孤独の恩送り

西岡咲貴

文字の大きさ
上 下
9 / 87
1章 神様を信じますか?

8話 祠の効果

しおりを挟む
 洞窟の祠に着いた僕は三百円を置いて、願いを込めながら手を合わせ、目を閉じた。

 ここは考え事をしたい時によく訪れた海岸。

 一人で居るのを心配して探しに来た誠と一緒に見つけた場所。

 賽銭として千円札を置いた先客は何をお願いしたのだろうかと気になったが、それを知る術はない。

 こんな見つけにくい所にあるのだから凄い力があると錯覚しても不思議ではないし、仮に「恋愛成就」なんかを願っていたら素敵だなと思ってしまう。

 実際は分からないけど、そう言う事を想像するのも歴史のロマンだと感じている。

「あんなところに洞窟なんてあった?」

 と誠が指をさしながら聞いてきたので、こんな洞窟があった事を知ったし、勿論僕の記憶にもなかった場所だった。

 気になって入ってみると一番奥に古い祠が現れたのだ。

「もしも俺がこの祠に祈って願いが叶ったら、お前も悩んでいる事とか思っている事をこの祠に聞いてもらうって言うのはどうだ?」

 こいつは何を言っているんだ?

 神なんて居る訳がないじゃないか。

「嫌だよ、僕の悩みは神なんて言う曖昧なものに頼りたくない……」

 その時の会話をハッキリと覚えている。

「だったら良いじゃないか、神が曖昧だと言うのなら俺の願いも叶う訳なんてないって事だろ?
 仮に叶ったなら神は居るんだという証明にもなるはずだしな……」

 バカバカしい。

「そんな事言って、何を願うつもりだよ?」

 彼は少しの間考えている様だった。

「今度のテストで良い点が取れます様に!と言うのはどうだ?」

 は?

「そんなのは個人の努力次第だろ?」

 いや待てよ、こいつの性格はよく分かっているがテスト前でも全く勉強せず遊んで、点数を取れないのがいつもの流れだ。

 高得点を取るには神でも居なければ無理な話か……。

「そんな事はないぞ、俺は勉強をしてもなかなか良い点数なんて取れないからなぁ」

 威張るところなのだろうかとは思ったが、そこまで言うなら仕方がない。

「はぁ……分かった……」

 ため息をついてから、しぶしぶ了解する。

「良いじゃないか?
 誰だって、人に話を聞いてもらえるだけで気持ちが楽になるものだろ?」

 何故既に願いが叶った事になって話が進んでいるのかは謎だ……。

「いやその話だと、人に話を聞いてもらうというよりは神に聞いてもらっている訳だが……」

「細かい事を気にするなよ」

 そんな会話があった後、彼はズボンの右ポケットから百円玉を三枚取り出した。

「神に頼み事をするのにタダっていう訳に行かないよな?
 賽銭ってこれでいいかな?」

 そう言って祠の前に三百円を置いた。

「次のテストで良い点が取れますように」

 手を合わせて、目を閉じる。

 そんなに簡単に願いが叶うなら誰も苦労などしないだろう、バカバカしい。

 その時はそう思ったのを覚えている。

 今だって誠が言う様な神の力なんて信じてはいない。

 もし神が居るのなら、涼香ちゃんを助けに行った母さんを殺すなんてそんな残酷な事はしないだろう。

 それとも彼女は死ななければならない程の大罪を犯したとでも言うのだろうか?

 そんな風に考えていたけど、僕には一つ望みがあった。

 それは涼香ちゃんにちゃんと謝って仲直りする事だ。

 謝る勇気が欲しい……。

 あの火事から結構経ってしまったけど、あんな事を言ってしまって彼女を相当傷付けたと思う。

 母さんが死んだのは彼女の責任である筈はなかったのに考えなしに酷い事を言ってしまった。

 あれから彼女はしばらく来なかった事もあって、関係は悪化した。

 学校には体調が悪いと「病欠」で申請されていたが、そんな理由でない事は僕が一番分かっていたし、しばらく顔を見たくなかったのも理解できる。

 それまでは妹の麻衣と誠を含めた仲良し四人組で何をする時も一緒だったと言うのに、僕がその関係を壊してしまった。

 しばらくして学校に来た彼女の態度は変わり、こちらも彼女を避ける様になってしまった。

 そんな、関係の修復を望むのに三百円の賽銭は安すぎるだろうか?

