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クラッカー(乙女座)

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「う…う~~ん…」

「なに?どうなの?
おいしい?
おいしくない?」

「……お、おいしい…とは…言えない…かな?」

 僕は、むせそうになるのを懸命に堪え、涙を浮かべながらも作り笑いで微笑んだ。




「…やっぱり、ウケ狙いはだめってことか~…」

「……そ、そうかも…ね。」

僕は半分マヒした口の中を洗い流すように、大量の水を飲み干した。



「今日はもう食材もないし、残念だけどもうおしまいね。
また、明日頑張るわ!」

「いや、もう頑張らなくても良いんじゃないかな?」

……なんて言える筈もなく、僕は曖昧な笑みで誤魔化した。



僕の彼女は、何にでもすぐに熱中する。
最近は、料理にハマってるようなのだけど、それも至って簡単なもの。
今は「クラッカーを使ったパーティ料理」なるものに応募するんだとはりきっていて、そのおかげで僕は毎日おかしなものを食べさせられている。
中でもさっきのハバネロとあんこの甘辛クラッカーなるものは強烈だった。
ハバネロを炒めてる時には台所が催涙ガスにでもやられたかのようになってしまって、咳が止まらず苦しいし、涙がぽろぽろ出て来てどうなることかと心配した。
彼女はそれを予想していたのが、マスクとゴーグルを着用していて、涼しい顔で炒めたハバネロの上にさらに真っ赤になる程の大量の七味をふりかけた。
そして、それをクラッカーに載せると、その上にはたっぷりとつぶあんを載せ、トップには真っ赤な苺が座ってた。
彼女曰く、これは土と緑とその実りを表現してみたらしい。
言われてみればそうかもしれないけど、この味はあり得ない。




「う~…なにか、ないかな…」

彼女は動物のようにうなりながら、クラッカー料理のレシピに頭を痛めている。



僕は、テーブルにあった何も載せないままのクラッカーを口に運んだ。
あっさり味でさくさくしておいしい。
僕は、このままの方が好きなんだけどな…
そう思いながら、早く、彼女に別のブームがやってくることを心の中で密かに祈った。 
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