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赤い傘

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それはある曇天の日のことだった。
ちょっと見たいドラマがあって近道をして帰っていた時…
私は路地でウロウロしてる男性と遭遇した。
その人は腰を屈め、下を見ながら、真剣に何かを探していた。
声をかけるべきだろうか?
でも、知らない人と関わるのは苦手だし、とりあえず今日は早く帰りたい。
そんなことを考えながら、その場を通り過ぎようとした時…



「ちょっと待って下さい。」



切実な声が響いた。



「えっ!?」

あたりには私しかいないんだから、それは私に向けて言われた言葉だ。
なんだか急に不安になった。



「な、なにか?」

「僕、さっき、そこで転んで…その時にコンタクトを落としたみたいなんです。」

彼の膝のあたりには土が付いて茶色くなっていた。
なるほど。
彼の様子も、さっきの言葉も全て腑に落ちた。



(あ……)



よく見たら、彼はかなりのイケメンだった。



「あ、私も一緒に探します。」

「えっ!本当ですか?」

「はい、私、視力はけっこう良い方なんで。」

イケメンだとわかったら、途端に態度が変わってた。
見たかったドラマのことも、どうでも良くなっていた。



「わぁ、ありがとうございます。
すごく助かります!」

爽やかな笑みに、ハートがきゅんと鳴った。
やる気も最高潮!
私は目を皿のようにして、コンタクトを探した。



「あ、あった~!」



視力のせいか、愛の力か、私は見事にコンタクトを発見した。



「ありがとうございます!
本当に助かりました。
今日は、ちょっと早く帰りたくて近道をしたんですが、えらい目にあいました。」

えーっ!
私と同じなんですけど~!
もしかして、運命ですか~?

その場を離れ、歩いて行く方向は同じ。



(あ~、やっぱり、運命~!……ん?)



突然の雨だった。
まさか、私が雨女だから?
もう、こんな時に降らなくても~



「あ、僕の家、あそこなんです!」



えっ!会ってすぐに家!?
ま、まだ心の準備が…
でも、傘がないから仕方ないか。
アパートはうちからすぐだった。



「ここです。」

男性はチャイムを押した。



(……ん?なんで?)



出てきたのは綺麗な女性だった。
でも、酷く憂鬱そうな顔をしている。



「梨花、この人に傘を…」

女性は無言で家の中に取って返した。



「すみません。妻は頭痛持ちで低気圧に弱いんです。」



(つ、つ、つま~!?)



さっきの女性が傘を持って来てくれた。



「今日は本当にどうもありがとうございました~」

手を振る男性に私は小さく会釈して…
余りにも短かった恋の破局にため息を吐くのだった。
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