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1章 神様を信じますか?
8話 祠の効果
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洞窟の祠に着いた僕は三百円を置いて、願いを込めながら手を合わせ、目を閉じた。
ここは考え事をしたい時によく訪れた海岸。
一人で居るのを心配して探しに来た誠と一緒に見つけた場所。
賽銭として千円札を置いた先客は何をお願いしたのだろうかと気になったが、それを知る術はない。
こんな見つけにくい所にあるのだから凄い力があると錯覚しても不思議ではないし、仮に「恋愛成就」なんかを願っていたら素敵だなと思ってしまう。
実際は分からないけど、そう言う事を想像するのも歴史のロマンだと感じている。
「あんなところに洞窟なんてあった?」
と誠が指をさしながら聞いてきたので、こんな洞窟があった事を知ったし、勿論僕の記憶にもなかった場所だった。
気になって入ってみると一番奥に古い祠が現れたのだ。
「もしも俺がこの祠に祈って願いが叶ったら、お前も悩んでいる事とか思っている事をこの祠に聞いてもらうって言うのはどうだ?」
こいつは何を言っているんだ?
神なんて居る訳がないじゃないか。
「嫌だよ、僕の悩みは神なんて言う曖昧なものに頼りたくない……」
その時の会話をハッキリと覚えている。
「だったら良いじゃないか、神が曖昧だと言うのなら俺の願いも叶う訳なんてないって事だろ?
仮に叶ったなら神は居るんだという証明にもなるはずだしな……」
バカバカしい。
「そんな事言って、何を願うつもりだよ?」
彼は少しの間考えている様だった。
「今度のテストで良い点が取れます様に!と言うのはどうだ?」
は?
「そんなのは個人の努力次第だろ?」
いや待てよ、こいつの性格はよく分かっているがテスト前でも全く勉強せず遊んで、点数を取れないのがいつもの流れだ。
高得点を取るには神でも居なければ無理な話か……。
「そんな事はないぞ、俺は勉強をしてもなかなか良い点数なんて取れないからなぁ」
威張るところなのだろうかとは思ったが、そこまで言うなら仕方がない。
「はぁ……分かった……」
ため息をついてから、しぶしぶ了解する。
「良いじゃないか?
誰だって、人に話を聞いてもらえるだけで気持ちが楽になるものだろ?」
何故既に願いが叶った事になって話が進んでいるのかは謎だ……。
「いやその話だと、人に話を聞いてもらうというよりは神に聞いてもらっている訳だが……」
「細かい事を気にするなよ」
そんな会話があった後、彼はズボンの右ポケットから百円玉を三枚取り出した。
「神に頼み事をするのにタダっていう訳に行かないよな?
賽銭ってこれでいいかな?」
そう言って祠の前に三百円を置いた。
「次のテストで良い点が取れますように」
手を合わせて、目を閉じる。
そんなに簡単に願いが叶うなら誰も苦労などしないだろう、バカバカしい。
その時はそう思ったのを覚えている。
今だって誠が言う様な神の力なんて信じてはいない。
もし神が居るのなら、涼香ちゃんを助けに行った母さんを殺すなんてそんな残酷な事はしないだろう。
それとも彼女は死ななければならない程の大罪を犯したとでも言うのだろうか?
そんな風に考えていたけど、僕には一つ望みがあった。
それは涼香ちゃんにちゃんと謝って仲直りする事だ。
謝る勇気が欲しい……。
あの火事から結構経ってしまったけど、あんな事を言ってしまって彼女を相当傷付けたと思う。
母さんが死んだのは彼女の責任である筈はなかったのに考えなしに酷い事を言ってしまった。
あれから彼女はしばらく来なかった事もあって、関係は悪化した。
学校には体調が悪いと「病欠」で申請されていたが、そんな理由でない事は僕が一番分かっていたし、しばらく顔を見たくなかったのも理解できる。
それまでは妹の麻衣と誠を含めた仲良し四人組で何をする時も一緒だったと言うのに、僕がその関係を壊してしまった。
しばらくして学校に来た彼女の態度は変わり、こちらも彼女を避ける様になってしまった。
そんな、関係の修復を望むのに三百円の賽銭は安すぎるだろうか?
