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粉雪の降る夜

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(……どこにいるの?)



 空から落ちて来る白い雪を見上げ、私は一年前に突然姿を消した愛しい人の面影を心に浮かべた。
トラブルなんて特になにもなかった。
 彼は近々私の両親に挨拶に行くと言っていて、チラシを見てはこれから住む所のことを考えたり、結婚式のことを話し合ったり…
彼には大きな隠し事があるようには思えなかったし、一年経った今でも、何がどうなったのか、まるでわからない。



 「土日はちょっと用があるから連絡出来ないけど、日曜の夜にでも連絡するから。」



それが彼と話した最後の会話だった。
 日曜日に連絡はなかった。
 月曜にも……
気になった私は電話をかけたけど、それは彼には通じず…
電源を切っているか電波の届かないところにいると言う無機質なアナウンスが繰り返されるだけだった。
 彼は会社にも出ていなかった。
それからは、警察に行ったり彼の同僚の人達やご両親と話して、そしてみんなで彼を探して……
でも、手がかり一つ、みつからないまま、一年が過ぎた。
あの土曜日に何があったのか、それを知る者は誰もいなかった。


 「美穂ちゃん…お待たせ!」

 「あ、渡辺さん……」

 私は、小さく手を振った。



 「寒かっただろ?中でコーヒーでも飲んで待ってたら良かったのに…」

 「私…暖房が苦手なの。」

 渡辺さんは彼と一番仲の良かった人。
 彼がいなくなってから、渡辺さんはなにかと私の支えになってくれた。



 「とりあえず、なにか食べようか。」

 渡辺さんは私の肩を抱き、ビルの中に誘った。



 「早いね…宮本がいなくなってもう一年か…」

 「……まだ一年よ。」

 「何か進展はあった?」

 私は俯いたまま首を振る。



 「ただ…アパートは年が明けたら引き払うって、彼のお母さんが……」

 「そうか……」

 二人の間に重い沈黙が流れた。



 「あ、そうそう。これ…」

 渡辺さんが差し出したのは、一目でプレゼントとわかる派手な包みの細長いもの。



 「……なぁに?」

 「うん…宮本の代わりにクリスマスプレゼント。
 俺からじゃ嬉しくないかもしれないけど…」

 「そ、そんなことないわ。」

それは、雪の結晶の形をしたペンダントだった。
 中央にダイヤのような宝石が埋まってる。


 「ありがとう…でも、こんな素敵な物…」

 「高いものじゃないから気にしないで。
 以前、宮本から美穂ちゃんは雪が好きだって聞いてたから…」

 「そ、そうなの…?」

 渡辺さんは本当に気がつく人だ。
 優しいし、彼のことも親身になって考えてくれる。

 先日、彼のお母さんにも言われた。
 雅史のことはもう忘れてしあわせになって…って。
でも、たった一年で忘れられるはずがない。
 先のことはわからない。
だけど、今は彼の帰りを信じて待ちたい。


 私は窓ガラスの向こうに目を遣った。
 舞い散る粉雪の中を、彼がなにもなかったような顔で戻って来てくれることを、今はまだ信じたい……
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