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プライド
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「はぁ~…」
「あ、危ない!」
私は咄嗟に妻を抱き止めた。
「ご、ごめんなさい。ちょっと目眩がして。」
そう言って、妻はソファーに腰を沈めた。
「そういえば、最近、眠れないって言ってたな。
大丈夫なのか?」
「私ももう年なのかしらね、情けないわ。
それよりあなた、陽菜のランドセルのこと、どうします?」
「陽菜と約束したんだ。買うしかなかろう。」
そう、可愛い初孫の陽菜との約束なんだ。
約束を破る訳にはいかない。
「でも、18万ですよ。
もっと安いランドセルにしてもらったら…」
「いや、だめだ!陽菜はあのランドセルが良いって言ってるんだから。」
「でも、私もパートをやめたばかりだし、最近はなんでも値上げで家計は火の車なんですよ。
そんな高いランドセルでなくても、良く似たもっと安いランドセルにしたらどうなんです?」
「ダメだと言ってるだろう。
陽菜が選んだあのランドセル以外はダメなんだ!」
もはや、意地なのかもしれない。
祖父としてのつまらない意地だ。
退職はしたが金ならある。
老後のために貯めた金が。
妻は、その貯金には手を付けたくないようだが。
確かに、18万のランドセルは贅沢だと思う。
だけど、目の中に入れても痛くない程可愛がっている孫が欲しいと言っているのだ。
やはり、何としても買ってやらなければならない。
「私は近所のお姉さんのお下がりのランドセルだったわ。
でもね、中にはダンボールのランドセルの子もいたから、お下がりでもまだマシだと思ったの。」
妻は、陽菜のお気に入りのランドセルを買うことにどうしても反対のようだ。
でも、私も折れるわけにはいかない。
「……いいわ。買いましょう。
私、またパート探すわ。」
「体調が悪いんだろ?」
「そんなこと、言ってられない。」
なんとも嫌な気分だ。
妻のあてこすりに、私は口をつぐんだ。
その時、妻のスマホが鳴った。
「はい、どうしたの?
うんうん、まぁ、そうなの?
わかったわ。伝えとく。
じゃあね。」
妻の顔が明るい。
何か良い報せみたいだ。
「あのね。陽菜のランドセル、公香さんのご両親がもう買って下さったらしいわよ。」
「なんだって!?陽菜のランドセルは私が陽菜に強請られたんだぞ。」
「きっと、向こうのおじいちゃんにも強請ってたのよ。」
「陽菜はそんな子じゃない!」
気分は悪かったが、18万のランドセルを買わずに済んで、どこかほっとしてもいた。
ただ、そんなことは口が裂けても言えない。
私は、怒った振りを続けるしかなかった。
「あ、危ない!」
私は咄嗟に妻を抱き止めた。
「ご、ごめんなさい。ちょっと目眩がして。」
そう言って、妻はソファーに腰を沈めた。
「そういえば、最近、眠れないって言ってたな。
大丈夫なのか?」
「私ももう年なのかしらね、情けないわ。
それよりあなた、陽菜のランドセルのこと、どうします?」
「陽菜と約束したんだ。買うしかなかろう。」
そう、可愛い初孫の陽菜との約束なんだ。
約束を破る訳にはいかない。
「でも、18万ですよ。
もっと安いランドセルにしてもらったら…」
「いや、だめだ!陽菜はあのランドセルが良いって言ってるんだから。」
「でも、私もパートをやめたばかりだし、最近はなんでも値上げで家計は火の車なんですよ。
そんな高いランドセルでなくても、良く似たもっと安いランドセルにしたらどうなんです?」
「ダメだと言ってるだろう。
陽菜が選んだあのランドセル以外はダメなんだ!」
もはや、意地なのかもしれない。
祖父としてのつまらない意地だ。
退職はしたが金ならある。
老後のために貯めた金が。
妻は、その貯金には手を付けたくないようだが。
確かに、18万のランドセルは贅沢だと思う。
だけど、目の中に入れても痛くない程可愛がっている孫が欲しいと言っているのだ。
やはり、何としても買ってやらなければならない。
「私は近所のお姉さんのお下がりのランドセルだったわ。
でもね、中にはダンボールのランドセルの子もいたから、お下がりでもまだマシだと思ったの。」
妻は、陽菜のお気に入りのランドセルを買うことにどうしても反対のようだ。
でも、私も折れるわけにはいかない。
「……いいわ。買いましょう。
私、またパート探すわ。」
「体調が悪いんだろ?」
「そんなこと、言ってられない。」
なんとも嫌な気分だ。
妻のあてこすりに、私は口をつぐんだ。
その時、妻のスマホが鳴った。
「はい、どうしたの?
うんうん、まぁ、そうなの?
わかったわ。伝えとく。
じゃあね。」
妻の顔が明るい。
何か良い報せみたいだ。
「あのね。陽菜のランドセル、公香さんのご両親がもう買って下さったらしいわよ。」
「なんだって!?陽菜のランドセルは私が陽菜に強請られたんだぞ。」
「きっと、向こうのおじいちゃんにも強請ってたのよ。」
「陽菜はそんな子じゃない!」
気分は悪かったが、18万のランドセルを買わずに済んで、どこかほっとしてもいた。
ただ、そんなことは口が裂けても言えない。
私は、怒った振りを続けるしかなかった。
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