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the past story

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「ベルはそんな女ではありません。
お母さんのことを大切にし、一生懸命に働いて…」

 「…あんたも私も騙されてたのさ。
いや、もしかしたら最初は確かにそうだったのかもしれない。
しかし、かわっちまったんだよ。
あの子はきっと金に目がくらんだんだ。」

 「金に…?
それはどういうことなのです?」

 「あの子はラカーユ家の馬鹿息子と結婚が決まったそうだよ。」

 「…まさか…!
そんなことありえない。
 僕たちは来月結婚することになっているのですよ。」

 「だけど、事実なのさ。
さっき、ラカーユ家の者がそう言ってたからね。」

 「嘘だ!…ベルは?ベルはどこにいるのです?」

 「ベルはここにはいないよ。
ラカーユ家の者が金を持ってきて、これで母親の葬儀を済ませろと言ってきたよ。
ベルはもう母親のこともあんたのこともどうでも良いのさ、これから貴族の家で面白おかしく暮らしていけることで、心がいっぱいになってるのさ…
そういえば、あの子の薬指にはものすごく大きな指輪が光ってたね。
あれはきっとルビーだよ。」

 「…嘘だ…そんなこと…
ベルに限ってそんなことありえない…
きっと何かの間違いなんだ。」

 「あんたも気の毒にね…
でも、これが真実なのさ…
今、ここにベルがいないことがその証じゃないかね?
あの子はね、肺炎で意識をなくした母親をほっといて、隣の部屋で平気で男と寝るようなすれっからしなのさ…
私もその姿を見た時は我が目を疑ったさ…」

 「………嘘だ…」

…信じられるわけがなかった。
あのベルが…働き者で人一倍親孝行だったあのベルが、そんなことをするわけがない。

…しかし、この女性はなぜそんな嘘をつく必要があるのか…
そして、ベルはなぜこの場所にいないのだ…?

ベルのことを信じる気持ちは強かったが、どこかに信じきれない気持ちもあり、ロジェは混乱する。

(……指輪……!)

ベルは仕事中に傷でも付けては大変だから…と、ロジェが贈ったムーンストーンの指輪は結婚式まではめないで保管しておくと言っていた。

 (部屋に置いてあるのだろうか?)

ベルの部屋に入ったロジェは息が詰まりそうになった。
いつも綺麗に整理整頓されていたその部屋…
ベッドの上だけが激しく乱れていたのだ…

(……まさか……!!)

ロジェはラカーユ家を目指し、家を飛び出した。
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