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2章 アパートの二人
15話 友情の始まり
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「大丈夫だった?
助けるのが遅くなってごめん……。
岸本先生にも相談をしてたんだけど、大事にするなって言うばかりで何もしてくれなくてさ……。
だからこんな方法しかなくて……怖い思いをさせたのなら謝るよ……」
どんな方法であれ、彼等は助けてくれたのだ。
私は首をゆっくりと横に振った。
「ありがとう……ありがとう……」
涙が止まらない。
「私……この恩をどうやって返したらいいか分からない……」
彼等はお互いの顔を見合わせてクスッと笑った。
「いいよ、そんなの。
僕達は恩を返してもらおうと思って助けている訳じゃないからさ、気にしないでよ……。
涼香ちゃんを助けたかっただけなんだから……」
「でも……助けてもらうだけって、それじゃあ気が済まないんだけど?」
私は嬉しくて、何かお礼ができないかと考えていた。
「じゃあさ、僕達と友達になってよ」
親しい友人が居ない事を知っていて提案してくれているのだとすぐに理解した。
「それだと、私はしてもらってばかりだよ?」
彼等は少しの間、考えている様だった。
「なら、恩返しじゃなくて恩送りをして欲しい……」
聞いた事のない言葉だ。
「恩送り?」
「そう……してもらって嬉しかった事を、別の困っている人にしてあげるの。
そうやって「ありがとう」が連鎖する事で、人は優しくなれると思わない?」
確かにそれはそうかも知れないけど、彼がそれで良いと言うのなら私も誰かの為に何かをしてあげたい。
「分かった……ありがとう……。
でも、どうして恩送りなの?」
「それはね……母さんの教えなんだ。
自分に返ってくる事を期待して、人に親切にするのは本当の優しさじゃない。
「僕はこんなにも親切にしてあげたのに、君はそれだけなの?」と言う考えは、恩着せがましくて好きじゃないんだよ。
その事が原因で喧嘩になったら言語道断でしょ?
だから「してあげたいから親切にする」と言うくらいが丁度良いんだよ。
恩返しを期待するくらいなら他の誰かが、自分の親切の恩恵を受けた方がよほど素敵じゃないかな?」
私は彼の言葉に共感した。
「素敵……ですね……そうします。
私の様に困っている人が居たら、きっと助けます」
無意識で敬語になってしまった。
「それでいいよ……。
あ、でも友達にはなってもらうからね?」
そんな事を言われて、上手く返事ができなかった。
「え?あ……はい……」
恩送りと言うのが良い話だったので「友達」と言う話は忘れていた。
「颯太、どうやら彼女は友達になるのは嫌みたいだよ?」
少し沈黙があった。
「え?そうなの?
急にこんな事を言って、ごめんね……。
無理にとは言わないから……」
こんな素敵な人達と友達になるのが嫌な訳がない。
「いえ、そうではなくて……。
こんな私なんかで良いのかなって……?」
クスッと笑われる。
「僕がお願いしているのに、良いも何もないでしょ?」
私は今まで自分に自信がなかっただけなのだと思う。
引っ越してきて長らく仲の良い人は居なかったけど、その日、友達が三人もできた。
「よろしくお願いしまう……」
笑われる。
「あ、噛んだ……」
「噛んだね……」
こうして私達は仲良くなった。
大事な所で滑舌が悪く、言い間違えてしまったのは恥ずかしかったけど、初めて友達ができた事はとても嬉しく思えた。
「じゃあ、さっそく今日一緒に帰らない?
家は何処?」
「お願いします……」
一緒に帰る友達?
そんなのは初めてで、少し緊張する。
「私の家は南五丁目だけど……?」
でも逆方向だったら一緒に帰るなんて無理だよね?
「え?僕達の家も南五丁目だよ?
