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十年後に桜の木の下で
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一番に気になったのは、彼との約束だった。
どうしてもそのことが心から離れず、いつしか私は桜の木の下から離れられなくなっていた。
天へ上らなくてはいけないことはわかっているのに、どうしてもその場所から離れられない。
次の年……彼はその場所へやって来た。
別れた時より男らしくなって……
嬉しさと申し訳なさで、胸が詰まった。
だけど、どんなに呼びかけても彼が私の声に気付く事はなく……
彼は朝早くから陽が暮れるまでその場所に立ち尽くし…やがて、肩を落としてどこかへ去って行った。
もう二度と会えない彼の後ろ姿に、私は打ちひしがれた。
誠実な彼に応えられなかった我が身の不幸を嘆き、私は桜の木の下でずっと涙した。
*
(う、嘘……)
それからまた十年後…彼は、桜の木の下にやって来た。
この前よりもまた少し男臭くなった彼……
十年前と同じように朝早くから陽が沈むまでずっと私の側に立ち尽して……
「もう、ここへは来ないで!
あなたにはもう会えないの!」
私の叫び声は彼にとっては風の音にさえも感じられない。
思い詰めたような顔で去って行く彼に、私は声を上げた。
もうここには来ないで…私のことは忘れて幸せになって……と。
だけど、彼はまたその十年後にもやって来た。
そのまた十年後にも……
やがて、いつからか、彼は、十年ごとではなく毎年桜の木の下に来るようになった。
そんな彼のことを私はいつしか心待ちにするようになっていて……
私はもう叫ぶ事も泣くこともしない。
彼がどんな人生を送って来たのかはわからないけれど、ずっと私を想ってくれていたことは間違いない。
それはとても申し訳ないことだけど、彼の計画を狂わせてしまったことは、会ってからゆっくりと詫びようと思ってる。
(……会えるのはきっとそう遠い日ではないわね……)
嬉しいような寂しいような、なんとも複雑な気持ち……
(彼に会えたら、私もきっとここを離れられるわよね……)
足をひきずるようにして遠ざかる彼の後ろ姿に、私は小さく手を振った。
どうしてもそのことが心から離れず、いつしか私は桜の木の下から離れられなくなっていた。
天へ上らなくてはいけないことはわかっているのに、どうしてもその場所から離れられない。
次の年……彼はその場所へやって来た。
別れた時より男らしくなって……
嬉しさと申し訳なさで、胸が詰まった。
だけど、どんなに呼びかけても彼が私の声に気付く事はなく……
彼は朝早くから陽が暮れるまでその場所に立ち尽くし…やがて、肩を落としてどこかへ去って行った。
もう二度と会えない彼の後ろ姿に、私は打ちひしがれた。
誠実な彼に応えられなかった我が身の不幸を嘆き、私は桜の木の下でずっと涙した。
*
(う、嘘……)
それからまた十年後…彼は、桜の木の下にやって来た。
この前よりもまた少し男臭くなった彼……
十年前と同じように朝早くから陽が沈むまでずっと私の側に立ち尽して……
「もう、ここへは来ないで!
あなたにはもう会えないの!」
私の叫び声は彼にとっては風の音にさえも感じられない。
思い詰めたような顔で去って行く彼に、私は声を上げた。
もうここには来ないで…私のことは忘れて幸せになって……と。
だけど、彼はまたその十年後にもやって来た。
そのまた十年後にも……
やがて、いつからか、彼は、十年ごとではなく毎年桜の木の下に来るようになった。
そんな彼のことを私はいつしか心待ちにするようになっていて……
私はもう叫ぶ事も泣くこともしない。
彼がどんな人生を送って来たのかはわからないけれど、ずっと私を想ってくれていたことは間違いない。
それはとても申し訳ないことだけど、彼の計画を狂わせてしまったことは、会ってからゆっくりと詫びようと思ってる。
(……会えるのはきっとそう遠い日ではないわね……)
嬉しいような寂しいような、なんとも複雑な気持ち……
(彼に会えたら、私もきっとここを離れられるわよね……)
足をひきずるようにして遠ざかる彼の後ろ姿に、私は小さく手を振った。
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