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the past story

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「残念ですが、今夜が山でしょうな。」

 医者は冷たくそう言い放った。

 「なんですって?!」

 「どうにもこうにも身体が弱りきっている。
そこへ肺炎を併発してしまったのでは、私にももうどうすることも出来ません。
 一応、処置は施しましたが、あとはこの方の体力がどこまで持つかですな。」

そう言うと、医師は看護婦を連れ、家を出てしまった。

 「残念だったな。」

 「…ルノー様…今夜は…今夜だけはどうか母の看病をさせて下さい…」

 「…好きにするが良い…」

ルノーは馬車に乗り、屋敷へ戻った…

イヴォンヌは相変わらず苦しそうな息遣いをしていた。
 冷たく絞ったタオルは、すぐに生温かくなってしまう。
ベルにはタオルを取りかえることと、か細い母の手を握りしめることしか出来なかった…

「可哀想な母さん…
私が昨日帰れなかったからこんなことに…
ごめんなさい…
母さん、私を許して…」

 「……べ…ベル…」

 「!…母さん!
 気が付いたの?!」

 「…ベル…いるのかい…
わ、私は…もうだめかもしれない…
 …苦労ばかり…かけて…すまなかったね…」

 「母さん、何を言ってるの!
そんなことよりしゃべっちゃだめよ。
 苦しいのでしょう?」

 「…ベル…どうか、これからは…し、幸せに…幸せになるんだよ…」

 「母さん!何を言ってるの!
 新しい家には母さんも一緒に行くのよ!
 何、気弱なことを言ってるの!」

イヴォンヌがふっと微笑んだように見えた…

「…そうだった…ね…ありがとうよ…ベル…
どうか…幸せに…」

 握りしめていた母の手から急に血からが抜けたのを感じた…

「……母さん……?
 母さん!
 母さん~~!!!」

…イヴォンヌはひっそりと息を引き取った…
若い頃からずっと苦労を重ねてきた母…
これからやっと楽をさせてあげられると思っていたのに…

 …この世のすべてが終わってしまったような…ベルはそんな気持ちになっていた…
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