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the past story
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ベルの指におさまっていたのは、とても大きなルビーだった。
ベルの華奢な指には不似合いなそのルビーは、内に十字を抱き、さながら地上に落ちた赤い星のようだった。
「見事なものだろう。
これほど大きなルビーは、この国にもきっと2つとないだろう。
おまえは本当に幸せな女だな。」
一瞬、ルビーに目を奪われてしまったベルだったが、事の重大さに気付き、あわてて指輪を抜き取ろうとした。
しかし、その手をルノーに制された。
「何をする!」
「ルノー様、お離し下さい!」
「なぜだ!」
手を振り払おうとするベルの頬をルノーの大きな手が叩いた。
「こんなにしてもらっておいて、何が不服だというんだ!」
ルノーはさらにベルを殴りつけ、激しく足蹴にした。
「よせ、よさないか!ルノー!」
ラカーユは使用人を呼び、3人がかりでやっとルノーを押さえ付けた。
呼吸を乱し、鼻と唇から血を流すベルをアンヌがそっと抱き起こす。
「ベル!おまえがおかしなことを言うからそんな目にあうのだ。
おまえは一体何が不足だというのだ!」
ベルはハンカチで血を拭うと、涙にうるんだ瞳で話し始めた。
「…申し訳ありません、ご主人様…ルノー様…
今回のお話は身に余る光栄ではありますが、実は私には将来を誓った人がいるのです。
その人と来月には結婚することになっているのです。
第一、私のような者はルノー様にはふさわしくありません。
身分が違いすぎます。
どうぞ、私のような者のことは忘れ、お家柄にふさわしい方とお幸せになって下さい。」
「なんだと!
おまえが結婚?
それはもしかしたら、あのロジェとかいう男か?」
「…はい。そうでございます。」
「このラカーユ家の私の求婚を断り、あんな名誉も地位も金もない男を選ぶというのか!
なぜだ!
私があの男よりなにか劣っているとでも言うのか!」
「めっそうもございません。
先程ももうしました通り、ルノー様には私のような女はふさわしくございません。
身分違いです。
私には、ロジェ程度の男が釣り合っているのです。」
愛する人のことをそんな風に言いたくはなかったが、ルノーは狂暴な男だ。
自分だけならともかく、ロジェにも危害を加えてはいけないと、とっさに口をついて出た言葉だった。
ベルの華奢な指には不似合いなそのルビーは、内に十字を抱き、さながら地上に落ちた赤い星のようだった。
「見事なものだろう。
これほど大きなルビーは、この国にもきっと2つとないだろう。
おまえは本当に幸せな女だな。」
一瞬、ルビーに目を奪われてしまったベルだったが、事の重大さに気付き、あわてて指輪を抜き取ろうとした。
しかし、その手をルノーに制された。
「何をする!」
「ルノー様、お離し下さい!」
「なぜだ!」
手を振り払おうとするベルの頬をルノーの大きな手が叩いた。
「こんなにしてもらっておいて、何が不服だというんだ!」
ルノーはさらにベルを殴りつけ、激しく足蹴にした。
「よせ、よさないか!ルノー!」
ラカーユは使用人を呼び、3人がかりでやっとルノーを押さえ付けた。
呼吸を乱し、鼻と唇から血を流すベルをアンヌがそっと抱き起こす。
「ベル!おまえがおかしなことを言うからそんな目にあうのだ。
おまえは一体何が不足だというのだ!」
ベルはハンカチで血を拭うと、涙にうるんだ瞳で話し始めた。
「…申し訳ありません、ご主人様…ルノー様…
今回のお話は身に余る光栄ではありますが、実は私には将来を誓った人がいるのです。
その人と来月には結婚することになっているのです。
第一、私のような者はルノー様にはふさわしくありません。
身分が違いすぎます。
どうぞ、私のような者のことは忘れ、お家柄にふさわしい方とお幸せになって下さい。」
「なんだと!
おまえが結婚?
それはもしかしたら、あのロジェとかいう男か?」
「…はい。そうでございます。」
「このラカーユ家の私の求婚を断り、あんな名誉も地位も金もない男を選ぶというのか!
なぜだ!
私があの男よりなにか劣っているとでも言うのか!」
「めっそうもございません。
先程ももうしました通り、ルノー様には私のような女はふさわしくございません。
身分違いです。
私には、ロジェ程度の男が釣り合っているのです。」
愛する人のことをそんな風に言いたくはなかったが、ルノーは狂暴な男だ。
自分だけならともかく、ロジェにも危害を加えてはいけないと、とっさに口をついて出た言葉だった。
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