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うなぎと珈琲
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子供の日といえば、一番に鯉のぼりが頭に浮かぶが、最近はその鯉のぼりをあまり見かけなくなった。
子供の数が減ったからか、鯉のぼりを建てる場所がないせいか。
ベランダから無駄に青い空を見上げ、なんとなく寂しい気分を感じた。
そんな気持ちになるのは、俺が離婚したばかりだからかもしれない。
妻に浮気され、その上に離婚を言い出された。
妻は、浮気相手の年下の男と人生をやり直したいらしい。
俺に非があるわけじゃないが、言ってみれば俺は捨てられたってことだ。
還暦を目前にしてごねる気にもなれず、俺はあっさりと離婚に応じた。
家は俺がもらった。
家財道具もいらないとのこと。
チワワのレオも置いていかれた。
つまり、妻がいなくなっただけで、それ以外は何も変わらない。
5月は祝日が多い。
子供の日の次は母の日があった。
いつも電話だけで済ませていたが、ふと気が向いて、家を訪ねることにした。
母は高齢ながら、いまだ頭も体もしっかりして、一人暮らしをしている。
訪問の口実にカーネーションを買おうと思ったら、花屋は客でごった返していたから、諦めた。
「まぁ、珍しいね。
正月でもないのに、あんたが来るなんて。」
母の皮肉に、俺は苦笑いをするしかなかった。
「今日は母の日だからさ。
良かったら、昼ごはんにうなぎでも食べないか?」
咄嗟の思いつきを口にした。
うなぎは母の好物だ。
「そうかい。それは良いね。
じゃあ、早速注文しようか。」
母は、早速、近所のうなぎ屋に電話を掛けた。
そして、温かいコーヒーを出してくれた。
「……で、何があったんだい?」
コーヒーを一口すすり、母が不意に問い掛ける。
「え?」
「だって、美恵さんが来なくて、あんただけだなんて…美恵さんと何かあったのかい?」
言い当てられて、俺は正直に話した。
先月、離婚したことを。
「おやまぁ、なんてことだろう。
還暦近くになって捨てられるとはね。
何が原因なんだい?
あんたが何かやらかしたのかい?」
「違うよ。好きな男が出来たんだってさ。
その男の子供を妊娠したらしい。やっぱり、若い嫁はだめだな。」
そんな強がりを言って、俺は無理に笑った。
妊娠については言いたくなかったのだが、自分でも気付かないうちに話していた。
「……そうかい。」
母は、コーヒーを飲み干し、小さな溜め息を漏らした。
気まずい空気が流れる中、俺もコーヒーを飲み干した。
「済んだことは仕方ないさ。
さ、うなぎ食べて、元気出しなよ。」
「そうだね。」
しばらくして届いたうなぎを二人で食べながら、俺は母がいてくれて良かった、と。
なぜだかそんなことを考えていた。
子供の数が減ったからか、鯉のぼりを建てる場所がないせいか。
ベランダから無駄に青い空を見上げ、なんとなく寂しい気分を感じた。
そんな気持ちになるのは、俺が離婚したばかりだからかもしれない。
妻に浮気され、その上に離婚を言い出された。
妻は、浮気相手の年下の男と人生をやり直したいらしい。
俺に非があるわけじゃないが、言ってみれば俺は捨てられたってことだ。
還暦を目前にしてごねる気にもなれず、俺はあっさりと離婚に応じた。
家は俺がもらった。
家財道具もいらないとのこと。
チワワのレオも置いていかれた。
つまり、妻がいなくなっただけで、それ以外は何も変わらない。
5月は祝日が多い。
子供の日の次は母の日があった。
いつも電話だけで済ませていたが、ふと気が向いて、家を訪ねることにした。
母は高齢ながら、いまだ頭も体もしっかりして、一人暮らしをしている。
訪問の口実にカーネーションを買おうと思ったら、花屋は客でごった返していたから、諦めた。
「まぁ、珍しいね。
正月でもないのに、あんたが来るなんて。」
母の皮肉に、俺は苦笑いをするしかなかった。
「今日は母の日だからさ。
良かったら、昼ごはんにうなぎでも食べないか?」
咄嗟の思いつきを口にした。
うなぎは母の好物だ。
「そうかい。それは良いね。
じゃあ、早速注文しようか。」
母は、早速、近所のうなぎ屋に電話を掛けた。
そして、温かいコーヒーを出してくれた。
「……で、何があったんだい?」
コーヒーを一口すすり、母が不意に問い掛ける。
「え?」
「だって、美恵さんが来なくて、あんただけだなんて…美恵さんと何かあったのかい?」
言い当てられて、俺は正直に話した。
先月、離婚したことを。
「おやまぁ、なんてことだろう。
還暦近くになって捨てられるとはね。
何が原因なんだい?
あんたが何かやらかしたのかい?」
「違うよ。好きな男が出来たんだってさ。
その男の子供を妊娠したらしい。やっぱり、若い嫁はだめだな。」
そんな強がりを言って、俺は無理に笑った。
妊娠については言いたくなかったのだが、自分でも気付かないうちに話していた。
「……そうかい。」
母は、コーヒーを飲み干し、小さな溜め息を漏らした。
気まずい空気が流れる中、俺もコーヒーを飲み干した。
「済んだことは仕方ないさ。
さ、うなぎ食べて、元気出しなよ。」
「そうだね。」
しばらくして届いたうなぎを二人で食べながら、俺は母がいてくれて良かった、と。
なぜだかそんなことを考えていた。
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