十五の石の物語

the past story

２７

コンコン！

 「申し訳ありません。
ベル様にお客様が訪ねておいでです。」

 「誰だ！こんな時に…」

 心を失いかけたベルは、またけだもののされるがままになっていた。

 「ロジェ様とおっしゃる方が…」

 「！…ロジェ……」

その名前を聞いたとたん、ベルの心の中には感情が甦り、涙がとめどなく流れて落ちた…

「あぁ、あの男か…」

ルノーはおかしそうに微笑んだ。

 「今更、何をのこのこと…
おまえはもう身も心もこの私の妻なのだというのにな。」

ルノーは勝ち誇ったように笑っている。

 「…少しだけ会って話をして来ます…」

 会いたい！
ロジェに会いたい！
こんなことになってしまったからにはもう許してはもらえないかもしれないけれど、ロジェに会いたい！
ほんの一言でも良い…会って話をしたい…！
ベルの想いはただそれだけだった。

 「ほぅ…おまえはまだあんな男に未練があるというのか…」

 「違います！
 彼には…別れを告げたいだけです…」

 「…あいつは町外れの小さな店で細工職人をしているそうだな…」

 「なぜ、そのことを…」

 「そんなことは調べればすぐにわかることだ。
…なかなか良い腕をしているそうではないか。」

ルノーの瞳が冷たく光る。
この男、何か、良からぬことを考えているに違いない…ベルは身を震わせた。

「お前だけでは心細いだろう、私もついていてやろう。
そいつをここへ通せ！」

 「えっ！」

もうベルにはこの場の雰囲気を取り繕うことは出来なかった。
ここで何をしていたか…それはすぐにわかってしまうことだろう…
すぐにロジェは部屋に連れてこられた。
部屋に入るなり、ロジェの表情が変わったことにベルはいやでも気がついた。