１ページ劇場⑤

聖なる木

１

「新店舗は、〇〇町に決まりました。」

「えーーっ！」

その場にいた者達は、顔を見合わせて驚く。



「どうして〇〇町なんですか？」

「あんなコンクリートジャングルで、和菓子なんか売れるかしら？」

「仕方ありません。社長が決めたことですからね。」



部屋のざわめきは、なかなかおさまらなかった。



シニアのメンバーばかりが集められたほっこり屋は、和菓子の店だ。
皆、長年和菓子に関わってきた者ばかりのプロ集団だ。
社長は、23歳で、店のプロデュースを担当している。



数ヶ月が経ち、あるビルの一階に、ほっこり屋はオープンした。
和菓子屋らしくない外観に、皆、気後れしている。



「さぁ、ついにオープンですよ。頑張って行きましょう！」

「おーーっ！」

皆、戸惑いながらもやる気満々だ。
誠二さん、ミッキーさん、このニ人の職人が、和菓子を作る。
ほっこり屋のウリは、いつでも柏餅が食べられることだ。
社長が、柏木という苗字だから、そうなったらしい。
光子さん、ハツさん、幸枝さんが販売担当だ。
キャッシュレスの支払い方法もマスターしている。
店の一角では、六さんがたい焼きを焼いている。



味はもちろんのこと、一生懸命働くシニア世代が可愛いとか、応援したくなる、とのことで、ほっこり屋は大繁盛だ。
近くに勤めるOLばかりではなく、遠くからも大勢の客が押し寄せた。
特に、この店の柏餅を食べると幸せになる、なんていう噂話が広まって、柏餅はいつも午前中には売り切れてしまう人気商品となった。



「柏餅、まだありますか？」

「はい、あと二つでおしまいですが。」

「じゃあ、二つ下さい！」

この女性客も噂話に惹かれてやって来た者だった。
ここの柏餅を食べたら子供が出来た、という噂を聞いたのだという。
女性は、とても嬉しそうな顔で帰って行った。



今日もほっこり屋の店員達は元気に働く。
お客さん達の笑顔のために。