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月明かりの下で
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(今日こそ、はっきり言ってやる!)
私は、曲がり角を曲がると、バッグの中のボイスレコーダーのスイッチをオンにした。
*
この町に引っ越して来て早二か月。
前の町ではいろいろといやなことがあって……
悩んだ末に、気分を新たにこの町に引っ越して来た。
それには、ある占い師さんの助言も関わっていた。
悩みを相談すると、その占い師さんは私に引っ越しをすすめてくれた。
今住んでる所から北西に引っ越せ…と。
そしたら、すべての悩みがとんとん拍子に解決し、良い結果を得られるだろう…と。
当時、精神的に参ってた私は、その助言を素直に受け入れた。
それで、見つけたのがこの町。
以前、住んでたところとは違って、とても静かな点も気に入った。
引っ越してから間もなく、新たな仕事がみつかった。
以前、働いていたところより、ずっと好条件だ。
職場の人も、皆、優しく、感じの良い人達で……ただ、引っ越しただけで、私の周りの環境は、占い師の言う通りになっていた。
ところが……ただ、ひとつだけ困ったことがあった。
それは、思いもかけなかったこと。
仕事の帰り道…誰かが家までつけてくる気配を感じるようになった。
最初はたまたまだと思って、あまり気にすることもなかった。
だけど、そのうちにそんな事も言えなくなって来た。
足音は、私が止まれば向こうも止まる。
歩き出すと、また歩き出す。
そして、私の住むマンションのすぐそばまでついて来る。
ストーカーなんてものに付きまとわれる程、私は綺麗でもなければ目立ちもしない。
でも、平凡だからって絶対にそういう被害に遭わないなんてことはない。
ストーカーの趣味なんて、わからないんだから。
職場の人に相談しようかとも思ったものの、良い人達とはいえ、まだ知り合って間もない人達にそういうことで迷惑をかけるのはいやだった。
元々、私は人に頼ることがあんまり好きじゃない。
だから、一人で立ち向かうことにした。
もしものことを考えて、ボイスレコーダーと防犯ブザーを準備して…
足音は間近に近付いて来る。
早まる鼓動…肩に力が入る。
「ちょっと!」
「あっ!」
私がかけた声に驚いたような表情で立ち尽くしているのは、まだ若いサラリーマン風の男性だった。
しかも、ちょっとしたイケメン……
「あ、あの……」
「あ、す、す、すみません!
別に悪気があったわけじゃないんです!」
男性はぺこぺこと私に向かって頭を下げた。
もしかして……この人、ただ私に好意があっただけで、それをなかなか言い出せないで……??
足音の主がイケメンだとわかったら、妙に好意的な見方をしてしまってた。
「あ、あの…僕、203の高梨といいます。
あなたは204の方ですよね?」
「え……?」
「多分、同じ電車なんだと思います。
このあたり、まだこんな時間だっていうのに静かでしょ?
もしかして、ストーカーか何かと間違えられてたらいやだなぁって思ってたんです。
でも、僕、人見知りだからなかなか話しかけられなくて……」
「えーーー……」
それは嘘ではなかったようで、彼は私の隣の部屋の鍵を開けて見せた。
とんだ勘違いだったけど、そのおかげで、私は新たな恋の予感を感じた。
私は、曲がり角を曲がると、バッグの中のボイスレコーダーのスイッチをオンにした。
*
この町に引っ越して来て早二か月。
前の町ではいろいろといやなことがあって……
悩んだ末に、気分を新たにこの町に引っ越して来た。
それには、ある占い師さんの助言も関わっていた。
悩みを相談すると、その占い師さんは私に引っ越しをすすめてくれた。
今住んでる所から北西に引っ越せ…と。
そしたら、すべての悩みがとんとん拍子に解決し、良い結果を得られるだろう…と。
当時、精神的に参ってた私は、その助言を素直に受け入れた。
それで、見つけたのがこの町。
以前、住んでたところとは違って、とても静かな点も気に入った。
引っ越してから間もなく、新たな仕事がみつかった。
以前、働いていたところより、ずっと好条件だ。
職場の人も、皆、優しく、感じの良い人達で……ただ、引っ越しただけで、私の周りの環境は、占い師の言う通りになっていた。
ところが……ただ、ひとつだけ困ったことがあった。
それは、思いもかけなかったこと。
仕事の帰り道…誰かが家までつけてくる気配を感じるようになった。
最初はたまたまだと思って、あまり気にすることもなかった。
だけど、そのうちにそんな事も言えなくなって来た。
足音は、私が止まれば向こうも止まる。
歩き出すと、また歩き出す。
そして、私の住むマンションのすぐそばまでついて来る。
ストーカーなんてものに付きまとわれる程、私は綺麗でもなければ目立ちもしない。
でも、平凡だからって絶対にそういう被害に遭わないなんてことはない。
ストーカーの趣味なんて、わからないんだから。
職場の人に相談しようかとも思ったものの、良い人達とはいえ、まだ知り合って間もない人達にそういうことで迷惑をかけるのはいやだった。
元々、私は人に頼ることがあんまり好きじゃない。
だから、一人で立ち向かうことにした。
もしものことを考えて、ボイスレコーダーと防犯ブザーを準備して…
足音は間近に近付いて来る。
早まる鼓動…肩に力が入る。
「ちょっと!」
「あっ!」
私がかけた声に驚いたような表情で立ち尽くしているのは、まだ若いサラリーマン風の男性だった。
しかも、ちょっとしたイケメン……
「あ、あの……」
「あ、す、す、すみません!
別に悪気があったわけじゃないんです!」
男性はぺこぺこと私に向かって頭を下げた。
もしかして……この人、ただ私に好意があっただけで、それをなかなか言い出せないで……??
足音の主がイケメンだとわかったら、妙に好意的な見方をしてしまってた。
「あ、あの…僕、203の高梨といいます。
あなたは204の方ですよね?」
「え……?」
「多分、同じ電車なんだと思います。
このあたり、まだこんな時間だっていうのに静かでしょ?
もしかして、ストーカーか何かと間違えられてたらいやだなぁって思ってたんです。
でも、僕、人見知りだからなかなか話しかけられなくて……」
「えーーー……」
それは嘘ではなかったようで、彼は私の隣の部屋の鍵を開けて見せた。
とんだ勘違いだったけど、そのおかげで、私は新たな恋の予感を感じた。
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