 でも、賽銭の相場なんて分からない。

 たぶん誠は神の存在よりも「神の力」という「言葉」を使って僕の背中を押してくれようとしたのだろう。

 実際問題として「神の力」はどちらでも良くて、仲直りできるきっかけが欲しかっただけなのだと今なら分かる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

死神

SUKEZA
ミステリー
自分の失態により全てを失った芸人が、死神に魂と引き換えに願いを叶えてもらい人生をやりなおす、、、

聖女の如く、永遠に囚われて

white love it
ミステリー
旧貴族、秦野家の令嬢だった幸子は、すでに百歳という年齢だったが、その外見は若き日に絶世の美女と謳われた頃と、少しも変わっていなかった。 彼女はその不老の美しさから、地元の人間達から今も魔女として恐れられながら、同時に敬われてもいた。 ある日、彼女の世話をする少年、遠山和人のもとに、同級生の島津良子が来る。 良子の実家で、不可解な事件が起こり、その真相を幸子に探ってほしいとのことだった。 実は幸子はその不老の美しさのみならず、もう一つの点で地元の人々から恐れられ、敬われていた。 ━━彼女はまぎれもなく、名探偵だった。 登場人物 遠山和人…中学三年生。ミステリー小説が好き。 遠山ゆき…中学一年生。和人の妹。 島津良子…中学三年生。和人の同級生。痩せぎみの美少女。 工藤健… 中学三年生。和人の友人にして、作家志望。 伊藤一正…フリーのプログラマー。ある事件の犯人と疑われている。 島津守… 良子の父親。 島津佐奈…良子の母親。 島津孝之…良子の祖父。守の父親。 島津香菜…良子の祖母。守の母親。 進藤凛… 家を改装した喫茶店の女店主。 桂恵…  整形外科医。伊藤一正の同級生だった。 秦野幸子…絶世の美女にして名探偵。百歳だが、ほとんど老化しておらず、今も若い頃の美しさを保っている。

失せ物探し・一ノ瀬至遠のカノウ性~謎解きアイテムはインスタント付喪神~

わいとえぬ
ミステリー
「君の声を聴かせて」――異能の失せ物探しが、今日も依頼人たちの謎を解く。依頼された失せ物も、本人すら意識していない隠された謎も全部、全部。 カノウコウコは焦っていた。推しの動画配信者のファングッズ購入に必要なパスワードが分からないからだ。落ち着ける場所としてお気に入りのカフェへ向かうも、そこは一ノ瀬相談事務所という場所に様変わりしていた。 カノウは、そこで失せ物探しを営む白髪の美青年・一ノ瀬至遠(いちのせ・しおん)と出会う。至遠は無機物の意識を励起し、インスタント付喪神とすることで無機物たちの声を聴く異能を持つという。カノウは半信半疑ながらも、その場でスマートフォンに至遠の異能をかけてもらいパスワードを解いてもらう。が、至遠たちは一年ほど前から付喪神たちが謎を仕掛けてくる現象に悩まされており、依頼が謎解き形式となっていた。カノウはサポートの百目鬼悠玄(どうめき・ゆうげん)すすめのもと、至遠の助手となる流れになり……? どんでん返し、あります。

独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立

水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~ 第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。 ◇◇◇◇ 飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。 仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。 退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。 他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。 おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。 

総務の黒川さんは袖をまくらない

八木山
ミステリー
僕は、総務の黒川さんが好きだ。 話も合うし、お酒の趣味も合う。 彼女のことを、もっと知りたい。 ・・・どうして、いつも長袖なんだ? ・僕(北野) 昏寧堂出版の中途社員。 経営企画室のサブリーダー。 30代、うかうかしていられないなと思っている ・黒川さん 昏寧堂出版の中途社員。 総務部のアイドル。 ギリギリ20代だが、思うところはある。 ・水樹 昏寧堂出版のプロパー社員。 社内をちょこまか動き回っており、何をするのが仕事なのかわからない。 僕と同い年だが、女性社員の熱い視線を集めている。 ・プロの人 その道のプロの人。 どこからともなく現れる有識者。 弊社のセキュリティはどうなってるんだ?

処理中です...