どの辺なの?」
偶然にも住んでいたのは同じ地区で、詳しい場所を聞かれる。
「えーと、ライザを一本入った所にガソリンスタンドとコンビニがあるでしょ?」
ライザとは大通り沿いにある大型のスーパーマーケットの事である。
「あるね、その辺なの?」
「そのコンビニの裏手のアパートなんだけど……」
彼等は嬉しそうに微笑んだ。
「うちの家とめちゃ近い……じゃあ、ライザの交差点まで一緒に帰ろう」
そう誘われて以来、彼等と登下校を共にする様になった。
誠君の家がライザの交差点から私のアパートと同じ方向にある為、そこで二手に分かれる。
また、朝は七時半にライザに集まって四人で学校に行く日々が続いた。
颯太君と麻衣ちゃんの家の窓からは私が住んでいるアパートが見えるそうだったけど、私の部屋は窓の向きが逆なので、彼等の家は確認できなかった。
助けるのが遅くなってごめん……。
岸本先生にも相談をしてたんだけど、大事にするなって言うばかりで何もしてくれなくてさ……。
だからこんな方法しかなくて……怖い思いをさせたのなら謝るよ……」
どんな方法であれ、彼等は助けてくれたのだ。
私は首をゆっくりと横に振った。
「ありがとう……ありがとう……」
涙が止まらない。
「私……この恩をどうやって返したらいいか分からない……」
彼等はお互いの顔を見合わせてクスッと笑った。
「いいよ、そんなの。
僕達は恩を返してもらおうと思って助けている訳じゃないからさ、気にしないでよ……。
涼香ちゃんを助けたかっただけなんだから……」
「でも……助けてもらうだけって、それじゃあ気が済まないんだけど?」
私は嬉しくて、何かお礼ができないかと考えていた。
「じゃあさ、僕達と友達になってよ」
親しい友人が居ない事を知っていて提案してくれているのだとすぐに理解した。
「それだと、私はしてもらってばかりだよ?」
彼等は少しの間、考えている様だった。
「なら、恩返しじゃなくて恩送りをして欲しい……」
聞いた事のない言葉だ。
「恩送り?」
「そう……してもらって嬉しかった事を、別の困っている人にしてあげるの。
そうやって「ありがとう」が連鎖する事で、人は優しくなれると思わない?」
確かにそれはそうかも知れないけど、彼がそれで良いと言うのなら私も誰かの為に何かをしてあげたい。
「分かった……ありがとう……。
でも、どうして恩送りなの?」
「それはね……母さんの教えなんだ。
自分に返ってくる事を期待して、人に親切にするのは本当の優しさじゃない。
「僕はこんなにも親切にしてあげたのに、君はそれだけなの?」と言う考えは、恩着せがましくて好きじゃないんだよ。
その事が原因で喧嘩になったら言語道断でしょ?
だから「してあげたいから親切にする」と言うくらいが丁度良いんだよ。
恩返しを期待するくらいなら他の誰かが、自分の親切の恩恵を受けた方がよほど素敵じゃないかな?」
私は彼の言葉に共感した。
「素敵……ですね……そうします。
私の様に困っている人が居たら、きっと助けます」
無意識で敬語になってしまった。
「それでいいよ……。
あ、でも友達にはなってもらうからね?」
そんな事を言われて、上手く返事ができなかった。
「え?あ……はい……」
恩送りと言うのが良い話だったので「友達」と言う話は忘れていた。
「颯太、どうやら彼女は友達になるのは嫌みたいだよ?」
少し沈黙があった。
「え?そうなの?
急にこんな事を言って、ごめんね……。
無理にとは言わないから……」
こんな素敵な人達と友達になるのが嫌な訳がない。
「いえ、そうではなくて……。
こんな私なんかで良いのかなって……?」
クスッと笑われる。
「僕がお願いしているのに、良いも何もないでしょ?」
私は今まで自分に自信がなかっただけなのだと思う。
引っ越してきて長らく仲の良い人は居なかったけど、その日、友達が三人もできた。
「よろしくお願いしまう……」
笑われる。
「あ、噛んだ……」
「噛んだね……」
こうして私達は仲良くなった。
大事な所で滑舌が悪く、言い間違えてしまったのは恥ずかしかったけど、初めて友達ができた事はとても嬉しく思えた。
「じゃあ、さっそく今日一緒に帰らない?
家は何処?」
「お願いします……」
一緒に帰る友達?
そんなのは初めてで、少し緊張する。
「私の家は南五丁目だけど……?」
でも逆方向だったら一緒に帰るなんて無理だよね?
「え?僕達の家も南五丁目だよ?
どの辺なの?」
偶然にも住んでいたのは同じ地区で、詳しい場所を聞かれる。
「えーと、ライザを一本入った所にガソリンスタンドとコンビニがあるでしょ?」
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「あるね、その辺なの?」
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彼等は嬉しそうに微笑んだ。
「うちの家とめちゃ近い……じゃあ、ライザの交差点まで一緒に帰ろう」
そう誘われて以来、彼等と登下校を共にする様になった。
誠君の家がライザの交差点から私のアパートと同じ方向にある為、そこで二手に分かれる。
また、朝は七時半にライザに集まって四人で学校に行く日々が続いた。
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