1ページ劇場①

ルカ(聖夜月ルカ)

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緑の風を追いかけて

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(ディジーの言う通りだわ。
いいかげん夢みたいな事は忘れて、現実に目を向けなきゃ。
結婚して子供でも出来れば、寂しさなんて感じなくなるわ。)



自分に言い聞かせるように、心の中でそんなことを考えて…
だけど、気持ちは少しもすっきりとはせず、私はその晩、眠る事さえ出来なかった。







(気持ちの良い風……)



まだ夜が開けきらないうちに、私は宿を飛び出した。
頬を撫でる風が心地良く、同時に不思議な懐かしさを感じる。



「ずいぶん遅かったんだね。」

「だ、誰っ!?」



不意にかけられた低い声に、私は身を固くして立ち止まった。
少しずつ白み始めた空の灯りが、男性のシルエットを少しずつ照らし出す。



「僕のこと忘れたの?」

背の高い私より、さらに頭一つ分背が高いその男性の顔に見覚えはない。
なのに、どこか懐かしい気がして……



「……僕だよ。
アーサー。」

「ア、アーサー?
馬鹿なこと言わないで!」

「君を迎えに来たんだ。」

男性は、ポケットから何かを取り出し、私の手を取る。



「な、何を……あ……」

私の薬指にさされたのは青い石の付いた指輪。



昔の記憶が私の脳裏に浮かび上がった。



(そうだ…私…あの時……
ママのと同じ青い石の指輪が良いって……)



「そ、そんな馬鹿な!
あれは夢なのよ!
この辺りにお城なんてないし、だからアーサーも……」

取り乱す私の前で、アーサーは少し困ったように微笑んで…またポケットから何かを取り出してゆっくりと片手を前に差し出した。



その手の平にちょこんと乗っていたのは、赤いボタン。
あの日、私がアーサーに渡した……



「アーサー…ほ、本当にあなたなの?」

頷きながら微笑む顔が、幼い頃のアーサーの顔と重なった。



「アーサー…!」

「エイミー!待っていたよ、ずっと……」



あの時とは別人のように逞しくなったアーサーの胸に私は顔をうずめた。
そのまわりで、風が踊るようにそよぐ。



「あの時の風の精霊が、やっと君をみつけたんだ。」

「風の精霊……?あ……」



そういえば、以前、アーサーがそんな事を言っていた。
風の精霊が悪戯して、私をお城に誘いこんだんだって。

……そうだ!
あの時、私は魔法みたいにひらひらと宙を舞い踊る葉っぱを見かけて…
それを追いかけてるうちに……



「あ……」

不意に重ねられた手に戸惑う暇もなく、歩き始めたアーサーに私も慌てて歩を合わせる。



「婚礼の支度でこれから忙しくなるよ。」

「え……あ……えっと……」

まだ混乱がおさまらない私を見て、アーサーはくすりと笑い、私もそれと同じように笑った。

 
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