3 / 87
1章 神様を信じますか?
2話 神様への願い
しおりを挟む
「神様って信じるか?」
いつもの朝、学校に向かって歩いていた時、朝食のトーストをかじりながら隣を歩く誠にふとそんな事を聞かれる。
「神ってなんだよ?
変な宗教でも始めたのか?」
普段から仲の良い友人が、急に神などと口にしたらそう思うのも無理はない。
少なくとも僕はそんな非科学的な存在を認めてはいなかった。
「いや、宗教の話じゃないよ……」
神と言われれば高額な壺や装飾品を買わされる詐欺紛いの商法や祈れば夢が叶う等という何の根拠もない怪しげなイメージしかない。
「それ、本当に大丈夫な話なのか?」
彼は変な顔をして「そんなんじゃない」と言う。
何度も家に勧誘の二人組が来て、興味がない話を長々とされて迷惑だった事を思い出す。
だがその一方で、元旦には初詣に行き賽銭箱にお金を入れてお祈りをしている。
そういう意味では日本人の多くが仏教徒なのかとも思うけど、十二月にはクリスマスを祝っているところをみるとキリスト教徒でもあるのではないかと考えていた時期もあった。
「じゃあ何だよ?」
それは単に一年の恒例行事であって信仰とは違うのだと父さんは言っていた。
皆何かしらの理由をつけて酒が飲みたいだけなのだという。
極論だろうと思う部分はあるものの、その側面がある事も否定できない自分がいた。
社会は悲しさとストレスで溢れているから、大人は酒を飲まないとやっていられないのも事実だ。
母さんが亡くなって悲しんだ経験から今でもそう思っている。
あんな事があって心を閉ざしてしまった僕を元気づけてくれたのは妹と誠で、二人には感謝してもしきれない。
しかし、だからと言って彼の怪しげな話を信じる訳には行かない。
本人は違うと言っているが、洗脳されていたとしたらそれに気付く術はなく、変な宗教に首を突っ込んでいるなら友人として止めなければならない。
個人的にも信仰を押し付けられるのは迷惑以外の何ものでもないのだ。
母さんの為に祈りたいという気持ちはゼロではないが、無宗教で神や仏を特に信じていなかった彼女がそんな事をして喜ぶとも思えない。
「例の洞窟だよ……」
そんな事を考えていると彼は予想していなかった言葉を口にした。
僕と誠が最近よく行っていた海岸に不思議な形をした洞窟がある。
潮が引く時だけ中に入る事ができ、その一番奥に小さな祠がある。
「あー成る程、そういう話か……」
何の神が祀られているのかは知らないけど、その祠に祈ると願い事が叶う……。
そう信じているようだった。
潮が引いた時、彼はその祠の前に百円玉を三枚置いて手を合わせ、「次のテストで良い点が取れますように」と願った。
するとどうだろうか、数日後のテストで見事に全問正解の満点を取ってしまったのだ。
マーク式だったために当てずっぽうで黒く塗り潰した答案用紙をみて一番驚いていたのは彼自身だ。
勿論自分がどれにマークをしたのかなんて覚えてもいない。
洞窟を見つけたのは偶然だったし、祠の前で祈ったのも遊び半分だった。
しかし、実際に全く勉強をせずに満点を取ってしまった彼はその神の力を信じずにはいられなかったのだと思う。
「一問も分からなかったのに満点って凄いよな……」
数日後にまたその場所を訪れたが、洞窟の入り口は浸水していて入る事は出来ずじまい。
僕達はその場所に毎日通い、潮が引いて洞窟に入れるようになる周期を調べた。
正直僕は彼のテストの件が、ただの偶然だったのではないかと思っている。
仮に本当にそんな力があるというのならそれはそれで凄い事ではあるのだが……。
「それでなんだが……」
言いたい事は分かっている。
僕達の調査の結果、潮が引いて洞窟に入れる様になるのは明日だ。
「何か望みでも?」
前回が偶然だったのかどうか、今回でハッキリするだろう。
「ちげーよ。
お前の願いを叶えるんだよ……。
もし、成功したらこの力が本物だって証明できる!」
彼には呆れる。
そんな力が本物である筈がない。
「はぁ……分かった……」
ため息をついてから、しぶしぶ了解する。
僕の願いが叶わない事でこの力が偽物であると証明でき、彼を黙らせる事ができるのだとしたらそれも悪くはない。
「よし、じゃあ望みは何にする?」
正直な話、今の僕には神に祈る丁度良い望みなど特にない。
適当に言ってすぐに叶う様であれば、彼は調子にのるだろう。
だからこそ、ここは「なかなか叶わない事」を願っている風を装う必要性がある。
だが、絶対に叶わない無茶な事を言えばナメているのか!と怒り出すに違いない。
何かピッタリな望みはないだろうか?
