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限界

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(さすがに替え時かなぁ…)



俺は、目の前のブラウン管テレビに目を向けた。
もうテレビは見られない。
寂しい時に、ビデオに録画したものを見るのと、スーファミでゲームをする時に使っている。
好きなスポーツ観戦は出来ないし、ビデオは見飽きた。
でも、テレビが見られないお陰で、国営放送にも金を払わなくて済む。



(やっぱり、もう少し我慢するか。)



俺がこんなに我慢するのは、夢があるからだ。
それは母親のために、家を建てること。
うちはずっと貧乏で、狭いアパート暮らしだった。
父親が早くに亡くなったから仕方ないんだけど、庭のある家で、花を育てたいと母は常々話していた。
俺はその夢を叶えるために、18からずっとがむしゃらに働き、ケチに徹してきた。
このあたりは、便利だし環境も良く、そのため、家も高い。
中古ならもっと早くに買えたのだけど、どうせならピカピカの新築にしたかったから、時間がかかってしまったけれど、あと少しで目標額が貯まるんだ。



(あぁ、寒い。白湯でも飲むか。)



台所に行き、やかんに水を注ぐ。



「あっ!」

やかんの持ち手が壊れた。
まだ十数年しか使ってないのになんてことだ。
仕方なく、鍋に湯を沸かして飲んだ。



酷く気分が落ち込んだ。
持ち手が壊れた真っ黒のやかん…
鍋で沸かした白湯…
とても惨めな気分だ。



こんな調子だから、彼女はおろか、友達だっていない。
そのおかげで交際費はかからないけど、やはり内心寂しい。



(……みかん、食べたいなぁ。)



大好きなみかんも、もう十年以上食べてない。
白湯をすすり、体は温まったけど、心は冷え冷えしていた。
薄暗くて狭い部屋で、ひとり白湯をすすってるなんて、あまりにも寂しい。



「あ、母さん…今度の日曜、暇?」



俺は衝動的に母さんに電話をかけていた。
今度の日曜、家を見に行こう。
目標額はほぼ溜まってるんだ、少しくらい早めてもなんとかなる。



そして、帰りにみかんを買おう。
久しぶりに手が黄色くなるほど食べてやるんだ。
そう思ったら、忘れかけていた甘酸っぱいみかんの味が、口いっぱいに広がった。
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