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雷雲来たる

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「ミキちゃん、急ごう!」

「は、はいっ!」


初めてのデートは海。
水着は恥ずかしいから、泳ぐのはいやだといったら、彼はそれをすんなりと受け入れてくれた。
海を眺めたり、近くの水族館を見に行ったり……
多少の緊張はあるものの、とても楽しい夏の日を過ごしていた。
そんな時、不意に空に黒い雲が立ちこめてきて、剛さんに手を引かれ、私達は、水族館の隣のファミレスに走った。



「剛さん、ちょ…ちょっと……」

低めのヒールの靴だけど、それでも砂浜は足を取られる。



「あ、雨だ!急がなきゃ!」

ちょっとゆっくり走ってって言いたかったのだけど、ポツポツと降り始めた雨に、剛さんはますます速さを増していく。







「あぁ、危なかった……」



私達はどうにかファミレスにたどり着いた。
私達と同じように雨宿りにここに来たお客さん達で、店の中はごった返していた。



「ちょうどお腹もすいてきた頃だったから、良かったですね。」

剛さんは、空を見上げ、私の声にも気付いていない様子だった。
外は真っ暗になり、バケツをひっくり返したような大粒の雨が降りだしていた。



「頑張って走った甲斐がありましたね。
ゆっくり来てたら私達も今頃びしょ濡れでしたね。」

剛さんはまだ空ばかりをみつめてた。



「剛さん!」

あまりにも不自然な様子に、私は剛さんの手を掴み、声をかけた。



「えっ!?何?何か言った?」

「剛さん……一体どうしたんです!?
さっきから全然……」

「う、うわぁーー!」

剛さんが急におかしな声をあげ、耳をふさいで俯いた。

空には一条の閃光……



(……え?)



それから、ゴロゴロと雷鳴が轟く度に、剛さんは泣きそうな声をあげ、ついにはトイレに避難してしまった。



(……マジ?)



マッチョでいつも明るくて元気な剛さんが、こんなに雷を怖がるなんて……







「……ごめんね。がっかりした?
俺のこと、嫌いになった?」

雷が遠ざかってから、情けない顔をした剛さんが戻ってきた。
その顔はいつもの剛さんとはまるで別人みたいだった。



剛さんは子供の頃、家の納屋に雷が落ちたのを体験して以来、雷が怖いんだって打ち明けてくれた。
話をするだけでも怖そうで……



(……なんだか、可愛い……)



剛さんの新たな一面に、私の胸はきゅんとときめいた。 
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