1ページ劇場①

ルカ(聖夜月ルカ)

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雨空に響く鐘の音

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(おめでとう…!)



祝福の鐘の音が鳴り響き、出て来た二人は友人や親族からの花吹雪に満面の笑みを浮かべた。
あ…あぁ、花嫁のドレスの裾に泥がはねた!



(だから、言ったんだ。
6月は雨が多いから、式は5月にしようよって……)



だけど、君は頑として僕の意見を聞き入れなかった。
なにがなんでも、ジューンブライドにこだわったよね。



「だって、私、幸せになりたいんだもん!」



6月に結婚したからって、みんながみんな幸せになるわけじゃないし、離婚するカップルだっているんだって言ったら、デリカシーがないって、君は三日も口を利いてくれなかった。

僕はただあんまり雨が好きじゃなくて……
あの花嫁みたいに、君の綺麗なドレスが汚れたらいやだなって思っただけだったんだけど……
僕は根負けして、結局、式は6月に決まったね。

あの時は渋々だったけど…でも、きっとそれで良かったんだ。
君の頑固さのおかげで、君は未亡人にならずにすんだんだから。



結婚式の一週間前……
僕は、親しい友人達と馬鹿騒ぎをした。
結婚したら、今までみたいに呑気に遊べなくなるからってことで、その晩は思いっきり羽目をはずした。
そして、居酒屋からの帰り道……僕は事故にあった。
かなり酔ってたから、僕はしばらく何が起こったのかもわからなくて……
傷付き横たわる僕のまわりで、彼女や家族が泣き叫んでるのを見ても、僕はなかなかそれが意味することを理解出来ずにいた。



今でも夢を見てるみたいだ。
本当は、今、この場所にいるのは僕達のはずだったのに、現実にここにいるのは名前も知らない赤の他人達。
きっと、彼らはどうしてこの日の式がキャンセルになったのかも知らされないまま、運が良かったって思ってるんだろうな。



祝福の鐘の音が、僕にはどこか悲しげに聞こえた。



けど、どうしようもないことなんだ。
こんなことになってしまったことを、どうか許してほしい。
幸せにしてあげられなくて、ごめんね……

でも、僕はいつでも君の傍にいて、君のことを見守っているからね。
良い人をみつけて、君が幸せになるまでずっと……



式は、雨の降らない時期が良いんじゃないかな?
それとも、やっぱり君はジューンブライドにこだわるんだろうか?



見上げた空は、まだしとしとと小さな雨粒を降らせていた。

 
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