1ページ劇場①

ルカ(聖夜月ルカ)

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秋の夜長に見る夢は…①

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「恵…無理すんな。」

兄さんの大きな手が私の肩を優しく叩いた。



「あいつとは小さな時からずっと一緒だったじゃないか…
それを忘れることなんて出来ないし、忘れなきゃならない理由なんてない。
すぐに明るい顔なんて出来なくて当然だ。
立ち直るのにどれだけ時間がかかったって良いじゃないか。
それは、おまえがあいつのことをそれだけ大切に思ってるって証なんだから…」

「兄さん……」

いつもふざけてばかりの兄さんの真面目な言葉は妙に染みる。



「恵……これ、俺が撮った写真だよな?遊園地行った時だ。
あいつ、この帽子かぶるの随分いやがってたよな。」

兄さんが指差したのは少し色褪せた一枚の写真。
まだあどけない顔をした私の隣で、真人は猫の耳の付いた帽子をかぶって笑ってる。
あんなに抵抗してたのにその顔は不思議なくらい楽しげで……



そうだ…
この時、真人は確かにここにいて…
この前もこの後も、真人はいつも私達の傍にいた……



「……そうだよね。
そんなに急に笑える筈なんてないよね。
悲しくて当たり前なんだね……」

兄さんは黙って小さく頷いた。



「……昨夜ね、真人の夢を見たんだ。
どこだかわからないけど大きな観覧車があってね…
真人は笑いながら急に駆け出して…それを私は追いかけてね……」

思い出したら切なくて胸が一杯になって、それ以上話せなくなってしまった。



「良いな、おまえはあいつの夢を見れて。
俺…めったに夢見ないからな…
真人ーー!たまには俺の夢にも出て来い!
恵にばっかりずるいぞ!」

兄さんは口元を両手で囲って、大きな声を張り上げた。



そんなことしなくても、きっと真人はすぐ傍にいるから聞こえてるよ。
いつもすぐ傍で私達のことを見守ってくれてるよ。
ずっとそんな風に想ってた。
だけど、それは私が想いを断ち切れないからじゃないかって…
真人に悪い事をしてるんじゃないかって思ってた。
毎晩夢を見るのも辛かった。
罪悪感と楽になりたい気持ちから、私は無理に真人を忘れようとしていたのかもしれない。



「兄さん…真人の夢見たら、また話聞いてくれる?」

「……あぁ。ぜひ聞かせてくれ。」



今夜も私はきっと真人の夢を見る。
真人はいなくなったけど、夢の中では今までと変わりなく会えるんだ。

どんな夢でも、また兄さんに話して聞かせよう。
私達の大切な真人の話を……



~fin 
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