151 / 239
春がそこまでやって来た
1
しおりを挟む
(わぁ…綺麗なスカーフ…)
寒さのピークはようやく過ぎた。
それはわかってるけど、まだコートが手離せない。
そんな季節の流れを気にもせず、店頭には明るい色の春物衣料が並び始めた。
まだ蕾さえつけていない花達を思わせる鮮やかで優しい色合いは、私の気分を和ませてくれるけど、やっぱりまだ買う気にはなれない。
*
「初めまして。隣に越してきた野田です。」
長い間空いていた隣の部屋に越してきたのは、真面目そうだけど人懐っこい感じのする若い男性。
今時、洗剤を持って挨拶に来てくれるあたりが珍しい。
やがて、彼は私の印象通りの人だということがわかった。
顔を合わす度、彼は挨拶だけではなく世間話をする。
最初はちょっと煩わしいと思ったりしたけれど、やがて、それは心地好いものに変わった。
けれど、親しくなればなるほど、その一方では苦しくなった。
野田君は、地方から出てきた純粋な青年。
その寂しさを紛らすために、私にも話しかけてくれてるだけだろう。
だって、私は明らかに彼より年上……それも7つも年上なのだから、近所のおばさんとでも思ってるんだろう。
「あ、靖代さん、お帰り。」
彼は不思議と最初から私のことを名前で呼ぶ。
ある日、アパートの玄関先に、小さな鉢植えが置かれていた。
その葉はよく見慣れたもの。
「……もしかしてチューリップ?」
「うん、春っていったらやっぱりチューリップじゃない?」
無邪気な笑顔に、心がざわめく。
「そうね。」
私はそれだけ答えて部屋に入った。
あんな若い子に気持ちを乱されるなんてバカみたい。
それから、私はなんとなく野田君のことを避けるようになった。
寒さのピークはようやく過ぎた。
それはわかってるけど、まだコートが手離せない。
そんな季節の流れを気にもせず、店頭には明るい色の春物衣料が並び始めた。
まだ蕾さえつけていない花達を思わせる鮮やかで優しい色合いは、私の気分を和ませてくれるけど、やっぱりまだ買う気にはなれない。
*
「初めまして。隣に越してきた野田です。」
長い間空いていた隣の部屋に越してきたのは、真面目そうだけど人懐っこい感じのする若い男性。
今時、洗剤を持って挨拶に来てくれるあたりが珍しい。
やがて、彼は私の印象通りの人だということがわかった。
顔を合わす度、彼は挨拶だけではなく世間話をする。
最初はちょっと煩わしいと思ったりしたけれど、やがて、それは心地好いものに変わった。
けれど、親しくなればなるほど、その一方では苦しくなった。
野田君は、地方から出てきた純粋な青年。
その寂しさを紛らすために、私にも話しかけてくれてるだけだろう。
だって、私は明らかに彼より年上……それも7つも年上なのだから、近所のおばさんとでも思ってるんだろう。
「あ、靖代さん、お帰り。」
彼は不思議と最初から私のことを名前で呼ぶ。
ある日、アパートの玄関先に、小さな鉢植えが置かれていた。
その葉はよく見慣れたもの。
「……もしかしてチューリップ?」
「うん、春っていったらやっぱりチューリップじゃない?」
無邪気な笑顔に、心がざわめく。
「そうね。」
私はそれだけ答えて部屋に入った。
あんな若い子に気持ちを乱されるなんてバカみたい。
それから、私はなんとなく野田君のことを避けるようになった。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
神様に加護2人分貰いました
琳太
ファンタジー
ある日白い部屋で白い人に『勇者として召喚された』と言われたが、気づけば魔法陣から突き落とされ見知らぬ森の中にポツンと1人立っていた。ともかく『幼馴染』と合流しないと。
気付けばチートで異世界道中楽々かも?可愛いお供もゲットしたフブキの異世界の旅は続く……
この世界で初めて出会った人間?はケモ耳の少女いろいろあって仲間になり、ようやく幼馴染がいると思われる大陸へ船でやてきたところ……
旧題【異世界召喚、神様に加護2人分貰いました】は改題され2018年3月書籍化、8巻まで発売中。
2019年7月吉祥寺笑先生によるコミカライズ連載開始、コミック1巻発売中です。
ご購入いただいた皆様のおかげで続刊が発売されます。
キャンピングカーで往く異世界徒然紀行
タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》
【書籍化!】
コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。
早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。
そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。
道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが…
※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜
※カクヨム様でも投稿をしております
前世の祖母に強い憧れを持ったまま生まれ変わったら、家族と婚約者に嫌われましたが、思いがけない面々から物凄く好かれているようです
珠宮さくら
ファンタジー
前世の祖母にように花に囲まれた生活を送りたかったが、その時は母にお金にもならないことはするなと言われながら成長したことで、母の言う通りにお金になる仕事に就くために大学で勉強していたが、彼女の側には常に花があった。
老後は、祖母のように暮らせたらと思っていたが、そんな日常が一変する。別の世界に子爵家の長女フィオレンティーナ・アルタヴィッラとして生まれ変わっても、前世の祖母のようになりたいという強い憧れがあったせいか、前世のことを忘れることなく転生した。前世をよく覚えている分、新しい人生を悔いなく過ごそうとする思いが、フィオレンティーナには強かった。
そのせいで、貴族らしくないことばかりをして、家族や婚約者に物凄く嫌われてしまうが、思わぬ方面には物凄く好かれていたようだ。
転生先ではゆっくりと生きたい
ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。
事故で死んだ明彦が出会ったのは……
転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた
小説家になろうでも連載中です。
なろうの方が話数が多いです。
https://ncode.syosetu.com/n8964gh/
来訪神に転生させてもらえました。石長姫には不老長寿、宇迦之御魂神には豊穣を授かりました。
克全
ファンタジー
ほのぼのスローライフを目指します。賽銭泥棒を取り押さえようとした氏子の田中一郎は、事もあろうに神域である境内の、それも神殿前で殺されてしまった。情けなく申し訳なく思った氏神様は、田中一郎を異世界に転生させて第二の人生を生きられるようにした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる