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お礼

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「あぁ、明日は土用の丑の日か。うなぎ食べたいなぁ。」

オカルト研究会の部室で、部長の篠田が呟いた。
篠田の家は、兄弟が多く、じいさん、ばあさんまでいるらしく、たいそう貧乏だということだ。



「おまえは、うなぎ食べるのか?」

「さぁ、どうかな?」

うちの母は割と行事に忠実だから、多分、うなぎを買ってくるだろうと思ったけれど、部長の心情を思い、はぐらかしておいた。



(いや、待てよ…)



「部長、明日、うちに遊びに来るか?」

「なんでだ?」

「いや、なんとなく…」



一年の時から、ほぼずっと二人でオカルト研究会を続けてきた。
人数が少ないから正式な部としては認めて貰えず、そもそも、毎日、オカルトに関することをただ適当に話すだけなんだから、部活動とは言えないかもしれない。
それでも、僕にとっては楽しい時間だったし、篠田は大切な友達だ。
その友達に、うなぎを食べさせてあげたいとふと思ったんだ。



家に帰った僕は、明日、友達が遊びに来ること、そして、うなぎを食べさせたいことを母に頼んだ。
友達を家に連れて来たことなんて、今まで数える程しかない。
僕に友達が少ないことは、母も良く知ってるから、快諾してくれた。







「ここだよ。」

「お前、でかい家に住んでるんだな。」

普通の建て売りなんだけどな。



「とにかく入ってよ。」

「あら、いらっしゃい。
初めまして、秀人の母です。」

「は、初めまして。篠田です。」

篠田はえらく緊張した様子だった。



「おまえの母ちゃん、めちゃめちゃ美人だな。
ポニーテールがすごく似合ってる。」

ポニテはともかく、母は間違っても美人だとは思えないのだけど。



「はい、お待たせしました。」

しばらくして、母がうな重を出してくれた。



「うわぁ!」

「あら、どうかしたの?」

「こ、これ…一人分ですか?」

「そうよ。どうして?」



話を聞いてみると、篠田が唯一うなぎを食べたのは小4の時で、その時は1センチ幅くらいのものだったらしい。
今日は、一匹分が入ってたから、驚いたようだ。



「おまえ、ボンボンだったんだな。」

「いや~違うと思うけど。」

篠田はうな重にとても満足したようだった。



「明日からは、お前が部長だ。」

「え、なんでだよ。部長はじゃんけんで決めたじゃないか。」

「うな重のお礼だ。」



僕は、オカルト研究会の副部長から部長になった。
あの日以来、うなぎと母の話ばかりだ。
これじゃあ、オカルト研究会とも呼べない。
でも、楽しいから、ま、いっか。
いざとなれば、雑談部とでも名前を変えよう。
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