赤い流れ星3

ルカ(聖夜月ルカ)

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side 野々村美咲

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 (……大丈夫かしら?)



 私はなんとなく気恥ずかしくて、なかなか顔を上げられず、ずっと俯いたままで美幸さんが来られるのを待っていた。



 「……野々村さん?」

 私の前でくたびれたスニーカーが立ち止まり、躊躇いがちな声が響いた。
それは訊きなれた美幸さんの声。



 「あ、美幸さん……」

 「わぁ…!」



 私が顔を上げると、美幸さんはたいそう驚かれた表情でそう言われたっきり、何も言わずに私の顔をみつめられた。



 「……や、やっぱり変ですか?」

 「え……ち、違うよ!
 野々村さん、やっぱりすごく美人さんだったんだね。
びっくりした!」

 「ま、また…そんな……
からわかないで下さいよ。」

 「からかってなんかないよ。
 本当に綺麗……」



そんなのお世辞だってわかってるけど……でも、おかしくはないみたい。
……良かった。



 今日は、思いきって眼鏡をかけずに出掛けてみた。
 目は良くないけど、実は生活に不便があるほど悪いわけではなかった。
 今までの自分とすっかり変わってしまいたいと思ったあの日……ちょっとした変装のようなつもりで眼鏡をかけることを思い付いた。
それからはかけていた方が安心っていうのか、本当の自分を少し隠せるような気がして……そのうちにいつしか眼鏡は私の顔の一部となって、手放せなくなっていた。
 最近は、少し度が進んだのか合わなくなって来てたから、ちょうど買い買えようかなとも思ってたこともあり、私は早めに出て眼科に向かった。
これからはコンタクトにしようかなんて思い立ったから。
でも、土壇場になってやっぱりちょっと不安になって……私は美幸さんの反応を見て、コンタクトにするか、やっぱり眼鏡にするかを決めることにした。



 「眼鏡で顔ってずいぶん変わるんだねぇ……」

 「美幸さん…本当におかしくないですか?」

 「おかしくなんかないよ。
すっごく綺麗だって。」

 「で…でも……こんなおばさんになってから、わざわざコンタクトにするなんて、おかしくないですか?」

 「そんなことあるわけないじゃない。
 野々村さん…本当にもったいないよ。
あの眼鏡と髪型のせいで、実際の年令よりずっと老けて見えてたし……あ、ごめん。」

 美幸さんはそう言って、慌てて口許を押さえられた。

 確かに今までは実年令より上に見られることがよくあった。
でも、それって、本当に髪型や眼鏡のせいだったのかしら?
そんなことくらいで、見た目の年令がそんなにも変わるものかしら?
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