81 / 239
雨の七夕
1
しおりを挟む
(そんなぁ……)
てるてる坊主のばかやろう!
昨夜の天気予報で今日は朝からずっと雨だって言ってたから…
だから、私は遠足前の子供みたいに、てるてるぼうずを作って窓に吊るした。
なのに、外は予報通りの雨…
空は真っ暗でとてもやみそうにない。
(あんまりだぁ……)
準備万端整った旅行鞄…
私はこれを持って、彼の所へ行く筈だったのに…
きっと、私ほど、織姫さんの気持ちがわかる女は他にはいない。
(私は、まさに、地上の織姫なんだもん…)
*
「な、なに、それ!?」
「だって…そのくらい本気でやらなきゃ、絶対無理だよ!」
彼が仕事をやめ、もう一度、夢だった弁護士を目指すと言い出したのは五年前。
だけど、弁護士の夢はそう簡単なものじゃなかった。
司法試験は三年連続不合格。
そのうち貯金も底を着き、彼は実家に戻り、私とも会わずに勉強だけに専念すると言い出した。
その上、織姫さん達みたいに七夕の日だけ会おうって決めて、当然、雨だったらその日は会わないって宣言した。
普段からメールも電話も出来ず、ただただ七夕に会えることだけを信じて待ってる私に、今日の雨は無情過ぎる……!
(あぁ、だめ!
我慢出来ない!)
私は鞄を手に、駅に向かって雨の中を走り出した。
*
「まぁ、織絵さん!
どうしたんだい?」
「こ、こんばんは。」
彼の実家に着いたのは、もう夕方。
相変わらず、こっちでも雨は振り続いてて……
「今日は雨だから会わないんじゃなかったのかい?」
「そうなんですが…私、どうしても会いたくなって……」
「そうだったのかい。
すまないねぇ…憲二がおかしなことを言い出して……
憲二は、今、友達とカラオケに行ってるんだよ。
今、車を出すから。」
*
「すみません。ご迷惑をおかけして。」
「いやいや、謝るのはこっちの方だよ。
あんたのことをほったらかしてすまない。
だけど、あの子も必死なんだ。
早く合格してあんたと結婚するんだって、そりゃあもうとりつかれたように勉強ばっかりしててね。
今日も友達に頼んで、無理に連れ出してもらったんだ。
あんなに勉強ばかりしてたら、身体がもたないからね。」
「え…憲二さんがそんな事を…!?」
一年ぶりに会った彼はげっそりと痩せていた。
そして、今年こそ絶対合格するって言いながら、私を抱き締めてくれた。
「うん、私、信じてる!
でも…あんまり無理はしないで。」
「わかったよ……」
その晩は、みんなで朝まで歌い続けて……
憲二さんの晴れ晴れとした笑顔に見送られながら、私は家路に着いた。
今年こそ合格!
それを信じて、私は遠くから彼を応援する!
てるてる坊主のばかやろう!
昨夜の天気予報で今日は朝からずっと雨だって言ってたから…
だから、私は遠足前の子供みたいに、てるてるぼうずを作って窓に吊るした。
なのに、外は予報通りの雨…
空は真っ暗でとてもやみそうにない。
(あんまりだぁ……)
準備万端整った旅行鞄…
私はこれを持って、彼の所へ行く筈だったのに…
きっと、私ほど、織姫さんの気持ちがわかる女は他にはいない。
(私は、まさに、地上の織姫なんだもん…)
*
「な、なに、それ!?」
「だって…そのくらい本気でやらなきゃ、絶対無理だよ!」
彼が仕事をやめ、もう一度、夢だった弁護士を目指すと言い出したのは五年前。
だけど、弁護士の夢はそう簡単なものじゃなかった。
司法試験は三年連続不合格。
そのうち貯金も底を着き、彼は実家に戻り、私とも会わずに勉強だけに専念すると言い出した。
その上、織姫さん達みたいに七夕の日だけ会おうって決めて、当然、雨だったらその日は会わないって宣言した。
普段からメールも電話も出来ず、ただただ七夕に会えることだけを信じて待ってる私に、今日の雨は無情過ぎる……!