いつもの朝、学校に向かって歩いていた時、朝食のトーストをかじりながら隣を歩く誠にふとそんな事を聞かれる。
「神ってなんだよ?
変な宗教でも始めたのか?」
普段から仲の良い友人が、急に神などと口にしたらそう思うのも無理はない。
少なくとも僕はそんな非科学的な存在を認めてはいなかった。
「いや、宗教の話じゃないよ……」
神と言われれば高額な壺や装飾品を買わされる詐欺紛いの商法や祈れば夢が叶う等という何の根拠もない怪しげなイメージしかない。
「それ、本当に大丈夫な話なのか?」
彼は変な顔をして「そんなんじゃない」と言う。
何度も家に勧誘の二人組が来て、興味がない話を長々とされて迷惑だった事を思い出す。
だがその一方で、元旦には初詣に行き賽銭箱にお金を入れてお祈りをしている。
そういう意味では日本人の多くが仏教徒なのかとも思うけど、十二月にはクリスマスを祝っているところをみるとキリスト教徒でもあるのではないかと考えていた時期もあった。
「じゃあ何だよ?」
それは単に一年の恒例行事であって信仰とは違うのだと父さんは言っていた。
皆何かしらの理由をつけて酒が飲みたいだけなのだという。
極論だろうと思う部分はあるものの、その側面がある事も否定できない自分がいた。
社会は悲しさとストレスで溢れているから、大人は酒を飲まないとやっていられないのも事実だ。
母さんが亡くなって悲しんだ経験から今でもそう思っている。
あんな事があって心を閉ざしてしまった僕を元気づけてくれたのは妹と誠で、二人には感謝してもしきれない。
しかし、だからと言って彼の怪しげな話を信じる訳には行かない。
本人は違うと言っているが、洗脳されていたとしたらそれに気付く術はなく、変な宗教に首を突っ込んでいるなら友人として止めなければならない。
個人的にも信仰を押し付けられるのは迷惑以外の何ものでもないのだ。
母さんの為に祈りたいという気持ちはゼロではないが、無宗教で神や仏を特に信じていなかった彼女がそんな事をして喜ぶとも思えない。
「例の洞窟だよ……」
そんな事を考えていると彼は予想していなかった言葉を口にした。
僕と誠が最近よく行っていた海岸に不思議な形をした洞窟がある。
潮が引く時だけ中に入る事ができ、その一番奥に小さな祠がある。
「あー成る程、そういう話か……」
何の神が祀られているのかは知らないけど、その祠に祈ると願い事が叶う……。
そう信じているようだった。
潮が引いた時、彼はその祠の前に百円玉を三枚置いて手を合わせ、「次のテストで良い点が取れますように」と願った。
するとどうだろうか、数日後のテストで見事に全問正解の満点を取ってしまったのだ。
マーク式だったために当てずっぽうで黒く塗り潰した答案用紙をみて一番驚いていたのは彼自身だ。
勿論自分がどれにマークをしたのかなんて覚えてもいない。
洞窟を見つけたのは偶然だったし、祠の前で祈ったのも遊び半分だった。
しかし、実際に全く勉強をせずに満点を取ってしまった彼はその神の力を信じずにはいられなかったのだと思う。
「一問も分からなかったのに満点って凄いよな……」
数日後にまたその場所を訪れたが、洞窟の入り口は浸水していて入る事は出来ずじまい。
僕達はその場所に毎日通い、潮が引いて洞窟に入れるようになる周期を調べた。
正直僕は彼のテストの件が、ただの偶然だったのではないかと思っている。
仮に本当にそんな力があるというのならそれはそれで凄い事ではあるのだが……。
「それでなんだが……」
言いたい事は分かっている。
僕達の調査の結果、潮が引いて洞窟に入れる様になるのは明日だ。
「何か望みでも?」
前回が偶然だったのかどうか、今回でハッキリするだろう。
「ちげーよ。
お前の願いを叶えるんだよ……。
もし、成功したらこの力が本物だって証明できる!」
彼には呆れる。
そんな力が本物である筈がない。
「はぁ……分かった……」
ため息をついてから、しぶしぶ了解する。
僕の願いが叶わない事でこの力が偽物であると証明でき、彼を黙らせる事ができるのだとしたらそれも悪くはない。
「よし、じゃあ望みは何にする?」
正直な話、今の僕には神に祈る丁度良い望みなど特にない。
適当に言ってすぐに叶う様であれば、彼は調子にのるだろう。
だからこそ、ここは「なかなか叶わない事」を願っている風を装う必要性がある。
だが、絶対に叶わない無茶な事を言えばナメているのか!と怒り出すに違いない。
何かピッタリな望みはないだろうか?
