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それでも君を愛せて良かった

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 「アベル…すまないけど、なにか手土産になりそうなものを買って来てくれないか?
……そうだな、葡萄酒が良い。
それと、パイが良いな。」

 「なんだ、ケイン。
アベルは仕事中だぞ。」

 「頼むよ。
 何も隣町まで行ってくれって言ってるんじゃないんだ。
そんなものならここの市場にもあるだろう?」

 「良いよ、兄さん。
 僕、市場に行って来るよ。」

 「すまないな、
じゃ、アベル、これ。
 余ったら、おまえもなにか好きなものを買って来ると良い。」

アベルは、ケインから金を受け取り、部屋を出て行った。




 「ケイン、アベルばかりをこき使うな。
 先日もおまえは朝までアベルを起こしてたらしいじゃないか。
それに昨日だって…」

ケインは、父親の前に片手を差し出し、言葉を遮った。



 「父さんに話したいことがあったから、あいつを使いに出させたんだ。」

 「話?アベルには聞かれたくないことなのか?」

 「……まぁね。」

ケインは意味ありげな笑みを浮かべ、煙草に火をつけて白い煙を吐き出した。



 「ケイン、アベルがどうしたっていうんだ?
 私も仕事があるんだぞ。
つまらないことで煩わせるのはやめてくれ。」

 「相変わらず父さんは俺には冷たいんだから。
……ま、そんなことはどうだって良い。
 父さん……アベルには女がいることを知ってるかい?」

 「アベルに女が?
……ケイン…馬鹿なことを言うな。
あいつはおまえと違い、真面目で晩熟なんだ。
それにあいつに女がいたら、俺が気付かない筈がないだろう?」

その言葉に、ケインは大きな声を上げて笑った。



 「やっぱり気付いてなかったか。
 父さん、俺、あいつと会った時に、なんか雰囲気が変わったって思ったんだ。
 大人になった感じがした。
それは年を取ったからじゃないぜ。
でも、父さんの話ではあいつには特に変わったことはないってことだった。
 仕事を覚えてきたことがあいつの自信に繋がったんだろうって、父さんは言ったよな。
でも、俺はそうじゃないって思ってたんだ。
きっと、あいつには好きな女がいるって直感的に感じたんだ。」

 「そんなことはない。
あいつは、出掛けるといってもせいぜい隣町だ。
しかも、それだって月に一度あるかどうかだ。
あいつはほとんどずっと家にいて、女から手紙が来るようなこともない。
そのあいつにどうやって女が出来るっていうんだ。」
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