(あぁ、だめ!
我慢出来ない!)
私は鞄を手に、駅に向かって雨の中を走り出した。
*
「まぁ、織絵さん!
どうしたんだい?」
「こ、こんばんは。」
彼の実家に着いたのは、もう夕方。
相変わらず、こっちでも雨は振り続いてて……
「今日は雨だから会わないんじゃなかったのかい?」
「そうなんですが…私、どうしても会いたくなって……」
「そうだったのかい。
すまないねぇ…憲二がおかしなことを言い出して……
憲二は、今、友達とカラオケに行ってるんだよ。
今、車を出すから。」
*
「すみません。ご迷惑をおかけして。」
「いやいや、謝るのはこっちの方だよ。
あんたのことをほったらかしてすまない。
だけど、あの子も必死なんだ。
早く合格してあんたと結婚するんだって、そりゃあもうとりつかれたように勉強ばっかりしててね。
今日も友達に頼んで、無理に連れ出してもらったんだ。
あんなに勉強ばかりしてたら、身体がもたないからね。」
「え…憲二さんがそんな事を…!?」
一年ぶりに会った彼はげっそりと痩せていた。
そして、今年こそ絶対合格するって言いながら、私を抱き締めてくれた。
「うん、私、信じてる!
でも…あんまり無理はしないで。」
「わかったよ……」
その晩は、みんなで朝まで歌い続けて……
憲二さんの晴れ晴れとした笑顔に見送られながら、私は家路に着いた。
今年こそ合格!
それを信じて、私は遠くから彼を応援する!
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結済み】番(つがい)と言われましたが、冒険者として精進してます。
BBやっこ
ファンタジー
冒険者として過ごしていたセリが、突然、番と言われる。「番って何?」
「初めて会ったばかりなのに?」番認定されたが展開に追いつけない中、元実家のこともあり
早々に町を出て行く必要がある。そこで、冒険者パーティ『竜の翼』とともに旅立つことになった[第1章]次に目指すは? [おまけ]でセリの過去を少し!
[第2章]王都へ!森、馬車の旅、[第3章]貿易街、
[第4章]港街へ。追加の依頼を受け3人で船旅。
[第5章]王都に到着するまで
闇の友、後書きにて完結です。
スピンオフ⬇︎
『[R18]運命の相手とベッドの上で体を重ねる』←ストーリーのリンクあり
『[R18] オレ達と番の女は、巣篭もりで愛欲に溺れる。』短編完結済み
番外編のセリュートを主人公にパラレルワールド
『当主代理ですが、実父に会った記憶がありません。』
※それぞれ【完結済み】
転生先ではゆっくりと生きたい
ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。
事故で死んだ明彦が出会ったのは……
転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた
小説家になろうでも連載中です。
なろうの方が話数が多いです。
https://ncode.syosetu.com/n8964gh/
クラスまるごと異世界転移
八神
ファンタジー
二年生に進級してもうすぐ5月になろうとしていたある日。
ソレは突然訪れた。
『君たちに力を授けよう。その力で世界を救うのだ』
そんな自分勝手な事を言うと自称『神』は俺を含めたクラス全員を異世界へと放り込んだ。
…そして俺たちが神に与えられた力とやらは『固有スキル』なるものだった。
どうやらその能力については本人以外には分からないようになっているらしい。
…大した情報を与えられてもいないのに世界を救えと言われても…
そんな突然異世界へと送られた高校生達の物語。
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
1ページのあいうえお
ルカ(聖夜月ルカ)
ファンタジー
1ページの中にいろんなものを詰め込んで…
あいうえお順のお題で書く短編集です。
基本1ページですが、たまにオーバーします。
主にリクエストで書かせていただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる