十五の石の物語

the past story

１０

（…私ったら欲張り過ぎだわ…）

 気を取り直して家路に着いた。
ちょうどいつもと同じような時間だ。

 「母さん！」

 「あら、ベル…おかえり…」

 「駄目じゃないの！起きたりして。」

 「大丈夫だよ。
 最近なんとなく気分が良くてね。」

 「そんなこと言って…
本当に大丈夫なの？」

ベルは母親の肩にそっとショールをかけた。

 「ありがとうよ…
ベル…帰ってきた早々悪いんだけど…
屋根裏からちょっと取って来てほしいものがあるんだけど…」

 「良いわよ。でも、屋根裏に何があるの？」

ベルは母親の言いつけ通り、屋根裏に上ると奥から大きな箱を持ってきた。

 「母さん、すごいほこり！
 何なの？この箱は？」

 「本当だね。ずいぶん長い間、放っておいたからね。
 一体、どうなっているだろうねぇ…」

ベルの母は、箱のほこりを払い除けながら、箱の蓋を開けた。
 中には薄い紙に包まれたものが入っていた。

 「まぁ、これは…！」

 「…良かった…思った程痛んじゃなさそうだね。」

 母親が箱から取り出したもの…
それは真っ白なウェディングドレスだった。

 「母さん、それはもしかしたら母さんの…？」

 「そうだよ。
 私が結婚した時のもんなんだよ。
 私の父さんが無理して買ってくれた生地を、母さんが縫ってくれたものなんだよ。
そんな高価なもんじゃないけど、私の両親にとっては精一杯のことをしてくれたんだ。
だから、こうして思い出にとっておいたんだよ。」

 「そうだったの…」

 「本当はお前には新しいウェディングドレスを買ってやりたかったんだけど、残念ながらそれは出来そうにない…
どうしたものかと考えていた時にこのドレスのことを思い出したんだけど、もうずいぶん昔のことだから着れるかどうかもわからなかったんだけどね…」

 「これなら今でも十分着れるわよ！
 私の方がちょっと背は高いけど、ほらこの程度ならなんとかなるわ！」

ベルはドレスを自分の身体にあてて見せた。

 「そうだね。そのくらいならちっともおかしくない。
そうだ！ベル！
 裾に真っ白なレースを付けてみてはどうだい？そうすれば長さも良くなるし豪華にも見えるようになるんじゃないかい？」

 「それは良い考えだわ！ついでに襟ぐりにもレースを付けましょう！
そうしたら、きっと素敵なドレスに生まれ変わるわ！」

 諦めていたウェディングドレスを着る事が出来る…！
ベルは天にも昇るような気持ちだった。

 （私は本当に幸せ者だわ…
世界一の幸せ者だわ…！！）