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

聖女の如く、永遠に囚われて
white love it
ミステリー
旧貴族、秦野家の令嬢だった幸子は、すでに百歳という年齢だったが、その外見は若き日に絶世の美女と謳われた頃と、少しも変わっていなかった。
彼女はその不老の美しさから、地元の人間達から今も魔女として恐れられながら、同時に敬われてもいた。
ある日、彼女の世話をする少年、遠山和人のもとに、同級生の島津良子が来る。
良子の実家で、不可解な事件が起こり、その真相を幸子に探ってほしいとのことだった。
実は幸子はその不老の美しさのみならず、もう一つの点で地元の人々から恐れられ、敬われていた。
━━彼女はまぎれもなく、名探偵だった。
登場人物
遠山和人…中学三年生。ミステリー小説が好き。
遠山ゆき…中学一年生。和人の妹。
島津良子…中学三年生。和人の同級生。痩せぎみの美少女。
工藤健… 中学三年生。和人の友人にして、作家志望。
伊藤一正…フリーのプログラマー。ある事件の犯人と疑われている。
島津守… 良子の父親。
島津佐奈…良子の母親。
島津孝之…良子の祖父。守の父親。
島津香菜…良子の祖母。守の母親。
進藤凛… 家を改装した喫茶店の女店主。
桂恵… 整形外科医。伊藤一正の同級生だった。
秦野幸子…絶世の美女にして名探偵。百歳だが、ほとんど老化しておらず、今も若い頃の美しさを保っている。

失せ物探し・一ノ瀬至遠のカノウ性~謎解きアイテムはインスタント付喪神~
わいとえぬ
ミステリー
「君の声を聴かせて」――異能の失せ物探しが、今日も依頼人たちの謎を解く。依頼された失せ物も、本人すら意識していない隠された謎も全部、全部。
カノウコウコは焦っていた。推しの動画配信者のファングッズ購入に必要なパスワードが分からないからだ。落ち着ける場所としてお気に入りのカフェへ向かうも、そこは一ノ瀬相談事務所という場所に様変わりしていた。
カノウは、そこで失せ物探しを営む白髪の美青年・一ノ瀬至遠(いちのせ・しおん)と出会う。至遠は無機物の意識を励起し、インスタント付喪神とすることで無機物たちの声を聴く異能を持つという。カノウは半信半疑ながらも、その場でスマートフォンに至遠の異能をかけてもらいパスワードを解いてもらう。が、至遠たちは一年ほど前から付喪神たちが謎を仕掛けてくる現象に悩まされており、依頼が謎解き形式となっていた。カノウはサポートの百目鬼悠玄(どうめき・ゆうげん)すすめのもと、至遠の助手となる流れになり……?
どんでん返し、あります。
独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。

放課後は、喫茶店で謎解きを 〜佐世保ジャズカフェの事件目録(ディスコグラフィ)〜
邑上主水
ミステリー
かつて「ジャズの聖地」と呼ばれた長崎県佐世保市の商店街にひっそりと店を構えるジャズ・カフェ「ビハインド・ザ・ビート」──
ひょんなことから、このカフェで働くジャズ好きの少女・有栖川ちひろと出会った主人公・住吉は、彼女とともに舞い込むジャズレコードにまつわる謎を解き明かしていく。
だがそんな中、有栖川には秘められた過去があることがわかり──。
これは、かつてジャズの聖地と言われた佐世保に今もひっそりと流れ続けている、ジャズ・ミュージックにまつわる切なくもあたたかい「想い」の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる