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秋も深まる

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「せーのっ!」



私は大きく息を吸いこんで、両方の手に力を込める。
思いっきり引っ張って、それを素早くボタンにかけて……



(や、やったー!)



心の中でバンザイをした途端、小さなボタンがロケットのように吹っ飛んだ。



「あぁぁ…もうっ!!」



時計の針は、すでに出勤時間ぎりぎりを指してる。
……もうだめ。
私は、引出しから安全ピンを取り出し、ボタンの弾け飛んだ部分を無理に繋げた。







(最近、調子に乗って食べてたもんなぁ…)



「どうした?冴えない顔して……」

「冴えない顔で悪かったわね!」

ぼーっとしてたのに、こういう時には反射的に返してしまう自分に驚く。



「どうせあんたのことだから、つまんない悩みだとは思うけど…」

みさえはそんな悪態を吐きながら、勝手に私の隣に腰を降ろす。



「……悩みがあっても、それだけの食欲があれば心配なし!
って、あんた、本当に早食いだね。
だいたい、ここへ来るのもなんでそんなに早いんだ?」

「それは、あんたがスローだからでしょ。」

うるさい……
私は、今、悩みで頭が一杯だっていうのに……



「あ、あんた、確か、唐揚げ好きだよね?
食べる?」

「え?良いの!?」

また反射的に答えてしまった。



「はい。」

みさえは私の目の前にお弁当箱を差し出した。
中には唐揚げを中心に、おいしそうなおかずがいっぱい並んでて……



「今、ダイエット中だっていくら言っても、母さんが作るんだよね…
良かったら全部食べて。」

「マ、マジ…?」

みさえはサラダを突付きながら小さく頷く。

彼女のお母さんは料理がうまい。
前にもみさえが唐揚げをくれたことがあったけど、その味付けは絶品だった。
こんなことなら、カツカレーなんて食べなきゃ良かったと後悔しながら頬張った唐揚げは、本当においしくて……
みさえはそんな私の顔を見て、くすっと笑う。



「明日からも食べてくれる?」

「え…そ、それは良いけど……あ、でも……」

嬉しさの裏側で、私の脳裏に浮かんだのは弾け飛んだボタン。
大きなサイズの制服を頼んだらいくらかかると思ってるんだ!
と、いってもこのままずっと安全ピンでしのぐのもどうかと思う。



(あ……)



「みさえ!あんた、裁縫得意だったよね!?」

「は?」



私は良い友人を持ったものだ。
早速、みさえにスカートのサイズ直しを依頼した。
これで、スカートのことを気にせずにたくさん食べられる!
お金の心配もなくなった!




「ねぇ、今度の日曜、栗拾いにいかない?」

「えーー…面倒臭い。」

「じゃあ、きのこ狩りに行こうよ!
葡萄狩りでも良いよ。」

秋は誘惑がいっぱいだ。



(そうだ…スカートは出来るだけ大きめにしといてもらおう……)
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