１ページ劇場⑤

幸せ

１

（甘いなぁ……）



テーブルの上にあったデコポンをゆっくりと口の中に放り込む。
高いから、1日1個しか食べてはいけないと言われている。
いくらなのかはわからないが、確かにうまい。
倹約家の妻が、そんな高いデコポンを買ってきたこと自体、滅多にあることじゃない。
味わって食べなければ。



そんなことを思っていたら、妻がキッチンにやって来た。
おもむろに、懐かしのラジカセをスイッチオン。
流れてきたのは、聞き慣れた行進曲だ。
なんでも、この行進曲を聴くと、妻は料理がはかどるらしい。



「あなた、ずいぶんと暇そうね。」

「え？そうでもないんだけど…」

そうは言ったが、実は暇だ。
でも、日曜日くらい、暇でいさせてくれ。



「はい。これ。」

僕の答えを無視して、テーブルの上には、卵やサラダ油、塩や酢やマスタードが並べられた。



「わかるわよね？」

「……マヨネーズだよね？」

「正解！じゃあ、頼んだわよ。」



まぁ、そのくらいなら良いか。
僕は残りのデコポンを慌てて口の中に放り込み、マヨネーズ作りに取り掛かった。
最初は知らなかったけれど、妻に仕込まれて、マヨネーズが作れるようになった。
マヨネーズは、買った方が安いと思うのだが、作れるものは自分で作るというのが、妻のこだわりらしい。



僕は手馴れた手付きでマヨネーズを作っていく。
難しい手順は特に無い。
僕にも簡単に作れる。



「出来たよ。」

「ありがとう。助かったわ。もうしばらく待っててね。」

妻は労いの言葉も忘れない。
その一言で、僕の労力も報われる。
僕には過ぎた妻だ。
40年近く揉め事もなくうまくいってるのは、この妻のおかげだ。



「デコポン、美味かったよ。」

「そう、良かったわ。」

妻とは、この先もうまくやっていけそうだ。