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the past story

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「ベル、旦那様がお呼びだよ。」

 「はい。わかりました。」

 (…旦那様がお呼びになるなんて珍しいことだわ。
 私、最近何か粗相をしたかしら…?)

 思い当たることはなかったが、少し不安を感じながら主の元へ急いだ。

コンコン

「旦那様、ベルでございます。
お呼びでしょうか?」

 「お入りなさい、ベル。」

 夫人がベルを部屋に招いてくれた。
 部屋の中には、主と息子のルノーがいた。

 「そこへ座りなさい。」

 何事かと不安そうに立っているベルに、主は自分達の前の長椅子にかけるように促した。
ベルはすすめられるままにおずおずと腰かける。

 夫人も主もなんとなく機嫌が悪そうだ。

 (…私…何をやらかしてしまったのかしら…?)

 2人の表情を見て、ベルの不安は大きくなっていく。
 気まずい沈黙の後、夫人が最初に口を開いた。

 「あなたって、本当に幸せものね…」

 「え…?」

…一体、何のことだろう?
もしかして、ロジェとの結婚のことを誰かに聞いたのだろうか…?
 結婚のことはまだほんの数人にしか言っていないのに…

夫人はベルのことを刺すような目つきでみつめながら言葉を続けた。

 「ルノーがあなたと結婚したいと言ってるのよ…」

 「えっ!!」

ルノーはニヤニヤと上目遣いで微笑んでいる。

 (…まさか…!)

 実は、ベルはこの男が大嫌いだった。
 家には3人の息子がいたが、中でもこのルノーは末っ子ということで特に甘やかされて育ったせいか、我儘がひどく、町に出ては度々見苦しい事件を起こし、その度に父親が金の力でそれらを揉み消してきたのだった。
 粗暴で嫉妬深く、さらに執念深く、気にくわない者には容赦をしない非情な男だった。
その性格は顔付きにも現れている。
 冷ややかな細い瞳は微笑んでいる時も優しさを感じない。
 過食によりでっぷりと太り脂ぎった身体にはいつも趣味の悪い服を纏っていた。
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