1ページ劇場①

ルカ(聖夜月ルカ)

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桜、満開

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「本当にあなたっておかしな人ね。
でも……おいしそうだから、いただくわ。」

「え……そ、それじゃあ……」

「祐介君、よろしくね。」

にっこりと微笑む奈緒美さんに、俺は思わず飛び上がり、そして思いっきりすっころんだ。



「もう…何やってんの。」

奈緒美さんは俺を優しく助け起こしてくれた。



「あ、ありがとう。」

「ねえ、祐介君、せっかくだから桜見に行こうよ。」

「え……」

「この先の堤防…すごく綺麗よ。」



奈緒美さんは鯉のぼりの俺を少しも気にせず、どんどん歩く。

歩きながら、俺は、藤森達にフランスの風習を教えてもらったことを話した。



「あいつら、けっこう良い奴なんですよ。」

「そ、そうなんだ。」

奈緒美さんはなぜだかくすくす笑う。
なんだかまだ信じられない。
奈緒美さんが俺の告白を受け入れてくれたなんて。

俺の働くレストランのチーフをしている奈緒美さんは、俺より3つ年上だ。
初めて会った時から、ずっとひかれてた。
クールでしっかりしてて、だけど、誰にでも優しい奈緒美さんは俺の憧れの人だった。
今の店で働き始めて一年近くになるけど、なかなか告白をする勇気はなくて……



(本当に藤森達のおかげだな。)



「見て!」

「わぁ、すごいっ!」



川の両側がピンク色に染まってた。



「もうこんなに咲いてたんだ。」

「そうよ。急に暖かくなったから、花も慌てて咲いたみたいよ。」



はらはらと花びらの舞う桜の道を俺達は並んで歩いた。
相変わらず、まわりの人達は俺を見て笑ってる。



「あ、奈緒美さん……ごめんね。なんか、俺、笑われちゃって……」

「良いじゃない。
みんなを笑顔にするなんて、芸人さんでも難しいわよ。
……でも」

でも?
俺は奈緒美さんの次の言葉を待った。



「次のデートの時は、普通の格好で来てね!」

「も、もちろん!」



最高の一日だった。
だからこそ、その幸せが怖くて……俺は気になったことを質問した。



「奈緒美さん……まさか、これってエイプリルフールじゃないよね?」

「エイプリルフールよ。」

「え、えぇっっ!!」



俺の驚いた顔を見て、奈緒美さんはゲラゲラ笑った。


そして、混乱する俺をそっと抱き締めて、「あなたって本当に可愛い」って囁いてくれた。



(だ、大丈夫かなぁ……)



なんだかまだ不安はあるけど… 今はとにかく素直にこの喜びを受け止めよう。
だって、桜がこんなに綺麗なんだから。



(あ……)



不意に手を握られた。
柔らかな感触に俺は戸惑い、何も言えないまま桜に目をやり…奈緒美さんと最高のお花見を続けた。 
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