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ウィッシュボーン
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「マーカスさん、いらっしゃい!」
今日もキャサリンは、私を温かく迎えてくれた。
11月の第4木曜日。
ある古いアパートの一室で、サンクスギビングのパーティが開かれる。
開いてくれるのは、若きボランティアのグループだ。
私のような年老いた単身者達を、毎年呼んでもてなしてくれるんだ。
最初は行く気なんてなかった。
サンクスギビングがどうしたって言うんだ。
そんなものは私には関係ない。
私はいつもと変わらない一日を過ごすだけだ。
そう思っていた。
「一生懸命作ったんです。
どうか、一口で良いから味見して下さい!」
そう言って、しつこく私を誘ったのはキャサリンだ。
まだきっと20代くらいだ。
赤毛でそばかすがあって、お世辞にも美人とは言えない。
だけど、人懐っこい笑顔は、私の頑なな心をも温めてくれた。
今日でもう多分五回か六回目の参加だ。
テーブルの中心には、こんがり焼けたターキー、その隣にはマッシュポテトにパンプキンパイ。
ボランティアの皆が用意してくれたご馳走だ。
部屋にはもう何人もの老人達が集まっていた。
あぁ、いつもの顔ぶれだ。
ロージーばあさんと、ミランダ、ボブとランディと…あれ?
見慣れない顔が二人いる。
「キャサリン…あの二人は?」
「マイクさんとアーロンさんよ。
最近、このあたりに引っ越してきたそうよ。」
ふたりの目は、テレビのフットボールの試合に釘付けだ。
「そういえば、ロバートはまだなのか?」
「ロバートさんはもう…」
「え?」
知らなかった。
私と比較的、仲の良かったロバートは、私より3つ年下だったのに。
「……知らなかったよ。」
「マーカスさんは長生きしてよね。
あ、ターキーをどうぞ。」
キャサリンが、ターキーを取り分けてくれた。
滅多に食べられないご馳走だ。
優しいキャサリンに、心癒される。
彼女といつも一緒にいられたら、どんなに幸せだろう。
だが、彼女にとって私は、年に一度出会うただの老人に過ぎない。
たとえ、私が逝ってしまっても、彼女は涙を流すことは無いだろう。
「あ…ウィッシュボーンだ。」
「まぁ、凄い!
きっと、マーカスさんの願いは叶うわよ!」
私は静かに微笑んだ。
私の願いは叶う筈がない。
「願いをかけましょうよ!」
骨に私達は小指をかけた。
お互い、力を入れると、骨はポキンと折れた。
「わぁ!私の方が長いわ!」
やっぱりだ。
私の願いが叶うはずは無い。
だけど、それで良い。
どうか、キャサリンの願いが叶いますように。
今日もキャサリンは、私を温かく迎えてくれた。
11月の第4木曜日。
ある古いアパートの一室で、サンクスギビングのパーティが開かれる。
開いてくれるのは、若きボランティアのグループだ。
私のような年老いた単身者達を、毎年呼んでもてなしてくれるんだ。
最初は行く気なんてなかった。
サンクスギビングがどうしたって言うんだ。
そんなものは私には関係ない。
私はいつもと変わらない一日を過ごすだけだ。
そう思っていた。
「一生懸命作ったんです。
どうか、一口で良いから味見して下さい!」
そう言って、しつこく私を誘ったのはキャサリンだ。
まだきっと20代くらいだ。
赤毛でそばかすがあって、お世辞にも美人とは言えない。
だけど、人懐っこい笑顔は、私の頑なな心をも温めてくれた。
今日でもう多分五回か六回目の参加だ。
テーブルの中心には、こんがり焼けたターキー、その隣にはマッシュポテトにパンプキンパイ。
ボランティアの皆が用意してくれたご馳走だ。
部屋にはもう何人もの老人達が集まっていた。
あぁ、いつもの顔ぶれだ。
ロージーばあさんと、ミランダ、ボブとランディと…あれ?
見慣れない顔が二人いる。
「キャサリン…あの二人は?」
「マイクさんとアーロンさんよ。
最近、このあたりに引っ越してきたそうよ。」
ふたりの目は、テレビのフットボールの試合に釘付けだ。
「そういえば、ロバートはまだなのか?」
「ロバートさんはもう…」
「え?」
知らなかった。
私と比較的、仲の良かったロバートは、私より3つ年下だったのに。
「……知らなかったよ。」
「マーカスさんは長生きしてよね。
あ、ターキーをどうぞ。」
キャサリンが、ターキーを取り分けてくれた。
滅多に食べられないご馳走だ。
優しいキャサリンに、心癒される。
彼女といつも一緒にいられたら、どんなに幸せだろう。
だが、彼女にとって私は、年に一度出会うただの老人に過ぎない。
たとえ、私が逝ってしまっても、彼女は涙を流すことは無いだろう。
「あ…ウィッシュボーンだ。」
「まぁ、凄い!
きっと、マーカスさんの願いは叶うわよ!」
私は静かに微笑んだ。
私の願いは叶う筈がない。
「願いをかけましょうよ!」
骨に私達は小指をかけた。
お互い、力を入れると、骨はポキンと折れた。
「わぁ!私の方が長いわ!」
やっぱりだ。
私の願いが叶うはずは無い。
だけど、それで良い。
どうか、キャサリンの願いが叶いますように。
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