孤独の恩送り

西岡咲貴

文字の大きさ
上 下
15 / 87
2章 アパートの二人

14話 いじめとの戦い

しおりを挟む
「涼香何処行った?」

「さっきトイレに行くのを見たよー」

 そんな声が聞こえたかと思うと、バケツいっぱいの水が私の入っていた個室に降り注いだ。

 全身ずぶ濡れになりながらも、悲鳴を上げたい感情をおさえて必死に耐えた。

「おい涼香!
 居るんだろ?
 隠れていないで出て来いよ!」

 クラスメイト達のそんな声が響いていたが、私は出ていく事ができなかった。

 どうして私はこんなにも他人と仲良くできないのだろうか?

 彼女達と違う所といえば片親で、母があまり家に帰ってこない寂しい鍵っ子だという事くらいだ。

 だがそれは、悪い事なのだろうか?

 いや、よくよく考えてみれば親にすら愛されない子が他人に好きになってもらえないのは当然なのではないか?

 私は誰からも望まれていないし、必要ともされていない。

 そう思うと、何だか喉が詰まった様な感覚に襲われ、息苦しく感じる。

 次の瞬間、胃の内容物が口に向かって逆流してくるのが分かった。

 幸いにもここはトイレだ、便座のフタを開ける。

「うぉえぇぇぇぇっ」

「上杉先輩、そんな事をして楽しいんですか?」

「あ?お前誰だよ?関係ねーだろ?」

 しばらくして外でそんなやり取りが聞こえてきたかと思うと、誰かが殴られる音や窓ガラスが割れる様な音が続いた。

 数分で静かになったけど、その後何度かノックの音が響く。

「大丈夫?」

 そーと扉を開けて、覗いてみると知らない女の子がこちらを見ていた。

「もう大丈夫だから……」

 彼女はそう言って私の手を握ると、外へ連れ出した。

 座り込んで顔をおさえる子、完全に気絶している子、肩をおさえながらこちらを睨みつけている子等、見える範囲にはそんなクラスメイトが六人も居たけど、彼女一人でこれをやったというのだろうか?

「どうして私を助けてくれたの?」

 下級生の教室へ連れて行かれ、彼女は体操服とジャージを貸してくれた。

 濡れたままでは風邪をひくから着替えろという事らしい。

「困っている子がいるのなら、助ける事に理由なんていらないでしょ?」

 その後は着替える為に保健室に連れていかれる。

「でもあなたは、学年も違うのに私の事なんて知らないでしょ?」

 少し考えている様だった。

「それはね、お兄ちゃん達があなたを助けたいって言っていたから……。
 でも、あなたはトイレの個室に隠れていて手を出せなかった。
 男子が女子トイレに入って、さっきと同じ様な事をすれば、今以上に大事になるでしょ?
 だから妹の私が、代わりに……」

 そんな話を聞き、助けようとしてくれていたクラスメイトが居た事に涙が溢れ出した。

「あなたのお兄さんって?」

 渡された体操服の胸に刻まれた名前を確認する。

「高田……さん……?」

「そう。
 お兄ちゃんの名前は高田颯太、私は麻衣。
 よろしくね……」

 そう言って私に微笑む彼女は女神か天使に見えた。

 話をしながら保健室に到着すると、中には見知ったクラスメイトが二人いた。

 高田颯太君と川島誠君だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

死神

SUKEZA
ミステリー
自分の失態により全てを失った芸人が、死神に魂と引き換えに願いを叶えてもらい人生をやりなおす、、、

聖女の如く、永遠に囚われて

white love it
ミステリー
旧貴族、秦野家の令嬢だった幸子は、すでに百歳という年齢だったが、その外見は若き日に絶世の美女と謳われた頃と、少しも変わっていなかった。 彼女はその不老の美しさから、地元の人間達から今も魔女として恐れられながら、同時に敬われてもいた。 ある日、彼女の世話をする少年、遠山和人のもとに、同級生の島津良子が来る。 良子の実家で、不可解な事件が起こり、その真相を幸子に探ってほしいとのことだった。 実は幸子はその不老の美しさのみならず、もう一つの点で地元の人々から恐れられ、敬われていた。 ━━彼女はまぎれもなく、名探偵だった。 登場人物 遠山和人…中学三年生。ミステリー小説が好き。 遠山ゆき…中学一年生。和人の妹。 島津良子…中学三年生。和人の同級生。痩せぎみの美少女。 工藤健… 中学三年生。和人の友人にして、作家志望。 伊藤一正…フリーのプログラマー。ある事件の犯人と疑われている。 島津守… 良子の父親。 島津佐奈…良子の母親。 島津孝之…良子の祖父。守の父親。 島津香菜…良子の祖母。守の母親。 進藤凛… 家を改装した喫茶店の女店主。 桂恵…  整形外科医。伊藤一正の同級生だった。 秦野幸子…絶世の美女にして名探偵。百歳だが、ほとんど老化しておらず、今も若い頃の美しさを保っている。

失せ物探し・一ノ瀬至遠のカノウ性~謎解きアイテムはインスタント付喪神~

わいとえぬ
ミステリー
「君の声を聴かせて」――異能の失せ物探しが、今日も依頼人たちの謎を解く。依頼された失せ物も、本人すら意識していない隠された謎も全部、全部。 カノウコウコは焦っていた。推しの動画配信者のファングッズ購入に必要なパスワードが分からないからだ。落ち着ける場所としてお気に入りのカフェへ向かうも、そこは一ノ瀬相談事務所という場所に様変わりしていた。 カノウは、そこで失せ物探しを営む白髪の美青年・一ノ瀬至遠(いちのせ・しおん)と出会う。至遠は無機物の意識を励起し、インスタント付喪神とすることで無機物たちの声を聴く異能を持つという。カノウは半信半疑ながらも、その場でスマートフォンに至遠の異能をかけてもらいパスワードを解いてもらう。が、至遠たちは一年ほど前から付喪神たちが謎を仕掛けてくる現象に悩まされており、依頼が謎解き形式となっていた。カノウはサポートの百目鬼悠玄(どうめき・ゆうげん)すすめのもと、至遠の助手となる流れになり……? どんでん返し、あります。

独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立

水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~ 第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。 ◇◇◇◇ 飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。 仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。 退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。 他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。 おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。 

放課後は、喫茶店で謎解きを 〜佐世保ジャズカフェの事件目録(ディスコグラフィ)〜

邑上主水
ミステリー
 かつて「ジャズの聖地」と呼ばれた長崎県佐世保市の商店街にひっそりと店を構えるジャズ・カフェ「ビハインド・ザ・ビート」──  ひょんなことから、このカフェで働くジャズ好きの少女・有栖川ちひろと出会った主人公・住吉は、彼女とともに舞い込むジャズレコードにまつわる謎を解き明かしていく。  だがそんな中、有栖川には秘められた過去があることがわかり──。  これは、かつてジャズの聖地と言われた佐世保に今もひっそりと流れ続けている、ジャズ・ミュージックにまつわる切なくもあたたかい「想い」の物語。

処理中です...