１ページ劇場⑤

サイリンリンリン

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その出会いは、とても唐突なものだった。
スーパーからの帰り道、私は金髪の外国人に声をかけられた。
だけど、私は昔から英語が大の苦手。
赤点続きの大嫌いな科目だった。
そんな私に、外国人と喋れるはずがない。
「I don't know」と小さな声で言って逃げ去った。



それから数日後、また同じ道で彼に会った。
彼は何かを一生懸命話すのだけど、私にはまるで伝わらない。
今日は特に「サイリン」という言葉が何度か出てきたけど、私には何のことやらわからない。
辞書で調べようにもスペルもわからない。
大嫌いな英語が夢にまで出て来て、次の日の朝は頭痛で目が覚めた。



数日が経ち、また彼と出会った。
彼はまた今回も「サイリン」という。
全く意味が分からず、頭は痛いし、ついには涙まで溢れて来て、彼は動揺しているようだった。



そんなに彼と会うのが嫌なら、道を変えれば良いのに、私はなぜだか頑なにいつもと同じ道を通って…
でも、この間、私が泣いたせいか、彼とは会わなくなった。
何か私に伝えたいことがあったみたいだけど、さすがに無理だと諦めたのかもしれない。



ほっとしたような、どこか寂しいような気持ちを感じた。
気が付けば、初めて会った時から、もう半年程が経っていた。
彼は一体何を言いたかったんだろう？
「サイリン」って、何だったんだろう？



そんなことを考えながら歩いていたある日、私は彼と久しぶりに再会した。



「コンニチワ」

「こ、こんにちわ。」

「ワタシハ、アナタガスキデス。
ニチヨウビ、ジテンシャデ、タノシミマセンカ？」

「え？」

急なことでびっくりしたけれど、なぜだか私はそのお誘いを了承していた。
どうにか待ち合わせの時間と場所を決め、当日はふたりで自転車に乗って少し遠くの河原まで行き、ピクニックをした。
彼も私も自転車を持ってないので、駅前でレンタサイクルを借りた。
久しぶりの自転車はなかなか楽しかった。
自転車に乗ったのは、多分、高校生以来のことだけど、意外と体は覚えているものだ。



それがきっかけで、彼と付き合うようになり、ついには結婚した。
彼はもうネイティブの日本人と変わらないくらい、日本語がペラペラになり、私が頭痛に悩まされることもない。



彼は、私に一目惚れして、サイクリングに誘おうとしたらしい。
でも、私が全くわからないから、半年程、必死で日本語を勉強したらしい。



「サイクリングさえわからないなんて、あんまりだよ。」

「仕方ないじゃない。私、昔から英語は大の苦手だったんだもん。」

彼は未だに昔のことを言っては私を責める。
半分笑ったような顔で。



彼のおかげで、今なら日常会話程度は話せるようになった。
「サイクリング」も聞き取れる。
今では、子供たちも含め、皆でサイクリングに行くようになった。



「来週もサイクリングに行きましょう。」

新緑の季節の中、風を切って皆で走ろう！