十五の石の物語

the past story

３１

結婚式の前夜…

（…私は、ついにあの男の妻になるのね…もう逃れる事は出来ないのね…）

ベルの心はもうすでに生きてはいなかった。
この肉体も死んでしまいたいと思うのだけど、そんなことをすれば、ルノーはロジェに腹いせをするかもしれない。
あの男の言いなりにさえなっていれば、ロジェに被害が及ぶことはないのだ。
今日の昼間もルノーが飛び出してロジェになにかするのではないかと気が気ではなかったが、ベルは自分の身体を武器におとなしくさせたのだった。

どこかにでかけていたルノーが上機嫌で帰ってきた。
へたくそな鼻唄にベルは眉をひそめる。

 「ご機嫌ですのね。」

 「あぁ…悪い子にお仕置きをしてきたのでな。
これで気分よく眠れるというものだ。」

ベルの背中に冷たいものが走った。

 「一体…誰に何を…」

 「おまえは骨が砕ける音を聞いたことがあるか？
 骨が砕ける時に叫ぶ男の声を聞いたことがあるか？
どちらもなかなか面白いものだぞ。」

ベルは足が震え、目眩を感じた。

 「どうしたのだ？
そんな顔をするな。
おまえの愛する男なのだ、私も情けをかけ、ひどいことはしなかった。
ただ、指の骨を全部砕いてやるだけで許してやったのだぞ。
 本来ならば、そんな程度ではすまないのだがな。
 私は心の広い男だからな。」

ルノーの行為を考えると胸が悪くなり、ベルは洗面所にかけこみ、何度も吐いた。

 悪魔だ…
あの男は人間ではない…
とうとう、私はロジェを守ることが出来なかった…

（…ごめんなさい、ロジェ…とうとうあなたを守りきることが出来なかった…

 …もうすべては終わったのね…）