でも、賽銭の相場なんて分からない。
たぶん誠は神の存在よりも「神の力」という「言葉」を使って僕の背中を押してくれようとしたのだろう。
実際問題として「神の力」はどちらでも良くて、仲直りできるきっかけが欲しかっただけなのだと今なら分かる。
ここは考え事をしたい時によく訪れた海岸。
一人で居るのを心配して探しに来た誠と一緒に見つけた場所。
賽銭として千円札を置いた先客は何をお願いしたのだろうかと気になったが、それを知る術はない。
こんな見つけにくい所にあるのだから凄い力があると錯覚しても不思議ではないし、仮に「恋愛成就」なんかを願っていたら素敵だなと思ってしまう。
実際は分からないけど、そう言う事を想像するのも歴史のロマンだと感じている。
「あんなところに洞窟なんてあった?」
と誠が指をさしながら聞いてきたので、こんな洞窟があった事を知ったし、勿論僕の記憶にもなかった場所だった。
気になって入ってみると一番奥に古い祠が現れたのだ。
「もしも俺がこの祠に祈って願いが叶ったら、お前も悩んでいる事とか思っている事をこの祠に聞いてもらうって言うのはどうだ?」
こいつは何を言っているんだ?
神なんて居る訳がないじゃないか。
「嫌だよ、僕の悩みは神なんて言う曖昧なものに頼りたくない……」
その時の会話をハッキリと覚えている。
「だったら良いじゃないか、神が曖昧だと言うのなら俺の願いも叶う訳なんてないって事だろ?
仮に叶ったなら神は居るんだという証明にもなるはずだしな……」
バカバカしい。
「そんな事言って、何を願うつもりだよ?」
彼は少しの間考えている様だった。
「今度のテストで良い点が取れます様に!と言うのはどうだ?」
は?
「そんなのは個人の努力次第だろ?」
いや待てよ、こいつの性格はよく分かっているがテスト前でも全く勉強せず遊んで、点数を取れないのがいつもの流れだ。
高得点を取るには神でも居なければ無理な話か……。
「そんな事はないぞ、俺は勉強をしてもなかなか良い点数なんて取れないからなぁ」
威張るところなのだろうかとは思ったが、そこまで言うなら仕方がない。
「はぁ……分かった……」
ため息をついてから、しぶしぶ了解する。
「良いじゃないか?
誰だって、人に話を聞いてもらえるだけで気持ちが楽になるものだろ?」
何故既に願いが叶った事になって話が進んでいるのかは謎だ……。
「いやその話だと、人に話を聞いてもらうというよりは神に聞いてもらっている訳だが……」
「細かい事を気にするなよ」
そんな会話があった後、彼はズボンの右ポケットから百円玉を三枚取り出した。
「神に頼み事をするのにタダっていう訳に行かないよな?
賽銭ってこれでいいかな?」
そう言って祠の前に三百円を置いた。
「次のテストで良い点が取れますように」
手を合わせて、目を閉じる。
そんなに簡単に願いが叶うなら誰も苦労などしないだろう、バカバカしい。
その時はそう思ったのを覚えている。
今だって誠が言う様な神の力なんて信じてはいない。
もし神が居るのなら、涼香ちゃんを助けに行った母さんを殺すなんてそんな残酷な事はしないだろう。
それとも彼女は死ななければならない程の大罪を犯したとでも言うのだろうか?
そんな風に考えていたけど、僕には一つ望みがあった。
それは涼香ちゃんにちゃんと謝って仲直りする事だ。
謝る勇気が欲しい……。
あの火事から結構経ってしまったけど、あんな事を言ってしまって彼女を相当傷付けたと思う。
母さんが死んだのは彼女の責任である筈はなかったのに考えなしに酷い事を言ってしまった。
あれから彼女はしばらく来なかった事もあって、関係は悪化した。
学校には体調が悪いと「病欠」で申請されていたが、そんな理由でない事は僕が一番分かっていたし、しばらく顔を見たくなかったのも理解できる。
それまでは妹の麻衣と誠を含めた仲良し四人組で何をする時も一緒だったと言うのに、僕がその関係を壊してしまった。
しばらくして学校に来た彼女の態度は変わり、こちらも彼女を避ける様になってしまった。
そんな、関係の修復を望むのに三百円の賽銭は安すぎるだろうか?
でも、賽銭の相場なんて分からない。
たぶん誠は神の存在よりも「神の力」という「言葉」を使って僕の背中を押してくれようとしたのだろう。
実際問題として「神の力」はどちらでも良くて、仲直りできるきっかけが欲しかっただけなのだと今なら分かる。
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