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the past story

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朝になると、馬車がベルを迎えに来た。
 魂の抜け殻のようになってしまったベルは、促されるままに馬車に乗り、ラカーユの屋敷に運ばれた。

 「どうかしたのか?」

ベルの異変に気づいたルノーが声をかけた。

 「母親が亡くなったのだな?」

 無表情のベルはこくりとうなづいた。

 「そうか、そうか。
さすがはエーメ医師だな。
 死期を悟るのにも間違いがない。」

そういうと、ルノーはおかしそうに笑った。
そんなルノーの非礼にももうベルは何も感じなくなっていた。
 母の死はそなわち自分の死でもあったのだ。
ルノーに汚された自分は、もうロジェの元へ帰ることも出来ない。
すべては終わってしまったのだ…

------------------------------------------------

ロジェは旅先でみつけたヴェールを手にベルの家を目指した。
 今頃はちょうど昼休みで自宅へ帰っているはずだ。
 早くこのヴェールを見せてあげたい。
ベルはどんな顔をするだろう…?
ロジェの心の中は幸せに満ち溢れていた。

ベルの家に着くと、なにやら様子がおかしい。
 何人もの人が出入りをしている。

 「あの…ベルの家で何かあったんでしょうか?」

 「…あぁ、あの子の母親が亡くなったんだよ…」

 「えっ!お母さんが…!!
…それで、ベルは今どこに?」

 「あ、あんたは…」

 声をかけられ振り向くと、以前、何度か顔をあわせたことのある隣家の女性が立っていた。

 「あんた、確かあの子の婚約者のロジェさん…だったよね。」

 「はい。
 僕がいない間に大変なことがあったのですね。
お母さんは急に悪くなられたのですか?」

 「あぁ…これもすべてはあのあばずれ娘のせいさ!」

 「あばずれ…?」

 「あぁ、あの子はね、今まで猫をかぶっていたんだよ。
おとなしい顔をして…とんでもない女さ!
 男と遊んで帰って来ないあの子を探しに出てイヴォンヌさんは肺炎になっちまって…」

 「…ちょっと待って下さい。
 誰があばずれだというのです。
まさかベルのことではありませんよね?」

 「そうさ、あのベルのことさ!」
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