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蓮の花
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「あ……」
ドアを開いて、すぐに違和感を感じた。
私の視線は真っ直ぐ先に向いていた。
アパートの敷地に落ちていたのは、ピンク色の蓮の花。
私は花に駆け寄り、花を手にすると、あたりを見渡した。
周りには誰もいない…
(まさか…蓮?)
そんなはずはない。
だけど、蓮の花を見たらつい思い出してしまった。
(蓮……)
職場に着いても、蓮のことばかり思っていた。
幼馴染の蓮は、蓮根農家の家の子だった。
それなのに、名前まで蓮だから、クラスではそのことでよく弄られていた。
でも、蓮はそんなこと少しも気にせず、中学あたりからは蓮根掘りを手伝ったりしていた。
泥まみれになって作業する彼のことを、当時の私はかっこ悪いと思って、避けるようになっていた。
高校になってからも、蓮は変わらず、家業を手伝っていた。
大学には行かず、高校を出たら、家で働くと蓮は言い、そんな蓮に私は反感を覚えた。
今にして思えば、私はただ彼と一緒に大学生活を過ごしたかっただけだろう。
一足早く大人になろうとしていた彼への焦りみたいなものもあったのかもしれない。
私は、一人暮らしを始め、県外の大学に通った。
都会は刺激的で楽しかっただけど、寂しい想いもあった。
夏休みに帰省した時、たまたま蓮に出会った。
河原で並んで座って、お互いのことを話した。
彼と話していると、本当に心が和んだ。
「都会にはカッコイイ男がいっぱいいそうだな。」
「まぁ、確かにこっちよりはね。」
「……彼氏とか出来た?」
「え?」
そんなものいるはずなかった。
でも、いないというのがなんとなく恥ずかしいような気がして、私は咄嗟に嘘を吐いた。
「……まぁね。」
「……そっか。そうだよな。
おまえ、可愛いし、性格も良いもんな。」
「え?」
彼が私のことをそんな風に思っててくれたなんて、意外だった。
「明日の花火大会、一緒に見に行かないか?」
「え?う、うん。良いよ。」
「じゃあ、明日、ここで…5時にな。」
「うん、わかった。」
それが、蓮を見た最後だった。
いつもと何も変わってなかったのに。
彼は次の日の待ち合わせに来なくて…
お昼すぎに彼が出ていくのを家族や近所の人が見たのを最後に、彼の姿は忽然と消えた。
皆がかり出されて彼を探し、警察も出動したが、何日経っても手掛かり一つみつからなかった。
あれからもう15年の歳月が流れた。
*
「ただいま。」
私は、花瓶の蓮の花に声をかけた。
まるで、それが、蓮かのように。
ピンク色の花が、にこりと笑ったような気がした。
ドアを開いて、すぐに違和感を感じた。
私の視線は真っ直ぐ先に向いていた。
アパートの敷地に落ちていたのは、ピンク色の蓮の花。
私は花に駆け寄り、花を手にすると、あたりを見渡した。
周りには誰もいない…
(まさか…蓮?)
そんなはずはない。
だけど、蓮の花を見たらつい思い出してしまった。
(蓮……)
職場に着いても、蓮のことばかり思っていた。
幼馴染の蓮は、蓮根農家の家の子だった。
それなのに、名前まで蓮だから、クラスではそのことでよく弄られていた。
でも、蓮はそんなこと少しも気にせず、中学あたりからは蓮根掘りを手伝ったりしていた。
泥まみれになって作業する彼のことを、当時の私はかっこ悪いと思って、避けるようになっていた。
高校になってからも、蓮は変わらず、家業を手伝っていた。
大学には行かず、高校を出たら、家で働くと蓮は言い、そんな蓮に私は反感を覚えた。
今にして思えば、私はただ彼と一緒に大学生活を過ごしたかっただけだろう。
一足早く大人になろうとしていた彼への焦りみたいなものもあったのかもしれない。
私は、一人暮らしを始め、県外の大学に通った。
都会は刺激的で楽しかっただけど、寂しい想いもあった。
夏休みに帰省した時、たまたま蓮に出会った。
河原で並んで座って、お互いのことを話した。
彼と話していると、本当に心が和んだ。
「都会にはカッコイイ男がいっぱいいそうだな。」
「まぁ、確かにこっちよりはね。」
「……彼氏とか出来た?」
「え?」
そんなものいるはずなかった。
でも、いないというのがなんとなく恥ずかしいような気がして、私は咄嗟に嘘を吐いた。
「……まぁね。」
「……そっか。そうだよな。
おまえ、可愛いし、性格も良いもんな。」
「え?」
彼が私のことをそんな風に思っててくれたなんて、意外だった。
「明日の花火大会、一緒に見に行かないか?」
「え?う、うん。良いよ。」
「じゃあ、明日、ここで…5時にな。」
「うん、わかった。」
それが、蓮を見た最後だった。
いつもと何も変わってなかったのに。
彼は次の日の待ち合わせに来なくて…
お昼すぎに彼が出ていくのを家族や近所の人が見たのを最後に、彼の姿は忽然と消えた。
皆がかり出されて彼を探し、警察も出動したが、何日経っても手掛かり一つみつからなかった。
あれからもう15年の歳月が流れた。
*
「ただいま。」
私は、花瓶の蓮の花に声をかけた。
まるで、それが、蓮かのように。
ピンク色の花が、にこりと笑ったような気がした。
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