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それでも君を愛せて良かった

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「父さんは本当に何もわかっちゃいないんだな。
 男と女の出会いなんてどこにでも転がっている。
 好きな女が出来りゃ、どんなことをしたって会いにいくもんだ。」

 「そんなこと…
まさか、あのアベルに……」

 「良いか、父さん。
 昨夜、あいつは眠いって言って早くに部屋に戻った。
 俺はあいつともっと話したかったんだけど、仕方がないから俺も部屋に戻って眠ったんだ。
だけど、夜中に目が覚めたんであいつの部屋に押しかけた。
そしたら、そこにあいつはいなかったんだ。
しばらく待っても戻って来ない。
こんな夜中にどこに行く?
 俺は、庭を探したがあいつはいなかった。
 家に戻ってふと地下室のことを思い出して、行ってみた。
そしたら、地下の物置きの奥の方から声が聞こえて来たんだ。」

 「声…?」

 「あぁ…アノ声がな…」

 「ケイン!お、お、おまえはそんなことをして恥ずかしくないのか!」

 「俺だってなにもずっと聞いてたわけじゃないさ。
アベルが女を引きずり込んでるってわかったから、すぐにその場を離れたさ。」

 眉間に皺を寄せ、黙りこんでしまった父親を横目でみて、ケインは小さく肩を揺らした。



 「別にそんなことどうだって良いじゃないか。
 父さん、あいつはもう二十歳なんだぜ。
 俺は、この家を出るずっと前から遊んでたことを知ってるんだろ?
 今のあいつよりもっと若い頃から…」

 「……おまえとあいつは違う。」

 低く吐き出されたその声に、ケインは口端を歪めた。



 「……そう言うと思ったよ。
だから、俺はわざわざこうやって父さんに教えてやったんだ。
 父さんがそんな風に決め付けてるから、あいつは彼女のことも秘密にしてるんだ。
もっとオープンにしてやれるように、父さんもあいつの見方を変えてやれよ。
ずっと良い子を続けさせたら、あいつが可哀想だぜ。」

 「わ…私はなにもアベルに女性との交際を禁じているわけじゃない。」

 「父さんには自覚がないだけさ。
あいつは父さんの望む良い子でいようとしてる。
だから、女のことも言えない。
……あいつをもっと自由にさせてやってくれ。
あいつも俺も変わりないんだって、わかってやってくれ。」

 「そんなことはおまえに言われなくともわかってる!」

 「……はいはい。
わかりましたよ。
 俺はもう何も言わないよ。」

ケインは、肩をすくめ、そのまま作業場を後にした。

 
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