はペットか何かで、餌を与えている感覚だったのかもしれないと思うと、余計に涙が止まらない。
「泣くのか、お礼を言うのか、食べるのか……ゆっくりで良いって言ってるんだから一つずつにしなさいよ……」
そう言ってくれるお姉ちゃんは私にとって救いだったのだと思う。
そんな優しさに甘えて、ご飯もハンバーグもお腹いっぱいになるまで食べさせてもらった。
「ごちそうさま……美味しかった……」
こんなにもお腹も心も満たされている事なんて今までなかった。
「お腹いっぱいになった?おかわりは?」
おかわり?そんな事を言ってくれるのは嬉しいけど、もう入らないよ。
「もうお腹いっぱいだよ……ごちそうさま……」
お姉ちゃんは私が食べた後の食器を流し台にいれた。
部屋に戻ろうとした私は知らないお姉ちゃんに抱きしめられた。
不思議な人も居たものだ……そんな風に抱きしめてくれるのはママだけだと思っていた。
何日も着替えず、お風呂にもろくに入っていない汗臭い身体に、ベタベタで油っぽい傷んだ髪……そんな私を汚いとは思わないのだろうか?
「ちょっと来て……」
手を掴まれると、力強く引っ張られる。
何をされるのか分からない外の世界が怖くてたまらなかった。
隣の部屋に連れ込まれると、大きなテーブルの前に座らせられる。
どうやら隣の住人と言うのは嘘ではなかったらしいけれど、私をどうするつもりなのだろうか?
何なら殺してくれれば、この苦痛から解放されて楽になれる。
一瞬そんな事を考えてしまっていた。
そもそも西宮涼香と名乗ったお姉ちゃんは、何故私の名前を知っていたのだろうか?
「待ってて……」
私の目の前に美味しそうなご飯が出される。
どうやら「ご飯食べない?」という誘いは嘘ではなかったらしい。
それは確か、だいぶ前にテレビの料理番組で見た事がある料理だった。
「ハンバーグ」とか言う名前だった気がするが、実際に食べた事はないし美味しいのかも分からない。
しかし、あまりの空腹に気を失いそうになっていたのだから何だって美味しいに決まっている。
「食べて……」
この人は何を考えているのだろう?
私に親切にしたところで何も良い事などある筈がないと言うのに……。
そんな事を思っていると、無理やりお箸を握らされる。
ママ以外からこんなにも親切にしてもらった事はなかったので、何だか怖かった。
でも空腹に耐えきれず、ご飯は頂く事にした。
「あの……もらってもいいの……?」
この後、何かを要求されたとしても私はお姉ちゃんにあげられる物など何もない。
「うん、お腹すいてるでしょ?」
どうやら、本当に善意らしい……。
そう思えた瞬間に涙が溢れてきて、自分ではコントロールできない感情のせいか、泣き止む事ができなかった。
「ゆっくりで大丈夫だから……」
お姉ちゃんは女神か天使だとでも言うのだろうか?
「何で……お姉ちゃんは私に……そんなに優しくしてくれるの……?」
止められない涙と鼻水をヨレヨレの襟で拭く。
確かに私はこんな優しさを求めていたけど、ママ以外の人を信用していなかったのも事実である。
自分に優しくしてくれる人、親切にしてくれる人なんている筈がないと心のどこかで思っていた。
「親切にするのに理由なんかいらないでしょ?
私がそうしたいからしているだけだよ?」
そんな言葉が私の心に突き刺さると、今までの辛くて苦しい生活だった日々も生きていて良かったと思えた。
「ありがとう……。
ありがとう……。
ありがとう……。
ありがとう……。
ありがとう……。
ありがとう……」
そんな言葉しか出てこなかった。
泣きながらも、お茶碗から一口ご飯を食べる。
美味しい……。
今まで生きてきて、こんなにも美味しいご飯を食べた事があっただろうか?
それどころか私はこのご飯を食べる為に、頑張って生きてこられたのかもしれないとさえ思えた。
食べた事がなかったこのハンバーグと言うお肉の塊も美味しくて感動している。
ママが買ってくるのは、いつも決まって同じもので、だいぶ前から飽きてしまっていたけど、生きるために仕方なく食べていた。
「たまには違うものがいい」と言った事もあったけど、「文句があるなら食べなくていい」と言ってママが一人で食べてしまったり、数日間ご飯をもらえなくなることも頻繁にあった。
機嫌が悪くて酷い時には「口答えするな」と言って殴られたり蹴られたりする回数が増える。
ママにとって私はペットか何かで、餌を与えている感覚だったのかもしれないと思うと、余計に涙が止まらない。
「泣くのか、お礼を言うのか、食べるのか……ゆっくりで良いって言ってるんだから一つずつにしなさいよ……」
そう言ってくれるお姉ちゃんは私にとって救いだったのだと思う。
そんな優しさに甘えて、ご飯もハンバーグもお腹いっぱいになるまで食べさせてもらった。
「ごちそうさま……美味しかった……」
こんなにもお腹も心も満たされている事なんて今までなかった。
「お腹いっぱいになった?おかわりは?」
おかわり?そんな事を言ってくれるのは嬉しいけど、もう入らないよ。
「もうお腹いっぱいだよ……ごちそうさま……」
お姉ちゃんは私が食べた後の食器を流し台にいれた。
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