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お礼
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「あぁ、明日は土用の丑の日か。うなぎ食べたいなぁ。」
オカルト研究会の部室で、部長の篠田が呟いた。
篠田の家は、兄弟が多く、じいさん、ばあさんまでいるらしく、たいそう貧乏だということだ。
「おまえは、うなぎ食べるのか?」
「さぁ、どうかな?」
うちの母は割と行事に忠実だから、多分、うなぎを買ってくるだろうと思ったけれど、部長の心情を思い、はぐらかしておいた。
(いや、待てよ…)
「部長、明日、うちに遊びに来るか?」
「なんでだ?」
「いや、なんとなく…」
一年の時から、ほぼずっと二人でオカルト研究会を続けてきた。
人数が少ないから正式な部としては認めて貰えず、そもそも、毎日、オカルトに関することをただ適当に話すだけなんだから、部活動とは言えないかもしれない。
それでも、僕にとっては楽しい時間だったし、篠田は大切な友達だ。
その友達に、うなぎを食べさせてあげたいとふと思ったんだ。
家に帰った僕は、明日、友達が遊びに来ること、そして、うなぎを食べさせたいことを母に頼んだ。
友達を家に連れて来たことなんて、今まで数える程しかない。
僕に友達が少ないことは、母も良く知ってるから、快諾してくれた。
*
「ここだよ。」
「お前、でかい家に住んでるんだな。」
普通の建て売りなんだけどな。
「とにかく入ってよ。」
「あら、いらっしゃい。
初めまして、秀人の母です。」
「は、初めまして。篠田です。」
篠田はえらく緊張した様子だった。
「おまえの母ちゃん、めちゃめちゃ美人だな。
ポニーテールがすごく似合ってる。」
ポニテはともかく、母は間違っても美人だとは思えないのだけど。
「はい、お待たせしました。」
しばらくして、母がうな重を出してくれた。
「うわぁ!」
「あら、どうかしたの?」
「こ、これ…一人分ですか?」
「そうよ。どうして?」
話を聞いてみると、篠田が唯一うなぎを食べたのは小4の時で、その時は1センチ幅くらいのものだったらしい。
今日は、一匹分が入ってたから、驚いたようだ。
「おまえ、ボンボンだったんだな。」
「いや~違うと思うけど。」
篠田はうな重にとても満足したようだった。
「明日からは、お前が部長だ。」
「え、なんでだよ。部長はじゃんけんで決めたじゃないか。」
「うな重のお礼だ。」
僕は、オカルト研究会の副部長から部長になった。
あの日以来、うなぎと母の話ばかりだ。
これじゃあ、オカルト研究会とも呼べない。
でも、楽しいから、ま、いっか。
いざとなれば、雑談部とでも名前を変えよう。
オカルト研究会の部室で、部長の篠田が呟いた。
篠田の家は、兄弟が多く、じいさん、ばあさんまでいるらしく、たいそう貧乏だということだ。
「おまえは、うなぎ食べるのか?」
「さぁ、どうかな?」
うちの母は割と行事に忠実だから、多分、うなぎを買ってくるだろうと思ったけれど、部長の心情を思い、はぐらかしておいた。
(いや、待てよ…)
「部長、明日、うちに遊びに来るか?」
「なんでだ?」
「いや、なんとなく…」
一年の時から、ほぼずっと二人でオカルト研究会を続けてきた。
人数が少ないから正式な部としては認めて貰えず、そもそも、毎日、オカルトに関することをただ適当に話すだけなんだから、部活動とは言えないかもしれない。
それでも、僕にとっては楽しい時間だったし、篠田は大切な友達だ。
その友達に、うなぎを食べさせてあげたいとふと思ったんだ。
家に帰った僕は、明日、友達が遊びに来ること、そして、うなぎを食べさせたいことを母に頼んだ。
友達を家に連れて来たことなんて、今まで数える程しかない。
僕に友達が少ないことは、母も良く知ってるから、快諾してくれた。
*
「ここだよ。」
「お前、でかい家に住んでるんだな。」
普通の建て売りなんだけどな。
「とにかく入ってよ。」
「あら、いらっしゃい。
初めまして、秀人の母です。」
「は、初めまして。篠田です。」
篠田はえらく緊張した様子だった。
「おまえの母ちゃん、めちゃめちゃ美人だな。
ポニーテールがすごく似合ってる。」
ポニテはともかく、母は間違っても美人だとは思えないのだけど。
「はい、お待たせしました。」
しばらくして、母がうな重を出してくれた。
「うわぁ!」
「あら、どうかしたの?」
「こ、これ…一人分ですか?」
「そうよ。どうして?」
話を聞いてみると、篠田が唯一うなぎを食べたのは小4の時で、その時は1センチ幅くらいのものだったらしい。
今日は、一匹分が入ってたから、驚いたようだ。
「おまえ、ボンボンだったんだな。」
「いや~違うと思うけど。」
篠田はうな重にとても満足したようだった。
「明日からは、お前が部長だ。」
「え、なんでだよ。部長はじゃんけんで決めたじゃないか。」
「うな重のお礼だ。」
僕は、オカルト研究会の副部長から部長になった。
あの日以来、うなぎと母の話ばかりだ。
これじゃあ、オカルト研究会とも呼べない。
でも、楽しいから、ま、いっか。
いざとなれば、雑談部とでも名前を変えよう。
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