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大当たり
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(なんでこんなことに…)
ダンボールだらけの部屋の真ん中で、俺は途方に暮れた。
(そもそも、あれが間違いだったんだ。)
俺はほんの少し前のあの日に想いを馳せた。
1月の始め、俺はついに三十路になる。
それを機に、何かを変えたいと思った。
29歳から30歳になるだけのことなのに、なぜだか俺はそんなことを想ったんだ。
(そうだ…!家を引っ越そう!)
大学を卒業してから、約8年住んでいた家を引っ越したら、気分はかなり改まるだろうし、記念にもなる。
(うん、良いアイディアだ!)
そう決意した俺は、次の日から早速家探しを始めた。
仕事の都合もあるから、場所は今の家からあまり離れない所で、探してみた。
まぁまぁ良いなと思える物件はけっこうあり、それで逆に迷ってしまった。
最近は、物件情報もオンラインで繋がってるから、不動産屋を変えてもあまり意味はないと聞いてはいたが、俺はどうも満足出来ず、最寄り駅を少しだけ変えて、また新たに不動産屋を探した。
(これが最後だ。)
初めての駅前は、意外と寂れていた。
駅の反対側にはスーパーや商店街があり、結構賑わっていたけれど、不動産屋が見当たらなかったから、反対側に回ってみたのだ。
こちら側は道幅も狭いし、建物も皆かなり古い感じだ。
(あ、あった…)
不動産という文字は読めたが、その前の二文字は看板がはげていて読めない。
何十年か経っていそうな古びた店だ。
なんとなく胡散臭い気がして入りたくないと思う気持ちとは裏腹に、心のどこかでは妙に惹かれていた。
僕は、ガラガラと引き戸を開いた。
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました。」
昭和の事務員みたいな老人が、不敵に笑う。
店の中も、予想を裏切ることはなく、外観通り、古くて薄汚れていた。
「あ、あの…この駅の近くで家を探してるんですが…」
「どうぞお座り下さい。」
座ってから気が付いたのだけど、この店にはパソコンがない。
「ご予算と広さ等のご希望は?」
「えっと、駅からは徒歩10分以内で1LDKで70000くらいであれば…」
「その条件ならたくさんございますよ。」
老人はファイルを広げ、紙の見取り図を差し出した。
なんだ、ここも似たようなものか…と、少し落胆した時、老人がまたも不敵に笑った。
「実は特別な物件がございます。」
「特別な?」
「はい、来年の運試しに、挑戦なさいますか?」
「挑戦って…どんな?」
「たいしたことではございません。
裏返した二枚の見取り図から、どちらか一枚を選ぶだけです。
どちらかは大当たり、でも、どちらかははずれです。」
「えっ…」
物件はどちらも徒歩10分圏内、家賃も70000円以内だということだった。
どういうものが当たりなのかはわからないが、なんとなく気になって、俺はその話に乗ってしまった。
「じゃあ…こっち。」
俺は右の見取り図を選んだ。
「了解致しました。」
「これは当たり?それともはずれ?」
「それはすぐにわかります。」
数日後、俺は引っ越しした。
なんと、引っ越し代もタダだった。
着いたマンションは、確かに駅から近く、中身は新築みたいにリノベーションしてあり、2LDKだった。
そうか、俺は当たりを引いたんだ!
「では、契約書を。」
なんと、敷金や礼金もなく、家賃は25000円だった。
俺はやっぱり当たりを引いたんだ!
だが、そうではなかったことに気付いたのは、その晩だった。
ダンボールだらけの部屋の真ん中で、俺は途方に暮れた。
(そもそも、あれが間違いだったんだ。)
俺はほんの少し前のあの日に想いを馳せた。
1月の始め、俺はついに三十路になる。
それを機に、何かを変えたいと思った。
29歳から30歳になるだけのことなのに、なぜだか俺はそんなことを想ったんだ。
(そうだ…!家を引っ越そう!)
大学を卒業してから、約8年住んでいた家を引っ越したら、気分はかなり改まるだろうし、記念にもなる。
(うん、良いアイディアだ!)
そう決意した俺は、次の日から早速家探しを始めた。
仕事の都合もあるから、場所は今の家からあまり離れない所で、探してみた。
まぁまぁ良いなと思える物件はけっこうあり、それで逆に迷ってしまった。
最近は、物件情報もオンラインで繋がってるから、不動産屋を変えてもあまり意味はないと聞いてはいたが、俺はどうも満足出来ず、最寄り駅を少しだけ変えて、また新たに不動産屋を探した。
(これが最後だ。)
初めての駅前は、意外と寂れていた。
駅の反対側にはスーパーや商店街があり、結構賑わっていたけれど、不動産屋が見当たらなかったから、反対側に回ってみたのだ。
こちら側は道幅も狭いし、建物も皆かなり古い感じだ。
(あ、あった…)
不動産という文字は読めたが、その前の二文字は看板がはげていて読めない。
何十年か経っていそうな古びた店だ。
なんとなく胡散臭い気がして入りたくないと思う気持ちとは裏腹に、心のどこかでは妙に惹かれていた。
僕は、ガラガラと引き戸を開いた。
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました。」
昭和の事務員みたいな老人が、不敵に笑う。
店の中も、予想を裏切ることはなく、外観通り、古くて薄汚れていた。
「あ、あの…この駅の近くで家を探してるんですが…」
「どうぞお座り下さい。」
座ってから気が付いたのだけど、この店にはパソコンがない。
「ご予算と広さ等のご希望は?」
「えっと、駅からは徒歩10分以内で1LDKで70000くらいであれば…」
「その条件ならたくさんございますよ。」
老人はファイルを広げ、紙の見取り図を差し出した。
なんだ、ここも似たようなものか…と、少し落胆した時、老人がまたも不敵に笑った。
「実は特別な物件がございます。」
「特別な?」
「はい、来年の運試しに、挑戦なさいますか?」
「挑戦って…どんな?」
「たいしたことではございません。
裏返した二枚の見取り図から、どちらか一枚を選ぶだけです。
どちらかは大当たり、でも、どちらかははずれです。」
「えっ…」
物件はどちらも徒歩10分圏内、家賃も70000円以内だということだった。
どういうものが当たりなのかはわからないが、なんとなく気になって、俺はその話に乗ってしまった。
「じゃあ…こっち。」
俺は右の見取り図を選んだ。
「了解致しました。」
「これは当たり?それともはずれ?」
「それはすぐにわかります。」
数日後、俺は引っ越しした。
なんと、引っ越し代もタダだった。
着いたマンションは、確かに駅から近く、中身は新築みたいにリノベーションしてあり、2LDKだった。
そうか、俺は当たりを引いたんだ!
「では、契約書を。」
なんと、敷金や礼金もなく、家賃は25000円だった。
俺はやっぱり当たりを引いたんだ!
だが、そうではなかったことに気付いたのは、その晩だった。
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