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ドラレコは見ていた

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「あなた、大変!」

さっき、寝室に向かった妻が起きてきた。
妻は早寝早起きで、夜は9時には寝てしまう。



「どうした?ゴキブリでも出たのか?」

「違うわ、ナツメ球が切れてたのよ。」

「ナツメ球が?じゃあ、明日買ってくるよ。」

「だめよ。今じゃなきゃ。
ナツメ球がなかったら、真っ暗になってしまうわ。」

「でも、後は寝るだけじゃないか。
どうしてもいやなら、今夜は客間にでも寝たらどうだ?」

「だめだってば。あなた、今から買ってきてよ。
ドンキならまだ開いてるわ。
ほら、運動にもなるし。」

「えーー…」

ナツメ球がなんだっていうんだ。
なんで、こんな夜更けに、わざわざ、そんなものを買いに行かにゃあならんのだ。



そうは思うが、買いに行かないと妻は寝ないだろう。
そして、ずっと言い続けるんだ。
ナツメ球がないから眠れないって。



仕方なく、私はドンキまで行くことにした。
車で行けば、10分程だ。
さっさと買い物を済ませて帰ろう。



ナツメ球は、無事に買うことが出来た。
さぁ、帰ろう。



(ん?)



向こうから、今時、リヤカーを引きながら、焼き芋を売る老人の姿が見えた。
それと同時に、焼き芋のねっとりした甘さが頭に浮かぶ。



夜は7時以降には何も食べてはいけないと言われている。
糖尿病でメタボなせいだ。
だが、頭の中はもう焼き芋のことでいっぱいになっていた。
私にはその欲望を止める理性はもうなかった。



大丈夫だ。
素早く食べて帰ればバレることはない。
私は焼き芋を一本買い、車を路肩に止め、焼き芋にかぶりついた。



「あ、あふあふ。う、うまい!」



久しぶりの焼き芋だったせいか、夜食べるせいか、そもそもが絶品の芋なのか…
そのうまさたるや、尋常ではなかった。



「焼き芋最高!」



私は急いで焼き芋をたいらげ、満ち足りた気分で帰路に着いた。



「買ってきたぞ。」

妻が私に近寄り、おかしな顔をする。



「遅かったじゃない。」

「そ、そんなことないぞ。
ナツメ球がどこにあるのか探してたから、ちょっと手間取っただけだ。
ほ、ほら、ドンキは品数が多いから。」

妻は私の顔をじっとみつめていたかと思うと、私の手を取り、玄関の方へ歩き出した。



「な、なにするんだよ。」

「ドラレコを見るのよ。」

「えっ!」

すーっと血の気が引いていくのを感じた。
結局、ドラレコのせいで、私の悪事はすべてバレてしまった。
妻にこっ酷く叱られたのは言うまでもない。

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